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エネミーロール【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】  作者: えたーなる・ばけーしょん
第3話 砦を守るゴブリンたち【1-13-EX】
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世界最強を目指す戦闘狂の日課


 ハジマーリの街。草原フィールドに続く門。

 今日もオレは定位置を陣取っていた。

 日課の1日1戦。立派な戦闘狂になるための一般プレイヤー狩りだ。


『さて。行き交うプレイヤーたちをハイライトの消えた目で睨みつけている、デッキブラシを持った小さな黒髪のアバターは誰でしょう? ――そう、ラビィちゃんです』

「そのナレーションは誤解を生むぞ。……空を飛ぶけど魔女じゃないし」


 視界端の小窓に映るアイちゃんにツッコミを入れた。


「……で、今日は誰と戦えばいいんだ?」

『あの青い鎧の人はどうですか?』


 これから街を出ると思われる一般プレイヤーがピックアップされた。

 相当ゲームをやり込んでいるのだろう。装備品が高ランクで纏まっていた。――相手にとって不足はない!


 じぃ~~~~~~~~~っ。


 オレは向かってくるターゲットに鋭い視線を送った。


「――ひぃ!」


 ――よし、目が合った!

 あとは相手が街の外に出たらバトルを申し込む!


 じぃ~~~~~~~~~っ。


「……………………」


 さぁ、あと一歩で戦闘エリアだ! 出ろ~、出ろ~。


「…………あっ! 毒消し買い忘れていたぁ~」


 ターゲットが突然の転進。ハジマーリの街へ戻ってしまった。


『逃げられましたね』

「……またか」

『有名になった証拠です』

「そろそろ場所を変えないか? 初心者が多いハジマーリの街より、もっと実力者が多い拠点に行きたい」

『そういう人たちとは既に戦っているでしょう。知名度を上げるには同じ人と戦っていても意味がありません。新規プレイヤーと戦うことも必要です』

「その結果が初心者キラーとか言われちゃって露骨に避けられているんだけどな」


 情報交換所に書き込まれた影響で、最近は対戦相手を探すのも一苦労だ。


「勝負は同意の上。レベルも相手に合わせているし、勝利報酬もキチンと払っているのにどうしてこうなった?」

『1日に50人も倒したアナタが悪いと分析します』

「戦闘狂はバトルが大好きなんだぜっ!」


 最強のアプリ構成を試行錯誤したり、色々な武器を練習したんだから試したくなるのは仕方がない。

 ……ハジマーリが活動拠点になってからは、強い練習相手が見つからなくて試せていないけどな。

 個人的にはプレイヤーに「お前の攻撃は見切った!」と言わせたあとで奥の手でバーンッ! と、お披露目するのが理想。第二形態は隠しておくのがテンプレだ。


「こんにちは。ラビィちゃん」


 次のターゲットを探していると、魔法使い装備の女性アバターが声をかけてきた。

 2日前に勝負した人だ。

 アシストすら使えていない完全初心者で全く勝負にならず、あまりにも酷かったから戦闘の基本をちょっとだけ教えた。……まぁ、アクティブユーザーを増やす活動もエネミープレイヤーの仕事ということだ。

 最後は戦闘狂らしくキチンと止めを刺したけどな!


「この前はありがとう。アドバイスのおかげで安定して魔法が当たるようになったよ」

「……何を言っているんだ? ボコボコにはしたが、お礼を言われるようなことをした覚えはないぞ」

「そういえばツンデレ設定だったね」

「ツンデレじゃない。オレは世界最強を目指す戦闘狂。弱いヤツに興味がないだけだ」

「そういうことにしておくよ。それじゃ、私が強くなったらまた戦ってね~」


 興味なさげにそっぽを向くと、女性アバター笑いながら草原に旅立っていった。

 ……ラビィのキャラ設定。どこへ向かっているんだろ?


