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調査に行くぞ!(行かない)


 ついにチュートリアルも最後になった。

 内容はイヌカの森の調査だ。調査中にアバター強化素材を入手するイベントが発生するので、それをアバター工房に持って帰ってラビィをレベルアップさせれば終了となる。

 そんなワケで。


「――調査に行くぞっ!」

「――W!」


 現在地はハジマーリの街の門の外側。広い草原地帯だ。


「……と、その前に新しい武器のお披露目だ。――カモーン【クイックストレージ】!」


 装備中のデッキブラシが槍と入れ替わる。店売りで一番安い槍を購入して【魔道具化〔飛行〕】を追加したモノだ。

 ちなみに通常の装備交換だとメニューを操作しなければいけない。そのため思考するだけで交換できる【クイックストレージ】はかなり便利だ。叫んだのはなんとなく格好良さそうだから!

 重くなるので防具は飛脚のブーツ以外一切着けない。というか槍を作ったらゼニがなくなった!


「ついでに足装備の飛行アプリを確認しておくか」

「……w」


 脱線しまくりでノジーが睨んできた。

 でもこういう確認は大事だぞ。ぶっつけ本番でできるほどオレは天才ではないからな。

 最初はアシスト機能をオンにして起動。飛脚ブーツがエフェクトに包まれた。


「なるほど空中に足場が出現するのか」


 視界の中に地平線まで延びる半透明の薄い床が見える。それが高さ1メートル間隔で空まで続いていた。一部の床がラビィの身体と接触しているけど特に影響はない。


「……ヘルプによると“使いたい足場を意識すると色が変わって乗れるようになる”か。まずは一段目」


 ジャンプして赤く変わった足場に着地。同じことを二段目でもやってみる。逆に降りるときは足場を透明に戻すと重力に引かれて下段に落下。ヘルプによるとノックバックなどで強制的に移動させられる場合もあるらしい。


「この上下移動の感覚、アクションゲームのマリコシスターズみたいだな。ジャンプするときに片手を上に突き出したくなる」


 地面に着地したら今度はアシスト機能を切ってみる。


「アシストなしだと足場は見えないんだな。説明文だと“意識したその場所が足場になる”か」


 試しに右足を上げ、想像した不可視の床に乗せてみる。何もない場所なのに硬い感触があった。


「――おっ、空中ジャンプと似たような感じ? いいじゃん! これならアシスト切ったほうが使いやすいぞ!」


 イメージにズレがあると踏み外したりするけど連続使用が可能なのはグッドだ。しかも逆さに立つこともできる。

 これ滅茶苦茶便利な装備。ヒキャクのお爺さんありがとう!


「……ん?」


 空中で逆立ちしていると見覚えのあるアバターが近付いてきた。


「――やぁ、ラビィさん」

「…………モードキッシか」


 テンイーシャノ学園で訓練所の場所を教えてくれた騎士風のプレイヤー。それと仲間っぽいのが三人。


「その様子だと飛行アプリを取ったみたいだね」

「あぁ。ちょっと練習していたところだ」


 着地してモードキッシと目を合わせる。そして槍を構えた。


「まさかこんなに早くお兄さんと再会するとはな」

「……どうして君は武器を構えているんだい?」

「言ったはずだぜ。オレは世界最強を目指す戦闘狂だって」

「私と戦うつもりだと?」


 不敵に笑って見せながら、オレは視界に表示された“指令”を確認した。


《エネミークエスト【戦闘狂】が発生しました。キャラ設定的に戦闘可能エリアで視線が合ったらバトルするのは当然ですよね? ついでにトッププレイヤーの実力を知るチャンス。ノルマは1日1戦》


