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前世の約束(生肉パーティー)


 白いイヌカウルフを倒してから20分が経過した。


「リリィのヤツ遅いな。もうすぐ夕飯の時間になるぞ」

「お姉ちゃんにメール送ってみる。……あれ? メールが送れない。お姉ちゃんのアカウントが凍結しているみたい」

「アイツ何をやらかしたんだ……。 どうする? しばらくは来れないだろうしオレたちだけで行くか?」

「そうだね。先にラビィちゃんのチュートリアルから終わらせよ」


 オレとアリスは森の奥へと進んでいく。

 チュートリアルイベントの発生地点に到着したら、ほとんど攻撃してこない接待イヌカウルフをグサッと倒して強化素材を手に入れた。


「次はアリスの用事だな。チュートリアルのルートから外れると敵が増えるから注意しろよ」

「うん。……くーちゃんお願い」

「もきゅ!」


 敬礼するくーちゃんが可愛い。本当にオレのAIなのか?

 くーちゃんの索敵能力のおかげで不意打ちに遭うことなく、ターゲットのイヌカウルフに先制攻撃で喧嘩を売っていく。

 ちなみにオレの出番はなし。くーちゃんが強過ぎて見ているだけだった。


「……くぅ~ん」


 イヌカウルフが砕け散った。


「また失敗だね」

「これで8頭目か。なかなかテイムに成功しないな」

「一昨日からやっているけど、ずっとこんな感じだよ」

「物欲センサー発動中か。……そろそろ夕飯の時間だから次が最後でもいいか?」

「うん、わかった。くーちゃんお願い」

「…………モキュ!」

「あっちだね。わかった」


 耳を動かして索敵していたくーちゃんが、次のターゲットがいる方向を前足で示した。

 イヌカウルフには匂いによる索敵があるので風下から近付いていく。

 そして群を見つけた、……けど。


「…………アイツらはやめないか?」

「どうして? 別に変な動きはしていないよ」


《警告:あなたのエネミーモンスターです。評価に影響します》


 黒いイヌカウルフとその取り巻きが見覚えのヤツらで、オレの視界に警告文が表示されたから。憑依していないとはいえ、アリスに2体目をテイムされるのは抵抗がある。

 ――そんなこと言えるわけがない!


「とにかくアイツ等はヤバい気がする」

「そうかな? 雰囲気がくーちゃんに似ているから仲良くなれると思うんだけど」


 そりゃあ中身が同じだから似ているに決まっている。


「わたし、ちょっと行ってみるね」

「――ちょっと待て。アリス!」


 アリスが群の前に飛び出してしまった。

 ……こうなったら2体目がテイムされないことを祈ろう。

 秘匿事項だけどイヌカウルフはパーティーで挑むとテイム成功率が下がるように設定されている。例外は低確率で発生するリーダーとの一騎打ちイベント。それさえ発生しなければ何とかなるはずだ。


「――ラビィちゃん。一騎打ちイベントが発生したよ!」


 物欲センサー仕事してくれっ!


「これってチャンスだよね? わたし一人でリーダーを倒せたら主として認めてくれるってお姉ちゃんが言ってた!」


 裏情報を漏らしてる! ……いや、さすがに重度のシスコンでもそれはしないよな? きっと攻略サイトに掲載されている情報だ。


「その情報が正しいならくーちゃんは使えないぞ。戦うのはアリスだけだ」

「わかった。くーちゃんは下がっていて」

「モキュ!」


 アリスが弓を構えてリーダーと対峙した。

 そういえば有能なくーちゃんが魔物を全部倒していたから、アリスが戦うのを見るのは初めてだ。


「「「――グルルルッ!」」」


 1号、2号、3号がオレたちを囲んでリングを作った。

 こいつらはオレやくーちゃんが援護したら一斉に襲い掛かってくるように設定されている。それまでは威嚇するだけで無害だ。


「――行くよ!」

「――ガアアァァアァ!」


 アリスとリーダーの戦いが始まった。

 ……けどまぁ、ゲーム的ご都合主義で矢の残数を気にする必要はないし、急所を突かれない限りは装備とレベルの差で間違いなくアリスが勝つだろう。ぶっちゃけイヌカウルフは使いづらかったのでオレAIは弱いほうだし。


「当たって!」


 次々とアリスの射る矢が標的に刺さっていく。

 テイム条件を満たすため、アリスは攻撃力の低い矢に変えてイヌカウルフのHP調整に入った。

 これは勝負が決まったな。あとはリーダーが最後まで戦った場合の取り巻きの行動次第。逃げるか、戦うか、アリスに服従するか。


「1号、余りモノだけど生肉いるか?」

「――グルッ?」


 何となくウサギ肉を1号に投げてみた。

 ストレージ内の重量の影響でステータスにマイナス補正が掛かっているから余分な素材は処分だ。念のため戦闘準備は整えておかないとな。

 ……クンクン。――ガブリ!