「すみませーん。ちょっとお時間いいですか?」


 今日はよく話しかけられる日だな。

 戦闘狂っぽさを強調するためにとりあえず睨んでおく。

 ……って、この前のエキシビジョンで戦ったジッキーか。ラビィとは初対面だから気を付けよう。


「オレは世界最強を目指す戦闘狂だ。それを知っていて声をかけてきたんだよな?」

「はい。ボクはジッキーっていいます。最近話題になっているあなたにインタビューをお願いしたくて。できれば生配信で」

「いいぜ。お前のレベルはいくつだ?」

「えっ? 20ですけど」

「それならオレの変更は必要ないな。所持金が99571ゼニーだから勝利報酬は半分の498……? ――ざっくり50000ゼニーだ!」


 視界内の小窓に意識を集中すると、アイちゃんが正しい金額の書かれたプラカードを持っていた。それ以外は特に指摘がないのでジッキーに決闘の申請が届いているはずだ。


「……あの、決闘ってどういうことですか?」

「バトルで語るのが戦闘狂だ」


 デッキブラシを振り回して軽いウォームアップを始めると、ジッキーの顔が青くなった。


「――ちょっと待ってください。ボクは戦うつもりなんてありません! そもそも戦いながらインタビューなんて無理ですよ!」

「言葉のドッジボールは戦闘を盛り上げたりするから配信で役立つぞ。いい機会だし特訓しておけ」

「ボクがやりたいのは言葉のキャッチボールです!」

「互いの戦闘能力が拮抗していれば自然とキャッチボールになる。……さぁ、同意ボタンを押してオレとバトルだ!」

「無理ですって~!」


 もう少し話を引き伸ばしたほうがいいか?

 オレとジッキーがコントをしている隙に、門の前で渋滞していたプレイヤーたちが「今のうちに行くぞ!」と街の外へ走っていく。

 ……すいません。ノルマを達成したらすぐに移動します。


「……はぁ、キャラ設定を間違えたかな」

「えっ?」

「気にするな、戦闘狂の独り言だ。……で、戦うのか? 戦わないのか? 基本的に1日1戦しかできないから、この機を逃すと次はいつになるかわからないぞ」

「質問いいですか?」

「冥途の土産に答えてやる」

「1日に何度も戦えないのですか?」

「…………そうだ。アイちゃんに“やり過ぎ”だと怒られた」

「ふむふむ。なるほど、つまりあなたの行動はアイちゃん公認なんですね」


 ……よし、渋滞が緩和されたな。残っているプレイヤーは見物みたいだし、これ以上時間を稼ぐ必要はないだろう。


「質問には答えたぞ。――さぁ、バトルだ」

「ちょっと待ってください!」

「オレだって暇じゃない。戦う気がないなら今すぐ失せろ」

「本当にもうちょっとだけですって。そうすればあなたに会いたいって人が来ますから!」

「……オレに会いたい?」

「そうです、そうです」


 そんなプレイヤーいるのか? 物語序盤の街で主人公に絡んでいくような小悪党ムーブしているんだぞ。顔見知りでも距離を置きたくなるだろ。


「――ほら、飛んできました! スフィアさーん!」


 ジッキーの言葉通り、スフィアが竹箒にまたがって飛んできた。


「ありがとう。ジッキー」

「いえいえ、そういう約束でしたので。……残りはエイロナさんの手伝いですね」


 事情はわからないが、ジッキーはスフィアがやってくるまで時間を稼いでいた?

 ……まぁ。そんなことはどうでもいいか。


「久しぶりだなスフィア。戦闘狂のオレにわざわざ会いに来たってことは、勝負がしたいってことでいいんだよな?」

「肯定。あなたとレースがしたい」

「いいぜ。その勝負受けて立つ…………って、レース?」


 こくり、とスフィアが頷いた。


「ヒキャクレース。あなたの記録に追いつけない。私はその速さの理由を知りたい」

「オレは世界最強を目指す戦闘狂だ。速さの理由を知りたければバトル中に技術を盗むんだな」

「それでも構わない」


 即決か。同じ飛行能力持ちだし、面白い戦いになりそうだ。


「オーケー。スフィアのレベルはいくつだ?」

「1」

「設定を変更する。少し待っていろ」


 オレは【レベルコントローラー】を使ってラビィのレベルを1に変えた。他にもアイテムストレージ内の余分な武器を拠点に送って軽量化。プリセットの中から最適なアプリ構成を選んで微調整する。


「……どうしてラビィさんはレベルを相手に合わせるんですか?」

「レベル差でゴリ押しても勝った気がしないだろ」


 隠すことでもないし正直に答えた。

 ちなみにオレのほうが低レベルなら話は別だ。不利な状況で勝ったら超格好いい!