 ラビィのキャラ設定に合わせた強制戦闘。

 モードキッシがトッププレイヤーだとアイちゃんも認めているから戦うのが楽しみだ。


「アシストなしで飛んでいたからプレイヤースキルはあるんだと思う。でも、それだけでレベルと装備の差を埋めるのは難しいよ」

「関係ないね。戦場で強そうなヤツと目が合ったら戦う。それがオレの設定だ」

「………………設定?」

「最後の台詞はナシ。忘れてください」

「……わかった。聞かなかったことにするよ」

「ありがとうございます」


 咳払いでリセット。仕切り直してラビィロールを再開だ。


「一応オレに勝ったら報酬はあるぜ。所持金の半分をプレゼントだ」

「所持金って、まだ初心者マークが取れていないよね? いくら残っているんだい?」

「200ゼニだ」

「………………」


 視線がちょっと痛いけどレベル1の最低報酬価格が100ゼニ。これはアイちゃん公認なんだぞ!


「さぁ、どうするトッププレイヤー。オレと戦うか? それともレベル1相手に慄いて逃げるか?」

「えっと……」


 モードキッシの声にノイズが入った。


「…………なるほど。それなら戦うしかないね」


 抜刀するモードキッシに対して、仲間の一人が「本気か?」と驚いている。


「ちょっと面白そうな“お告げ”があってね」


 モードキッシが笑った。

 もしかしてアイちゃんが介入してモードキッシにもクエストを発生させた?


「そっちは一人でいいのか?」

「構わないよ。正々堂々と一騎打ちで戦おう」

「w?」

「…………案山子を使うのはアウトか?」

「君の案山子ならセーフにしよう」

「そうかい。それじゃ、――行くぜっ!」


 モードキッシの剣とオレの槍が激突する。

 レベルの差もあるが相手は普通に強かった。

 最軽量級のラビィだと打ち合う度に吹っ飛ばされたし、オレもノジーも紙装甲だから一撃でHPが蒸発した。

 つまり戦闘開始から40秒で敗北。

 ――目の前が真っ暗になったぜ!


   × × ×


「――調査に行くぞっ! パート2!」

「――W!」


 再びハジマーリの街周辺の草原。

 道中で何度か【戦闘狂】のクエストが発生したけど、ノルマ達成済&チュートリアルが進まないので無視した。


「それじゃ。無限の空へ、レッツフラーイ!」

「wW~!」


 ノジーが服と背中の間に胴体をさしこんできた。

 資金に余裕が出来たら背中用の旗ホルダーでも買うか。旗を武器にするプレイヤーもいるから売っているはずだ。

 オレは槍に跨って上昇すると、加速や旋回能力を確認しながらイヌカの森に向かって飛んでいく。


「……おっ、ウサギがいるな」


 地上で灰色の穴掘りウサギが草を食べていた。

 穂先を穴掘りウサギにロックオン。風の抵抗を軽減するため身体を槍に密着させて固定した。


「w?」

「戦う必要がないって言いたげだな? 確かに今回の調査クエストはチュートリアル仕様で指定ルートを外れなければイヌカの森で一度戦闘があるだけで済む。だけどそうはいかないんだノジー。ウサギ素材で金策……じゃなくて、オレは世界最強を目指す戦闘狂だ。戦いから逃げてどうする!」


 デスペナも免除されるしな! ヤバくなったら初心者特典を有効活用。退場すれば治る!


「w……」

「お金がないと竹箒が食えないぞ」

「――Ww!」


 どうやらノジーもヤル気を出したみたいだ。眉と瞳が“やる”になっている。ちょろいな!


「行くぜノジー。イベントは終わったけど、ウサギ狩りの始まりだ!」

「――W!」


 重力を利用した加速によって一瞬で最高速まで到達する。

 イイ感じだ。ウサギ種の索敵能力は音頼み。音速に近付くほどアイツらの反応は遅くなる。


「――もっ!」


 グサッ!


「きゅう……」


 槍に貫かれた穴掘りウサギが光になって砕け散る。すかさずオレは穂先を上げて再上昇を試みた。


 ――ガッ、ガガガガガガッ!


