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エネミーロール【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】  作者: えたーなる・ばけーしょん
第3話 砦を守るゴブリンたち【1-13-EX】
26/43

ランク1位の生配信


 場所は拠点の訓練所。設定は砦ゴブのボス部屋。

 ボディはラビィ。右手に片手用メイス。左手にも片手用メイス。

 ウサギと言えば餅つき。餅つきと言えば杵。杵はハンマー。ハンマーは打撃武器。そしてメイスは打撃武器。――大丈夫、ウサギのイメージは壊していない!

 そんなワケでオレはダブルメイスを装備したラビィで砦ゴブに殴りかかった。

 身体を軸にして回るように流れるように右、左、右、左、右左。飛行のエフェクトが手持ち花火を振り回しているみたいで綺麗だ。


「――ヨシ。飛行アプリで殴る感じは掴めてきたな」


 今は当てるだけでいいメイスだけど、そのうちハンマーや大斧、剣などに応用していくつもりだ。

 大洗のウサギは両手に包丁を持っているので刃物もセーフだ。


「次は飛ぶか」


 左手のメイスをデッキブラシに交換して上昇する。ストレージに収納された各種武器の重さでラビィの機動力は少し落ちているけど問題はない。

 空中で静止したらメニューを操作して砦ゴブを鎖付きの鉄球、兵ゴブを弓装備に変更した。


「――全員、攻撃していいぞ!」

「ゴブアアアァァァァ!」


 地上から一斉に飛来する鉄球や矢を躱したりメイスで撃ち落としたりしながらAIの調子を確かめる。飛び回るオレに対して10回に1度はヒット判定を出しているので悪くない。

 オレ愛用の【空中ジャンプ】と【三角跳び】がセットされている砦ゴブの跳躍もグット。これなら空を飛ぶ相手でも十分に戦えそうだ。


 ――ピンピロピロピロ~♪


「ん? サンチからのメッセージ?」

 

《ちわっす! 2人とも面白そうな配信やっているよ~》


 気になったので訓練を中断して添付されているアドレスを開いた。配信動画のタイトルは『A級砦、最速攻略法!!』か。生配信で挑戦するってことは相当自信があるらしい。

 配信動画を見た感じ、現在位置は冒険者ギルドだな。ドヤ顔の女性アバターがカメラ目線で説明している。


「それでは攻略メンバーを紹介したいと思います! まずはボクから。リーダーを務めるジッキーです。今回は荷物運び、ポーターとして後方からサポートしていきます。……どうして荷物運びなのかって? 気になる人はボス戦での活躍を楽しみにしていてください」


 ジッキーの装備は完全に荷物運びに特化している。バカでかいリュックを背負っている以外は布や皮の軽量装備だ。


「次に紹介するのはこちらの2人です」

「吾輩はカンチョー。ギルド超ド級戦艦フィグのカンチョーである! タンクなのである!」

「グリィセリンっス! 斥候っス!」

「現在、我らは仲間を募集中なのである! 配信を見て興味を持った人は気軽に声をかけてほしいのである!」

「初心者歓迎! ノルマはナシ! アットホームな職場っス!」


 彼らを見るのは3度目だな。前回、前々回とポイントありがとうございました。

 次に紹介された女性アバターも見たことがある。体験会で一緒だった人だ。


「私はスフィア」

「……………………自己紹介はそれだけでいいの?」

「はい」

「……えっと。彼女は飛行アプリの持ち主でヒキャクレースの活躍を見てスカウトした攻略の要です。――あっ、言い忘れていたけど今回は時間がなかったから野良パーティーでのチャレンジです」


 ……ほほぅ、スフィアが攻略の要か。飛行アプリを持つ者同士いつか勝負してみたい。


「え~次は回復役の……」

「エイロナです。近くでウサギさんを探していたら声をかけられました」


 ウフフッ、と笑うエイロナを見た瞬間なぜか背筋が寒くなった。

 画面越しに見られていたような気がしたけど、――あり得ないなっ! しかし流れるコメントの“兎殺神官”ってどういう意味だろう? ジッキーも彼女とは微妙に距離を取っているみたいだ。


「そして最後のメンバーは……」


 エイロナがいるってことはレオーラだな!

 しかしオレの予想は外れた。画面に映ったのは白い全身鎧の大楯持ち。フルフェイスの防具で顔は見えないけど声と名前は聞いたことがあった。


「リリィよ」


 ――おスノウかよっ! 何でエネミープレイヤーが攻略に参加しているんだよ! お前は攻略される側だろ!


「テイマー用の拠点購入でお金が必要になったから傭兵を始めたわ。今回はタンクをやるけど装備さえあれば大抵のことはできる。料金は応相談よ」


 金策に走るってことはエネミーポイントを使い切った? それとも“傭兵”がリリィの設定なのか?