 生肉の匂いを嗅いだ1号は勢いよく噛み付いた。いい食べっぷりだぜ。イヌカウルフで食べる生肉は最高だよな。

 それと前世(リポップ前)の約束を守ったオレ偉い!


「「……じゅるるるっ!」」

「わかったって。2号と3号もほら」


 涎を垂らしていた2号と3号にも生肉を投げてやると美味そうにガツガツ食べ始めた。


「…………ガウ……」


 生肉を貰えなかった最後の一頭が羨ましそうにこっちを見てくる。


「お前にはやらねぇよ。戦闘中だろ」

「……がぅ」


 ……おいおい、あからさまに落ち込むなよ。誇り高いイヌカウルフのリーダーだろ。


「お腹空いているの? お肉が欲しいならわたしがあげるよ」


 攻撃の手を止めて様子を見ていたアリスがウサギ肉を取り出してリーダーに笑顔を向けた。


「いやいや! 無理だってアリス! イヌカウルフのリーダーはプライドが高いんだ。いくら腹が減っていても生肉に釣られるとか(テイム条件に)ないし!」

「やってみないとわからないよ。……ねぇ、わたしとお友達になろう? お腹いっぱいお肉を食べさせてあげるよ。それにこのまま戦ったらあなた死んじゃうよ? 死ぬか、お友達になるか。賢いあなたならどっちがいいのかわかるよね?」


 ――デッド、オア、フレンド!

 ゲーム的にその選択しかないから間違ってはいない。主従関係をハッキリさせるって意味でも正しいと思う。

 ……でもさ、アリスの言いかたが脅迫じみているって。絶対に怒らせてはダメなタイプだろ。


「さぁ、どうする?」

「……ぐるるるるっ」


 ――おい、迷っているんじゃねぇよ! お前は誇り高いイヌカウルフの群れのリーダーだろ。最後まで戦って格好良く散ってくれ!


「………………くぅん」


 リーダーが、アリスの前で伏せちゃった。


「あなたの名前は……クロにしよう」

「――がぅ!」

「クロ。お肉、目の前に置くね。でも、まだ食べちゃダメだよ。……まだだよ、……まだだよ~、まだだよぉ~。――食べてよし!」

「がぅ~!」

「待てが出来て偉いねクロ」


 さっそく躾けが始まっているし!

 リーダー改めクロがわしゃわしゃ撫でられて嬉しそう!


「「「――がるるっ!」」」


 追加で取り巻きたちが仲間にして欲しそうにこっちを見ている。


「……アリス。残りはどうするんだ?」

「その子たちって、ラビィちゃんが名前を付けてなかった?」

「あれは適当に呼んでいただけだ。連れて行かないのなら追い払うぞ」


 オレの場合、エネミーモードがメインだから使役獣を増やしても育てる時間がない。ノジーだけで十分だ。


「それならわたしが飼うよ。みんな一緒の方がいいもんね。……えっと、イチゴ、ニーゴ、サンゴ!」

「「「――がぅ~!」」」


 こうして、4頭のイヌカウルフがアリスファミリーの仲間になったのだった。

 めでたし、めでたし。

 …………どうしてこうなった?


   × × ×


 現実で夕食を食べてから部屋に戻ると携帯端末にサンチの伝言が入っていた。


《クーちゃん。今日は集会所に来ないほうがいいよ》

《なんで?》

《白いのが面倒臭い。妹に変態って言われたらしくて相当落ち込んでいる。他にもいろいろあったみたいで愚痴愚痴愚痴愚痴泣き~》


 リリィたちのことを書き込もうとしてやめた。

 一緒に行動していたラビィがオレだと感付かれる可能性がある。


《わかった。今日は行かない。情報サンキュー》

《情報料はデート1回で!》

《ゲーム内でオレのアバターを見つけられたらな》

《頑張って探す!》


 いろいろあったけど、ラビィのレベルは上がったし飛行能力のこともだいたい理解できた。

 これでイベント用ゴブリンの調整を始められる。

 今日は疲れたし、風呂入ったら寝よう。


 ――次のイベントが楽しみだぜ!

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