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エネミーロール【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】  作者: えたーなる・ばけーしょん
第3話 砦を守るゴブリンたち【1-13-EX】
29/43

ダーリン&ハニー2


「ゴブ!(ハニー。爆撃を処理しきれるか?)」

「ごぶーっ!(絶対無理。矢の補充が間に合わないよー!)」


 矢は時間経過で少しずつ矢筒に補充されていく仕様だからどうしようもない。相手の爆弾が尽きるまで耐久するのは厳しいか。


「ご、ぶ、ご、……ぶっ!(残り3、2、1。……なくなったよ!)」

「……矢を使い切った?」

「スフィアさん。ここが攻め時です!」

「――ゴブゴブッブ!(全員オレの下に隠れろ!)」


 強く握りしめた鎖が輝いて鉄球へと伝わる。


「ゴブゥアアアァァァアア!(鉄球フンフン大回転!)」


 鉄球を高速回転させる攻防一体型のスキル。規定の回転数を超えるだけで発動できるからアシストなしでも簡単。爆弾程度の重さなら余裕に弾くぜ!

 

「ゴフッゴフッゴフッゴフッ!(さぁ、どうする?)」

「そのスキルは想定内。……だから」


 スフィアが爆弾を1つだけ投下した。さらに時間をずらしてまた1つ。

 ……これは、ちょっと厳しいかも。


「フンフンディフェンスの欠点。ST消費量」

「フンゴー!(読まれてたー!)」


 鉄球を回している間はSTがゴリゴリ削れていく。ボスキャラだからST値は高めに設定されているけど、このまま続けばST切れでHPを削りながら戦うことになってしまう。


「ごぶご~ぶ!(嫌なタイミングで投下してくるねー。飛び出そうとしたら矢も降ってくるし狙撃は厳しいかも)」


 爆発に巻き込まれるからリリィたちが攻めてこないのが救いだ。

 それでもスフィアに時間を稼がれたらグリィセリンが補給を終えて爆撃継続の永久ループ。それもマズイ!


