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ピンクのヤツ。白いヤツ。


 たぶん攻略サイトに載っていたピンクの悪魔だ。

 普段は穴の中に隠れてプレイヤーが近付くのを待っていて、不意打ちで毒や麻痺の状態異常攻撃をしてくる要注意の魔物。

 角アリがこんな近くに2羽もいるなんて珍しい。……いや、コイツは搦め手が得意そうだからオレのウサギを囮にした可能性もある。


「モキュ! キシャー!」


 ピンクの一角ウサギが目を尖らせて威嚇してくる。


「モキュモッキューッ! キシャー!」

「……なんだか、コイツすごく怒ってる? オレが何かしたか?」

「w~?」

「――キッシャー!」


 おっと危ない。ピンクの悪魔の突撃を避ける。


「とりあえず倒すぞノジー!」

「W!」

「……モキュ!」


 オレとノジーが攻撃しようとしたら、ピンクの悪魔が地面に潜った。


「巣穴か。厄介だな」


 オレも試したけど事前に通路を作っておけば地中をかなり速く移動できるんだよな。しかも地表ギリギリまで掘っておけば突き破って攻撃したり、落とし穴として利用もできる。


「――モッキュー!」


 地面を突き破って飛び出してきたピンクの悪魔を槍の柄で受ける。攻略サイトの情報どおりなら状態異常になるから直撃はヤバい。


「ノジー。飛んで距離を取――!」


 ――ズボッ! ジャンプしようと力を込めた右足が地面を踏み抜いた。片足が30センチほど落ちて足裏にグサリと何かが刺さる。


「――落とし穴!?」


 しかも底には骨のようなモノを尖らせて作った棘がある。

 わずかにHPが減り、二種類の状態異常アイコンが追加される。

 ラビィの制御が利かなくなって地面に倒れた。


「……くそっ、毒と麻痺付きかよ」

「もっきゅきゅ~」


 麻痺で動けなくなったオレを見てピンクの悪魔が勝ち誇ったように笑った。

 ……まだ終わっていない。オレには戦える仲間がいるぞ!


「ノジー!」

「――Ww!」


 オレの背中から離れたノジーがピンクウサギに殴りかかった。


「――wW!」

「キシャー!」


 案山子とウサギの壮絶な戦いが始まった……と思う。

 ノジーたちが視界の外に移動しちゃったので「――wW!」と「キシャー!」しか聞こえない。


 ――ドドドドドドドドドドッ!

 ――ギュイィイイイイィイイィイン!

 ――ズガガガッガガガガッ!


 ……おいおい、案山子とウサギの戦闘音とは思えないぞ。いったい何が起こっているんだ? ものすごく気になる。

 

「…………おっ、腕が動くようになってきた」


 地面を這ってガサガサッと頭の位置を変える。


「――wW!」

「モキュ! キシャー!」


 ピンクの悪魔がノジーの拳を避けて頭突きを決めていた。

 クソッ、見逃したか! ……じゃなくて。マズイぞ、ノジーのHPが厳しくなってきた!

 オレは穂先を戦場に向けて飛行アプリを起動する。ピンクの悪魔がジャンプしたところを狙って、――ここだっ!

 手を離せば槍がもの凄い勢いで飛んでいった。


「もきゅ!?」


 飛来する槍に気付いたピンクの悪魔が【空中ジャンプ】で避ける。これでアイツは空中を移動する手段を使い切った。

 【クイックストレージ】でもう一つの武器を引き出す。


「デッキブラシのおかわりだ!」

「――もぎゅッ!」


 射出したデッキブラシがヒット。ピンクの悪魔が地面に落ちたけど、……まだ生きている。


「ノジー。ここで決めろ!」

「――wwwWwW!」

「もっきゅうううぅぅぅぅぅぅ!」


 天高く跳躍したノジーが回転しながら落ちてきてドリルキック! ピンクウサギは爆発するように砕け散った。


「グッジョブ、ノジー!」

「w!」


 オレたちは親指を立てて称え合う。最高の相棒だぜ!


