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エネミーロール【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】  作者: えたーなる・ばけーしょん
第3話 砦を守るゴブリンたち【1-13-EX】
32/43

ぼっち・ざ・ろーる


「勝利後の草餅は格別だな。うまうま」


 本日のノルマを達成したオレは街に戻り、行きつけの露店でENを補給。蓬餅みたいで程よい甘さだ。


「これが師匠おすすめの……甘味?」

「…………苦っ!」


 いつもは一人だけど、今日は渋い顔をしたジッキーとスフィアがいる。


「……はぁ、お酒飲みたい」

「どうしたジッキー。現実逃避か?」

「さっきの配信ブーイングと低評価の嵐でメンタルがズタズタなんですよ。お気に入り登録も全然増えないし……」

「そんなの配信者なら良くあることだろ」


 お前のせいだーって感じの視線を向けてくるが知ったこっちゃない。飛行能力を持つ者同士の戦いは基本的に空が戦場になる。それを想定していなかったジッキーのミスだ。


「師匠。飛ぶのに役立つアイテムある?」

「魔力草の飴は便利だぞ。舐めている間はEN自動回復量を増やすヤツ」

「――えっ。ものすごく苦いっていうアレですか?」

「その苦さがクセになるんだよ。軽いからたくさん持ち運べるし飛行時間も50%くらい増える。ちなみにこの露店に売っているのは有能だぞ」


 ピンク髪の女店主が「どんどん買っていってねー」とニコニコ顔で手を振ってくる。彼女は生産職のプレイヤーだ。


「なるほど。師匠の速さは苦味を超えた先……。……まずい、もう一個」


 まるで青い汁の宣伝文句だ。


「食べ物以外でEN消費を減らすなら、やっぱり飛べる魔物のテイムだな」

「――wW!」


 ストレージからノジーが勝手に飛び出してきた。

 ……自己アピールだろうか? ノジーは百裂パンチやドリルキックを繰り出したり、空中で踊ったりながら少しずつスフィアに近づいていく。


「――ちょっと待てノジー! お前スフィアの竹箒を食おうとしていないか?」

「w~w~」


 踊るのをやめてこっちを向いたノジーの目が『ノー』に変わっている。……怪しい。


「……ノジー。戻れ」

「w…………」


 ノジーが渋々の態度でストレージに消えていった。


「ラビィさんの案山子って個性がありますね」

「飛ぶのにENを消費するから食いしん坊だな。毎日、竹箒を食わせろと要求してくる。……それでも竹箒自体は安いから他の使役獣と比べたら圧倒的にコスパがいい」


 プレイヤーを乗せられる魔物は基本的にサイズが大きい。世話するだけでも結構お金がかかる。


「テイマーで飛ぶなら餌代には注意だな。特に使役数を増やすなら金策しないと詰むぞ」

「そうする。――うっ!」


 スフィアが苦々しい顔で草餅を頬張った。

 無理して食べなくてもいいのに……。


「もきゅ~!」


 リボンを付けた真っ黒な一角ウサギがぴょんぴょん跳ねながらやってくると、露店の前で立ち止まり、草餅を見上げて鳴いた。

 コイツがいるってことは……。


「――あっ! ラビィちゃん!」

「…………よぉ。アリス。久しぶりだな」


 戦闘狂っぽい不敵な笑みで挨拶を交わす。

 オレのイヌカウルフをテイムしたとき以来だな。アリスの装備がさらに更新されて黒色で統一されたモノに変わっている。


「こんなところで何をしているんだ?」

「くーちゃんのおやつを買いに来たの。ここの草餅が大好物なんだ」

「――もっきゅん!」

「はいはい。今から買うからちょっと待っていてね」


 くーちゃんがアリスの爪先をふみふみして急かしている。

 ……オレのAIだから味の好みも似てくるのか?


「そういえば。リリィの姿がないけど今日は一人なのか?」

「お姉ちゃんなら風邪を引いて寝ているよ」

「へぇ。あいつがおとなしく寝ているなんて珍しい」

「お母さんにゲーム機を没収されちゃったからね。……でも夢の中でもゲームしているみたいだよ。布団の中で“間違えて初期化”とか“復旧が終わってない”とか“ランクが落ちる”ってうなされていたから」


 間違いなく悪夢だ。現実でやらかしたらオレだって滅茶苦茶凹む。夢オチでよかったな!