「ゴブァ!(ハニー。飛んでくれ!)」

「ごぶ!(わかった!)」


 爆弾を弾いたタイミングで鉄球をスフィアに投擲する。

 肩に重みを感じた直後に全力でジャンプ。最高到達点でハニーがオレを蹴って空に上がった。


「ごぶっ!(ちわっす!)」

「――鉄球の後ろから!?」


 鉄球の影に隠れていたハニーに気付いてスフィアが目を見開く。


「緊急加速!」

「ごぶ!(反応が遅いよ! 【空中ジャンプ】)」


 ハニーの足が輝いて方向転換。完全にスフィアを捉えた。

 エフェクトを纏った弓を引いてハニーが笑う。


「ごぶごぶー♪(私の毒はとっておきだよー♪)」


 矢を受けたスフィアの動きが明らかに鈍った。ハニーは落下しながら追撃の矢を放ちスフィアにダメージを与えていく。


「ゴブー!(ハニー!)」

「ごぶ~!(ダーリン!)」


 オレは巨体を揺らしながら落下地点に移動してハニーを受け止めた。


「ゴブッ?(落下ダメージは?)」

「ごぶ!(ノーダメ。ナイスキャッチ!)」


 よし。まだまだいけるな。


「スフィアさん。一度引いてください」

「理解。でもその前に……」


 スフィアが無数の爆弾を一気に落とした。


「いいぞスフィア殿。両手が塞がっている今ならフンフンディフェンスは使えないのである!」

「スタンは無理でも弓ゴブなら倒せるかもしれないっス! リア充爆発っス!」」


 カンチョーたちの言う通りだ。今から鉄球を回しても規定の回転数には届かない。だからオレはハニーに直撃しないように砦ゴブの背を落ちてくる爆弾に向けた。


「ゴブァアアアアアアア!(ハニーはオレが守る! 筋肉開放!)」


 叫んだと同時に爆発に飲まれた。爆風が砦ゴブの皮膚を焼く。

 ……HPがちょっとだけ減ったな。

 音が止んでジッキーの声が聞こえた。


「――やりましたか!?」


 徐々に煙が晴れて視界がクリアに。挑戦者たちが見る光景はマッスルポーズをしているオレと、その下で弓を構えているハニーの姿だ。


「――ゴッブアアァァァァ!(ボディでガード!!)」

「なんと。ほぼ無傷であるか!」

「爆弾は直撃したっスよね? どういうことっスか?」

「【アイアンマッチョル】。それは想定外」


 アーマルドみたいな芸当は無理だけど、ポージングだけで発動できるから余裕で間に合った。砦ゴブを最大サイズにしたおかげでハニーも守れたぜ。


「プロレス、モヒカン、赤パンツ、そしてあのポーズ。……あー、鉄球を持っていたから気付かなかったわ。……というかこのご時世にそれって大丈夫なの?」

「ゴブ!(キャラクターに罪はない!)」


 ちなみに鉄球装備は近付く前に遠距離攻撃でスタンさせられるから苦渋の決断。

 ……さて、反撃開始だ。


「ゴブー!(ハニー!)」

「ごぶ~!(まずは1人目!)」


 筋肉のシェルターから飛び出したハニーが、ふらふらと後退するスフィアの背中に矢を射る。


「……HP全損。撤退する」


 スフィアのアバターが砕け散った。


「ゴブッブ。ゴゴブブゴッブ!(――よし! このまま距離を取って攻撃だ。ハニーは飛行持ち優先で矢を温存。そろそろ補給を終えて飛んでくるぞ!)」

「ごっぶ~!(わかった~!)」


 スフィアが退場したことで空からの常時爆撃はなくなった。これで挑戦者側は戦略の変更を迫られる。

 とりあえずオレたちは鉄球を投げて相手のHPを削るだけの簡単なお仕事だ!


「どっ、どどど、どうしましょうリリィさん!」

「リーダーはあなたでしょうジッキー! 私に聞かれても困るわ!」

「とりあえず補給が終わったから行ってくるっスか?」

「――それは待ちなさい! 弓兵の腕がいい。何も考えずに飛び出せば恰好の的になるだけよ」


 盾で鉄球を受けながらリリィが空へ上がろうとするグリィセリンを止めた。


「ジッキー。爆撃役が一人になったときのプランは?」

「――ごっ、ごめんなさい! 考えていませんでした!」

「はぁ!? あなたが考えた作戦でしょう! 戦況に応じたプランくらい最低5つは考えておきなさいよ!」

「ノリでイケると思ったんですよぉ……」

「あなた、本気で攻略配信する気あるの?」

「ごめんなさいいいいぃぃぃぃいい!」

「リリィ殿落ち着くのである。前払いで報酬を受け取った以上ここは我慢なのである」

「あらあら、うふふっ」

「ゴブ。(仲間割れしてるな)」

「ごぶ~。(ギスギスだね~)」


 鉄球と矢が飛来する戦場でリリィが怒り、ジッキーは土下座、カンチョーがちゃっかりディスって、エイロナが笑いながら回復魔法を飛ばし、グリィセリンが帰りたそうな顔をしているカオスな配信状況になっていた。


『ハロー、ハロー。ダーリン&ハニー聞こえますか? 今、あなたたちの頭の中に直接語りかけています』


 2人で適当に攻撃していると、アイちゃんの声が響いた。


『公式の世界生配信にギスギス要素はいりません。清い心を持つ子供たちに悪影響です。行動パターンを変えて彼らの会話を遮ってください。ついでにもっと盛り上げてください』

「ごぶ~?(どうする?)」

「ゴブ!(運営からのお告げだ。やるしかないだろ)」


 アイちゃんの言う通りこのまま削り勝っても微妙な公式配信になってしまう。リアルマネーを稼ぐためにも早期サービス終了だけは回避だ。


「ゴブゴブ!(ユーザー数を増やすため、ゲームの面白さが伝わるようにバチバチいくぜ!)」

「ごぶぅ!(おっけー、ダーリン!)」

「ゴブアアアアアァァァ!(オレがタンクを引き受ける。他はハニーの指示に従え。――全員突撃!)」

「ごぶー!(おー!)」

「「ゴブッ!(了解ですボス!)」」


 威嚇するように吼えながらオレたちゴブリンはフロアを駆けだした。


「――どど、どういうことですか!? 全員で向かってきますよ!」

「アタッカーを1人倒したからイケるとでも思ったっスか?」

「接近戦を望むのなら受けて立つのである! リリィ殿、吾輩がボスの気を引く。その隙にスタンを狙うのである! ――さぁ、来い! 貴様の攻撃、このカンチョーが受けきってみせるのである!」

「待ちなさいカンチョー。相手はプロレスを使うのよ! 間合いに気を付けないと――」

「ゴブ! ――ブーッ!(もう遅い! トルネードダブルラリアット!)」


 正面から走ってくるカンチョーに対してスキルを発動!

 高速で回転するオレのダブルラリアットの風圧にカンチョーがバランスを崩して引き寄せられる。


「なんと! 驚きの吸引力である!」

「ゴブッ!(ノジーのプロペラの応用だ!)」

「――うおぉおおっ!」


 ガードに失敗したカンチョーの身体が上空に打ち上げられた。

 それを追いかけるように地面を蹴って巨体に似合わないハイジャンプ。空中でカンチョーの首を掴み、その頭を地面に向けて抱え込む。あとは捻りを加えながら地面に落下すれば……。


「ゴブブゴブゴブゥブァァアアア!(ボルゥゥゥシュ!)」


 ――ゴキィ!