 どちらにせよアイちゃんの介入がないのでリリィの参加に問題はないってことか。


《おーい、書き込むのが面倒だから通話大丈夫?》


 ――トゥルルルルルルル♪

 ……早い。メッセージ送信後1秒でサンチからの連絡がきた。

 設定が“サウンドオンリー”になっているのを確認してから通話ボタンを押す。


「もしもし」

『はぁ~。クーちゃんの声を聴けて幸せ~』

「はいはい。オレも幸せだぞ」


 夫婦ロール的挨拶をさくっと終わらせて本題に入る。


「ところで攻略に参加しているスノ…………あっ」

『…………どうしたの?』


 ……危なかったぜ。サンチは“リリィ=スノウ”ということをまだ知らないはず。オレが正体を教えたら、サンチはリリィとアリスの交友関係を調べてラビィの存在に辿り着くだろう。

 別の話題にしよう。


「……大きなリュックを背負っているヤツの役割ってなんだと思う?」

『そうだね~。ボスに合わせて装備を変えるのは可能性が低いと思う。普通に回復薬や雑魚対策の状態異常アイテムを持っていくんじゃないかな』

「ボス戦は状態異常が効きにくいから煙幕や爆弾もありそう。……ゼニの消費が凄そうだ」

『視聴者数がいい感じに増えているから収支はプラスになるんじゃないかな』

「そういう儲け話を聞くとまた動画配信をやりたくなるな」

『それならまた一緒に配信やってみる? 今度は“ラブラブ夫婦のイチャイチャ動画”ってタイト――くぇrちゅいおp――おっ!』


 サンチの声にノイズが混じる。


「通信障害でも起こったか?」

『違うよクーちゃん。今、アイちゃんから面白そうな話があってね。次のエネミーモード採用試験に向けて宣伝用の動画を今から作るから参加しないかって誘われた』


 さっきのノイズはアイちゃんが時間加速で割り込んだ影響か。


「ちょっと面白そう。いいなぁ~」

『ふっふっふー。お姉さんは選ばれたエネミープライヤーなのだよ。――なぜなら、私が現在ランキング1位だからっ!』

「…………マジですか?」

『イエス!』


 声を聴いただけでドヤ顔スライムのサンチが頭に浮かんでくる。

 ――またノイズが入った。


『クーちゃんクーちゃん! アイちゃんが交渉したら生配信中のプレイヤーたちがオッケー出したって。あの人たち私のダンジョンに挑戦するよー!』


 何それ。ちょっとうらやましい。


「……いい機会だ。ランク1位のお手並み拝見といこうか」

『クーちゃんへの愛を見せてあげるよ。――それじゃ、アイちゃんとの打ち合わせがあるから一旦切るねー』


 通信が切れた。

 ランク1位になるとそういう特殊なイベントも発生するのか。

 ……ちくしょう、オレも参加したかったなぁ。

 拠点の和室に移動したオレは座布団に座った。お知らせに“ランク1位側の動画配信中”があったので2窓で視聴。

 ちょうどサンチたちの配信が始まったところだ。


『どうも。プレイヤーが楽しめるように全身全霊でサポートする女神のアイちゃんです。そして隣にいるのが解説兼プレイヤーに立ち塞がる現在エネミーランク1位の……』

『ちわっす! スライムのお姉さんだよ~』


 アイちゃんとサンチが並んで映っているのだが、なぜサンチはピンクの触手スライムを選んだ? そこは砦ゴブを使おうよ!

 視聴者もオレと同じことを感じたのだろう。疑問に思うコメントが一斉に流れた。


『どうしてスライムなのかって? ふっふっふー。昔、別のゲームで婚約者のクーちゃんと季節限定イベントのスライム温泉に入ったとき話なんだけど、混浴があったから一緒にぬるぬるのぐちょ【ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ】それ以来スライムを使うようになったんだー』

『誤解を招く発言、また低年齢層が遊ぶゲームに不適切な内容だったため規制しました。お詫び申し上げます』


 アイちゃんがペコリと頭を下げた。

 ……たぶんSSSOでやっていたイベントのことだな。スライム温泉以外にもスライム滑り台やスライム闘技場とかいろいろあって楽しかったなぁ。それが原因でサービス終了したんだけど。


『――おっと。こうしている間にも冒険者ギルドでは挑戦者が受付で攻略するダンジョンの選択を行っています。予定通り挑戦者パーティーがランキング1位のダンジョンを選択。このあとはギルド長の部屋で依頼内容の詳しい説明と最終確認が行われる流れです』

『ここでのギルド長の発言に攻略のヒントが隠されているんだけど、ほとんどの人は適当に聞き流しちゃって気付かないんだよねー。初日は退場者続出でボス部屋まで辿り着かなかったから暇だったよ。このとき出てくる『ギルド長の説明をスキップしますか?』って選択肢はちょっとした罠だよね』