「悪いんだけど。まだ動けないから槍とデッキブラシを回収してきてくれ」

「w!」


 ノジーがぴょんぴょん跳ねながら武器の回収に向かった。


「――あっ、この辺りは他にも落とし穴があるかもしれないから気を付け……」


 ――ズボッ!

 ノジーの身体が半分埋まった。そのままノジーはくるりとこちらを向いて親指を立てる。無事だと思って安心したのも束の間、毒を受けてノジーのHPが全損。パリーンと砕けて退場した。


「――ノジー!!!」

 

 ……ちょっとヤバいかも。

 まだ麻痺が残っていて少しずつしか動けない。こんな状況で魔物に襲われたら……。


《警告:あなたのエネミーモンスターです。評価に影響します》

「もきゅ?」

「…………なんでお前がそこにいる」


 目の前で真っ黒な一角ウサギがオレを見て首を傾げていた。

 もうリポップしたのか? 白いリボンを着けているけど、そんな設定だったっけ?

 ……まぁ、細かいことはどうでもいい。自分のAIに倒されるならポイントが付くし悪くはない。

 だがこれだけは言っておこう。


「今回はお前の勝ちだ。……だけど忘れるな。オレを倒しても第2のオレが必ずお前を倒しにやってくるぞ!」


 ラスボスっぽい台詞が決まったぜっ!


「くーちゃん待ってよ~」

「………………」


 聞き覚えのある少女の声。

 しかも“くーちゃん”ってまさか……。


「――もうっ、一人で勝手に行っちゃダメだよ! …………え?」

「…………どうも」


 目が合った。

 ……間違いない。オレの一角ウサギをテイムしたアリスだ。


「――お姉ちゃん。大変だよ。早くこっち来て!」

「どうしたのアリス?」


 今度は白い女性アバターがやって来る。

 アリスに“お姉ちゃん”と呼ばれていたということは、……このアバターがスノウ?


「HPがほぼゼロで毒と麻痺。……酷い状態ね。助けはいる?」

「…………お願いします」


 借りを作る形になる。だけど彼女がスノウの可能性がある以上は情報を集めておきたい。

 スノウ(?)に状態異常を治療してもらってラビィボディが動くようになった。


「えっと、お腹も空いてる? 干し肉食べる?」

「…………いただきます」


 アリスから貰った干し肉に噛り付く。……うまうま。


「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げてから切り替える。


「助かったぜ! オレの名前はラビィ。世界最強を目指す戦闘狂だっ!」

「……急に態度が変わったわね」

「元気になってよかったね。お姉ちゃん」


 オレがエネミープレイヤーである限りラビィロールをやめるわけにはいかないのだ!


「わたしはアリス。こっちのウサギさんがくーちゃんだよ」

「もきゅん」

「……リボンを着けたのか。随分と可愛くなったなぁ」

「似合っているでしょ。お姉ちゃんと一緒に選んだの」


 アリスは満面の笑みだが、中身だったオレとしては複雑な気分だ。


「お姉ちゃんってことは、二人は姉妹って設定なのか?」

「現実でも姉妹だよ。今のお姉ちゃんはリリィって名前なの」


 リリィというアバターは細剣を使うアルビノ設定の姫騎士って感じだな。肌や髪、装備もほとんど白い。ラビィと同じ法則が当てはまるなら採用試験のときに先頭を走っていた一角ウサギの色とも一致している。

 つまり、スノウでほぼ確定。――やったぜっ!


「……ところで、ちょっと話を聞きいてもいいかしら?」

「助けてくれたお礼だ。何でも答えるぜ」

「この槍についてなんだけど、歩いていたらもの凄い勢いで飛んできたのよ。それでね……」


 リリィが見せてきたのは、オレが飛ばした槍だった。

 拾ってきてくれたのか。助かるぜ。


「コイツが私の頭部を貫いたわ」

「…………………………」

「コイツを投擲したプレイヤーを知らないかしら? 間違いなくこっちの方角から飛んできたのだけれど」

「――オレです。ごめんなさい!」

「…………えっ?」


 悪いことをしたら謝る! それ滅茶苦茶大事!

 オレは事の経緯と槍が刺さったのは偶然起こった不幸な事故で決して狙ったのではないことを強調してリリィに説明したのだった。

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