 カンチョーの首が逝った音がオレの筋肉を伝わった。


「ゴブアァーッ!(ハラショー!)」

「……カンチョー。またオイラより先に退場っスか」


 悲しそうな顔をするなグリィセリン。すぐにお前も送ってやるぜ!


「あらあら。4対4になってしまいましたね」

「エイロナさん。なんでそんなに悠長なんですか。こちらの前衛が2人に対して相手は3体。ピンチで危機ですよ!」

「ワタクシ、今とても良い気分です。理由はわかりません。……ただ、あのゴブリンを見た時から胸が高鳴るのです」

「…………えっと、ああいうのが好みなんですね。いい趣味だと思いますよ?」

「前衛が足りないのですね。ワタクシが前に出ましょう」

「エイロナさん戦えるんですか?」

「ウフフッ。ちょっと準備をしてきます」


 なんだかエイロナの笑みが怖い。背中がゾクリとしたぜ。

 とりあえず今やるべきことは……。


「ゴブァァアア!(タイマンは久しぶりだな! リリィ!)」

「……強いわね。相性も悪いわ」


 オレがカンチョーを倒したことでリリィと一騎打ち。

 掴み技を仕掛けたいが、リリィは吸引力が届かない絶妙なソーシャルディスタンスをキープ。プロレス関係のスキルはバッチリ研究していやがる。

 通常攻撃は体格差でリーチのあるオレが若干有利か。しかし隙を見せればシールドバッシュを狙ってくるので大振りの攻撃や硬直時間のあるスキル使用は危険。しばらくは膠着かもな。

 ……悔しいけどボスキャラを一人で抑え込むとはさすがリリィだ。カンチョーを倒せていなかったら負けていた可能性大。

 他の様子は……。


「――あり得ないっス! 爆弾を簡単に捌きすぎっス!」

「ごぶ~!(このくらい余裕だよ~!)」

「ゴブァ!(頼りになります奥さん!)」


 ハニーと剣盾ゴブ1号がグリィセリンと交戦中。

 剣盾ゴブ1号を護衛役にして、戦場全体を見渡しながら的確にサポートするハニーがイイ仕事をしている。毒矢を見せているからグリィセリンは回避を優先。補給で重くなっているからENとSTの消費も激しいはずだ。

 ジッキーのほうは、


「――ふえぇぇぇぇぇ! 来ないでください!」

「ゴブッ!(無理。襲うのが仕事!)」


 逃げるジッキー。それを追う剣盾ゴブ2号。

 回復薬を使ったり爆弾や煙幕を投げて頑張っているけどジッキーが倒れるのは時間の問題だな。たまに飛来するハニーの矢がジッキーのリュックに刺さったりしている。

 ……あれ? 準備するとか言ってたエイロナの姿が見えない。――まっ、いっか! ハニーが警戒してくれるだろ。


「ゴブッブ!(そろそろ均衡が崩れるな!)」

「――クッ! やるわね!」


 リリィが手数を減らして回避に専念し始めた。

 ボスキャラゆえに高く設定されたステータス。たとえ防御してもその一撃は重く、タンクでも受ける度にHPが砕ける。STだって残り少ないはず。

 ジッキーは逃げ回っているし、エイロナも近くにいないから回復は望めない。リリィの焦りが手に取るようにわかるぜ。


「ゴッゴゴブ!(お前がタンクで助かったぜ!)」


 攻めろ、攻めろ、攻めろ!

 コイツを倒せば勝利は目前。猛烈なラッシュでリリィのHPを粉砕してやる!


 ――ガキィィン!


 力負けしたリリィの大盾が明後日の方向を向き、無防備な本体をさらけ出す。鎧があってもHPが少なければ無意味だ。


「ゴァッブァァアアッ!(これで終わりだ!)」

「……ウフフ。お邪魔します」


 いきなり目の前に出現したエイロナが魔法の壁を展開。オレの攻撃を受け止めやがった。


「助かったわ。……でも、あなたいつの間に?」

「ワタクシ、少々暗殺を嗜んでおりますの」

「純粋な回復職じゃなかったのね」


 微笑みながらエイロナがリリィに回復魔法をかける。

 ……ちくしょう、ふりだしに戻っちまった。

 睨んでいたらエイロナと目が合う。


「ウフフッ。さて、いきましょうか」

「あなたもボスと戦う気? 逃げ回っているジッキーは放っておいていいの?」

「興味がありません」

「……一応、雇い主よ?」

「それよりも目の前にいる相手のほうが気になります。この恋焦がれた感情はあの時以来。倒せばきっとあの方に近付ける。認めてもらえる。そんな予感がするのです」

「あなたの設定はよく分からないけど、アタッカーもできるのよね?」

「問題はありません」


 エイロナの武器が杖から変わる。新たに装備したのは神官にはとても似合わない、黒くて禍々しい大きなノコギリ。

 彼女の微笑みに狂気が混ざる。


「ワタクシ、殺すことに関しては自信があります」

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