『運営としては売上アップで嬉しい悲鳴でした。……そういうわけなので、皆さん現実VR問わず人の話はちゃんと聞きましょう。女神アイちゃんとの約束です』


 画面に大量の《はーい》が流れた。

 挑戦者たちもギルド長の話を聞きながら視聴者に向けて砦攻略の説明をしていた。こちらもサンチたちと同じようなことを言っている。

 ギルド長の話が終わって最終確認、そしてクエストが始まって挑戦者たちが砦前の森に転移した。


『ついに最速攻略を目指す挑戦者の戦いが始まりました。なお、今回は特別にダンジョンデータを更新しているので完全に初見プレイとなっています。はたして彼らはゴブリンの砦をどのようにして攻略するのでしょうか? スライムのお姉さん、やはり敵に見つからないことが重要でしょうか?』

『そうだねー。見つかって警笛を鳴らされるとゴブリンの数が一気に増えるから最速攻略は厳しいと思うよ。レベルキャップの影響でゴリ押しが難しいし』

『挑戦者たちは…………門番に眠りの魔法を使うようですね』

『たぶんそれが一番確実だよねー。ギルド長の説明から推測すると今回の敵って疲労が溜まっているって設定だよね? たぶん睡眠耐性が低いよー』

『……』


 ……サンチのヤツ、アイちゃんの前でさらっと攻略方法を流しやがった。


『眠らせる以外にも砦に忍び込む方法はありますが、スライムお姉さんが感心した方法はありますか?』

『そうだねー。いろいろ見たけど一番面白かったのは変身アプリでゴブリンに化けて侵入していた人かな。ENの燃費がいいから自然回復系のアプリやEN回復アメで賄えちゃって、そのまま強制ログアウトされるまでゴブリンたちと砦生活を送ったのは笑っちゃったよー』

『ちなみにエネミープレイヤーになれば普通に砦生活ができます。興味がある人は次回のエネミーモード採用試験を受けてください。日程はこちらです』


 画面下に表示された日程をアイちゃんが指で示す。


『さて。門番を速やかに処理した挑戦者。敵に気付かれることなく第1フロアに突入成功です。スライムお姉さん。第1フロアの注意事項は何でしょうか?』

『警笛が鳴らなければ即死判定の落とし穴だね。罠を見破る能力がないと大変だよー』

『……おや? どうやら挑戦者たちは別の方法で進んでいくようですね。重量級装備のリリィを飛行アプリ所持者のスフィアが次の扉まで運んでいます』


 ちゃっかりエイロナが足装備の飛行魔道具で飛んでいるし。


『飛んでいけば落とし穴なんて関係ないということでしょうか?』

『落とし穴を無視できるけど、……明らかに遅いよね』

『総重量増加によるマイナス補正ですね。飛行時のEN消費量、高度や速度に影響します』


 このままスフィアが残りのメンバーを空輸するなら最速クリアは無理だと思う。正攻法で罠を見破って進んだほうが速い。

 ジッキーはどうする?


『このように飛んで運ぶのが一番安全です。――しかし、これ以外にもこのフロアでは罠を無視して安全に突破する方法があります! それがこちらです!』


 グリィセリンが空中ジャンプで2階廊下に上がると縄梯子を垂らした。


『これで安全なルートを確保できました』

『待つッス! まだ安全が確保されて……』

「大丈夫ですよグリィセリンさん」」


 一番最初に縄梯子を上りきったジッキーがグリィセリンの言葉を無視して2階廊下を走っていく。


『警笛が鳴ると2階廊下はゴブリンたちが狙撃する場所になります。罠が配置されている可能性は絶対にない安全な通路! 視聴者の皆さん! このように攻略すれば第1フロアで罠探知なんて必要ありませ――…………えっ!?』


 ――ガコンッ! ひゅ~~~ぅ、ガコンッ! ひゅ~~~ぅ、グシャー!


 2階通路の落とし穴の下に追加の落とし穴。

 ジッキーは何もできずに奈落へと落ちていく。パーティーリーダーが退場したことで挑戦者側の配信が停止した。

 一方、運営側は……。


『落ちましたね』

『落ちちゃったねー。……私の婚約者について語っていい?』

『視聴者に未成年者がいるのでやめてください。アナタが婚約者について語ったら規制音ばかりになるでしょう』

『そんなことないよー』


 そうだそうだー。健全なロールプレイをしているはずだぞー!


『ゲームと関係のない雑談ばかりでは問題なので、スライムお姉さんには今回の罠配置とその理由を教えてもらいましょう』

『今回の第1フロアの落とし穴は入り口部分数箇所。あとは2階廊下とその真下に配置しているよー。門番を無力化したら2階廊下ルートで罠を無視できるって最近話題になっていたから裏をかいたんだけど見事にはまったねー』

『さすがランキング1位のダンジョンは一筋縄ではいきませんね。……視聴者の皆さん。このゲームに“絶対安全”という言葉は安全地帯だけだと思うようにしましょう。アイちゃんとの約束です』

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