「……あの、アリスさんってリリィさんの妹さんなんですか?」

「そうだよ。リリィはわたしのお姉ちゃん」

「ジッキーはパーティーを組んだのに知らなかったのか?」

「妹がいるとは聞いていましたよ。……でも、まさか黒世界のアリスだとは思いませんでした」


 ……黒世界? 何それ二つ名?


「アリスって有名なのか?」

「はい。最近になって頭角を現してきた期待のテイマーです。黒い魔物たちを従えていて、その中でも黒のヴォーパルと呼ばれる一角ウサギは別格。たった1羽で砦を守るゴブリンを撃破した動画が上がっています」

「……お前、そんなに強かったのか」

「もきゅ?」


 草餅を齧っていたくーちゃんがオレを見て首をかしげた。


「師匠。黒のヴォーパルは人気」

「今はイベントもないですからね。暇を持て余したプレイヤーが黒のヴォーパルをテイムするためにこの街に押し寄せているみたいですよ」

「でも本物を見つけるのは難しい」

「黒くて小さい一角ウサギはフィールドにたくさんいますからね。しかも人気に便乗して見た目とステータスをコピーした偽物が溢れてきて厄介なことになっています」


 ……まぁ。オレだって話題になったステータス構成や戦術は試したりするし、ゲームではよくあることなので偽物が登場しても特に嫌悪感はない。

 本人が操作しているラビィよりも有名になっているのは解せないけどな!

 でも、みんな頑張りすぎだろ。現在のエネミープレイヤーが約1500人でエンカウント登録できるのが一人につき3羽。本物に出会える確率は単純計算で1/4500。オレなら諦める。


「ねぇ、ラビィちゃん。わたしのホームに遊びに来ない? 新しくテイムした子がいるんだ。もっふもふだよ」

「――ぜひお願いしますアリスさん! そしてその子たちの魅力を全世界に配信しましょう」

「何でジッキーが答えるんだよ」

「アニマルビデオは一定の需要があります。そして黒世界のアリスが登場するなら確実に稼げます!」


 ……うわっ、ジッキーの目が¥になってる。さすがにこれは止めといたほうがいいか?


「ジッキーさん。わたしの取り分はいくらになる?」


 ――マジ!? アリス乗り気!


「五割……いや、六割でどうですか?」

「実は拠点を買ったのはよかったんだけど維持費で困っているの。しかもお姉ちゃんが風邪をひいちゃって、わたしだけじゃどうしても厳しくて……」

「わかりました。七割で!」

「交渉成立です」


 アリスとジッキーが硬い握手をした。

 ……本当にこの子は10歳なのか?


   × × ×


「スゴイです! なんていう広さでしょう! なんていう広さなんでしょう!」


 配信中のジッキーが語彙を失って拠点の広さをひたすら強調している。

 たしかにアリスのホームは広かった。1キロ四方の広大な土地に草原、水辺、森、荒野、砂漠などの環境の違うセクションが詰め込まれている。きっとここで暮らす魔物たちは快適だろう。

 ちなみにハジマーリの街の何処にこんな土地が? という疑問は“ゲームだから”で納得するしかない。


「広すぎて魔物の姿が見当たらないな。アリスは何体テイムしたんだ」

「まだ6体だよ」

「おいおい。それでこんなデカいホームを購入したのか? もっと小さいホームで良かっただろ」

「お姉ちゃんが“どうせ買うなら一番いいヤツ!”って張り切っちゃって」


 ……妹の前で見栄を張ったのか。


「みんなーっ! ごはん買ってきたよー!」

「がうぅうぅぅうううう!」

「くまー!」


 アリスが生肉の入った大皿を地面に置いて呼びかけると、5体の魔物たちが全力で走ってきた。

 先行している4頭がイヌカウルフだ。一番大きい黒いのがリーダーのクロ。他の3頭がイチゴ、ニーゴ、サンゴなんだけど、全員が黒い毛皮に色変更されている。

 少し遅れてやってきた最後の1頭は成人男性くらいの大きさで黒い毛皮のモリノベアー。コイツは名前のとおり熊タイプの魔物で筋力と耐久性能が高い。


「――みんな。整列してお座り!」


 魔物たちが一列に並んでお座りの体制になる。

 キリッとした顔をしているが、生肉を前にして口からよだれを垂らしていた。


「ラビィちゃん紹介するね。新しく仲間になったクロクマちゃん」

「くまーっ!」


 挨拶する黒いモリノベアーの姿にオレは苦笑してしまった。

 ……コイツもオレが調整した個体だよ。まさかお前もアリスにテイムされてしまうとは思わなかったぜ。


「それじゃ、食べてヨシ!」

「「「「がうっ!」」」」

「くまっ!」


 アリスの許可で5体の魔物が一斉に生肉を齧り始めた。

 くーちゃんだけは草食なのでそこら辺に生えている草を……って、さっき草餅を食っていたのにまだ食ってる。大食い系の能力でも追加されたのか?