「オレの準備は完了だ。ルールは……ヒキャクレースと同じで回復アイテムの使用は不可。勝利報酬は50000ゼニでいいか?」

「問題ない」


 小窓のアイちゃんもオーケーサインを出している。これで準備は整った。


「あのー、すみません」

「ジッキーも戦うのか? 別にオレは二人同時でも構わないぜ」

「違いますよ。今から二人の戦いを配信してもいいですか? もちろん利益の一部は払います」


 悪くない話だ。いろんな武器に手を出したから金欠気味だし、配信でラビィの存在もアピールできる。


「オレはいいぜ」

「私も構わない」

「――ありがとうございます!」


 ジッキーが【カメラアイ】を起動して「こんにちはー」と配信を始めた。続けて「最近話題の自称戦闘狂~」と状況を説明している間に、スフィアが決闘の了承ボタンを押してカウントダウンがスタートする。


「――さぁ、まもなく戦いが始まります! 飛行能力を持つ者同士、どんな戦いになるのか楽しみです!」

「スフィアは速さの理由が知りたいんだったな。それなら鬼ごっこでもしようぜ。背中を取ったほうの勝ちだ」


 オレは戦闘開始と同時にダッシュ&ジャンプで初速を稼いでから飛行アプリを起動。デッキブラシに跨った。


「そうやって初速を稼いだんだ」


 スフィアは竹箒に跨った状態で離陸してくる。この時点でかなり離れたな。


「――ちょ、二人ともどこへ行くんですか!? そんな遠くまで飛ばれたら何も映りませんよ!」

「飛べない配信者はただの人ってことだ」

「そんなぁ……。――って、これ以上低評価を増やさないで。みんなやめてぇぇぇぇぇぇええええっ!」


 絶叫するジッキーを置き去りにして高度を上げていく。オレは適当に旋回しながら背後にいるスフィアの様子を窺った。


「どうした? もっとぶつけるつもりでいいんだぞ」

「……追いつけない」

「レベルも装備の性能もほぼ同等。普通に飛んでいたら追いつくなんて不可能だぞ。そういうときは重力を利用するんだ」


 高度を下げることで位置エネルギーを運動エネルギーに変換して加速、逆に減速時には高度を上げていく。これならブレーキを使うことなく常に最大出力を維持したまま旋回できる。


「……それと。あくまでこれはゲームだ。Gはあるけどレッドアウトやブラックアウトは存在しない。遠慮なくぶっ飛ばせる」


 オレは旋回を繰り返してスフィアの背中を狙っていく。


「対人戦だと飛行ルートの読み合いもあるけど、……ヒキャクレースはルート固定だから気にしなくていいのか」

「驚愕。後ろを取られた」

「オレがやったのは現実にも存在している技術だ。詳しいことは空中戦闘機動で検索するんだな」

「そうする」


 レベルが低いからもうすぐENが尽きる。そろそろ終わらせるか。

 オレはクイックストレージで右手に槍を装備した。

 

「スフィア。冥土の土産に教えてやる。何度も言うがこれがゲームだということを忘れるな。与えられたルールやシステムを理解して利用しろ」


 オレはデッキブラシ、槍、ヒキャクブーツ、空中ジャンプを駆使した現実ではありえない複雑な動きでスフィアの周りを飛んだ。


「ドヤ顔脱兎をアシストなしの飛行アプリだけで倒せるようになったら、このくらいはできるようになるぞ。……ってことで鬼ごっこは終了だ」


 デッキブラシを収納。フリーになった左手でスフィアの肩を掴んだ。


「一つ、お願いがある」

「今更命乞いか?」

「師匠と呼ばせて」


 ……これはアレだな。後々「裏切ったな師匠!」って感じのストーリー展開ができる設定だ。このフラグは建てて損はない。


「後悔するなよ」


 オレは右手の槍でスフィアの胸部核を貫いた。

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