 石突が地面を抉って減速する。仕方なく上昇を諦めてそのまま着地することにした。もしも耐久値が存在するゲームだったら間違いなく槍が壊れていたな。ノジーで飛んでいた場合は墜落だ。


「今回は侵入角度が悪かったか」


 槍の飛行性能は速度があるけど旋回性能が低い。次はもっと水平方向から攻めてみよう。


「序盤のフィールドだからプレイヤーがいなくて狩り放題だ。たくさん稼がせてもらうぜ!」

「w!」


 気持ち的に茶色い穴掘りウサギだけは見逃そう。それと見たことのある女神官が「ウフフ」と笑いながらウサギを惨殺していたので距離を取っておく。

 そんな感じでオレたちは、オレンジ、ブルー、グレー、顔だけ黒だったり、耳が垂れていたり、真っ白な角アリを中心に群れているヤツらなど、角アリ角ナシ関係なく見つけたウサギを片っ端から倒していった。


「……さすがにストレージが重くなってきたな」


 毛皮、肉、魔石、角、骨。

 ドロップ品を入手する度にアバターの総重量が増えて飛行中の速度低下とEN消費量が顕著になってきた。

 破棄すれば戻るけど持ち帰って換金したいので今は我慢。マジで【ストレージ重量軽減】が役立っているので薦めてくれたアイちゃんに感謝だ。


「一旦街に戻るって換金するか。…………ん?」


 アイコンが黄色の一角ウサギを見つけた。そいつは全身が真っ黒で、ぼけぇ~、っと石の上で空を眺めている。


「アレって、オレの一角ウサギだよな? もの凄くマヌケな顔をしているんだけどAIは何を学習していたんだ?」


《警告:あなたのエネミーモンスターです。評価に影響します》


 ご丁寧に警告文と選択肢が出現した。

 そんなの答えは決まっている。


「面白そうだし、――オレは自分自身を超えてやるぜっ!」


 黒ウサギのアイコンが赤に変わった。


「これは自分自身との戦い。ノジーはストレージで待機してくれ」

「――w!」


 ノジーが親指を立ててストレージに入る。


「それじゃ、目が覚める一撃をプレゼントだ!」


 高度を下げて水平飛行。黒ウサギの背中に標準を定めて突撃する。


「――モッキュ!」


 コイツ、穂先が当たるギリギリでジャンプして避けやがった。

 今まで誰も避けられなかった攻撃を躱すとは、さすがオレのAIだ。


「キシャー!」


 空中ジャンプで転進した一角ウサギの角がオレの背中を狙う。


「お前が考えていることは、――まるっと全部お見通しだ!」


 槍を軸に身体を回転させて黒ウサギの攻撃を回避。直後に飛行スキルを無効化、槍から降りてこちらも空中ジャンプでターンを決めると右手に持った槍の先端を敵に突き出す。

 黒ウサギが着地後すぐに横へ跳んだ。

 ならばオレは飛行の力で強引に槍の軌道を修正。穂先が一角ウサギの身体を貫いた。


「もっ……きゅう……」

「――よし。負けられない戦いに勝った!」

「w!」


 背中に戻ったノジーが親指を立てる。

 ……まっ、相手を知り尽くしているのに負けるとか大恥だ。勝って当然!


「なんかスッキリしたぜ。たまにはこんな感じで無双するのも悪くないな」


 エネミーモードではやられ役ばかりだったせいか、ストレスが溜まっていたのかもしれない。いい気分転換になった。


「それに【槍術】アプリの命中補整を飛行で代用できそうなのはいい発見だった」


 石突を掌に乗せて飛行スキルを使ってみる。すると槍を落とすことなくメトロノームのように穂先を自由に傾けることができた。ドリルみたいな軸回転も可能だ。これはいろいろな武器で使えるぞ。


 ……ガサガサッ!


「キシャー!!」


 ウサギの鳴き声? いつの間に近付かれた!?


「ノジー。シールド展開!」

「――W!」


 藁の壁がオレたちを包み込むと、背後で何かがぶつかって壁が崩れる。

 そこにいた襲撃者は……。


「ピンクの一角ウサギ?」

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