 ……とりあえず、オレのAIたちが問題なく馴染んでいるようでよかった。それを確認できただけでも同行した甲斐がある。


「特殊個体は黒い魔物しかいないんですね。アリスさんは黒色にこだわりがあるんですか?」

「特にこだわりはないよ。クロをテイムしたとき折角だから黒で統一しようかなって感じだったし。――あっ、お姉ちゃんに薦められた白い魔物はちょっと嫌だったな。行動が変だったり監視されているみたいで気持ち悪かった」

「テイムするときは気を付けてくださいね。胸に飛び込もうとするエッティーナ魔物とかたまにいますから」

「スカートだと覗いてくる」


 心の中で釈明しておこう。

 鉄壁ガードのスカートだから中は絶対に見えないぞ! 胸のほうは急所に設定されているから仕方がないんだぞ!

 その後もオレたちは雑談したり魔物たちと遊んだりしてジッキーの配信はつつがなく進行していった。


「ジッキーさん。配信ってどのくらい稼げるの?」

「ボクの場合は毎月ストロングを箱買いできれば上出来ですね」


 ……おいおい。アリスはまだ10歳だぞ。もう少し年齢に配慮した表現を使えよ。


「たぶん二つ名持ちのアリスさんならホームの維持費くらいは余裕で稼げると思いますよ。くーちゃん単体でボスを撃破した動画の再生数は凄かったじゃないですか」

「あの動画が凄かったのはお姉ちゃんが頑張って編集したからだよ」


 妹の活躍を後世に残すため、徹夜で作業するリリィの姿が目に浮かぶぜ。……きっと頑張り過ぎて風邪を引いたんだろうな。


「それに魔物を倒すだけって見ていて飽きないのかな?」

「大丈夫ですよ。可愛い女の子が無邪気にキャッキャッウフフしているだけで視聴者は満足します。少なくてもボクは大満足です!」


 ジッキーの鼻息が荒い。

 もしも変(態)な行動をしたらすぐに通報しよう。


「――そうだ! ラビィさんと組んで配信したらどうですか? 同い年くらいのお友達……これはボクに需要があります!」

「断る。オレは世界最強を目指す孤高の戦闘狂だ。そんなことをしている暇はないし、そもそもアリスとは友達じゃない」

「……えっ? わたしたち友達じゃなかったの?」


 なぜならオレ達は敵同士の運命。

 ……って、おい! 泣きそうな顔をするな。良心が抉られる!


「――だ、だってオレ達はフレンド登録をしていないだろ! ちなみにオレのフレンド登録人数はゼロだからな! つまりオレの友達はゼロだからな!」


 フレンド登録=友達。

 この設定ならきっとアリスも理解してくれるはずだ。


「あー、なるほど。そういうことですか」


 どうしてジッキーが納得する?

 ジッキーはニマニマ笑いながらアリスに耳打ち。

 二人は視線を合わせ、頷き合うとこっちを見た。


「ラビィちゃん。フレンド登録しよう」


 ……どうしよう。

 これは「裏切ったな! 友達だと思っていたのに!」って感じの悪役ムーブができるけど、アリスが絡むと面倒臭い姉の対策が必要になるワケで。

 ――もう、バトルで決着付ければいいか! 勝ったほうが正義! 戦闘狂としてはそれが正しい!


「あとで後悔しても知らないぞ」

「大丈夫。後悔なんてしないよ」

「勝手にしろ」

「うん、そうする。これでわたしたちはお友達だね」

「素直じゃないラビィさん。……あぁ、尊い。そうですよ、ボクはこういうのを配信したかったんですよ。これさえあれば酒のつまみなんかもう必要ありません」


 おいジッキー。変な勘違いをするな! オレは裏切りフラグを立てたんだぞ!


「師匠。私も登録」

「――あっ、ボクも登録をお願いしまーす」


 ……うわっ、この流れは断りにくい。

 こうなったら裏切りフラグ建てまくってやる!

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