表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

ヤバい? 戦闘チュートリアル


 次に目指すのは街の冒険者ギルドだ。

 チュートリアルを終わらせて初心者マークを卒業することはもちろん、ラビィとノジーを強化するためにゼニを稼がなければいけない。


「えっと冒険者ギルドの場所は………………どこだ? チュートリアルにも“ハジマーリの街の冒険者ギルドへ行こう”としか書いていないし。学園から出れば案内イベントが発生するのか?」

「冒険者ギルドは校門を出て大通りを真っ直ぐ行ったところにある青い屋根」


 困っているオレに声をかけてきたのは、飛行アプリの体験会に参加していた初心者マーク付きの女性アバターだった。竹箒を持っているから彼女も飛行アプリを購入したみたいだ。

 ラビィよりも身長が高いから見上げる形になる。


「サンキューな。オレの名前はラビィ。世界最強を目指す戦闘狂だ」

「私はスフィア」

「飛行アプリ取ったんだな。初心者同士どんどん強くなろうぜ」

「はい」

「いつか空で戦うときがくるかもな。そのときは熱いバトルを楽しみにしているぜ」

「はい」


 ヨシッ! フラグっぽい台詞が決まったーっ!

 しかしスフィアの反応は鈍いな。アイちゃんレベルの無表情で口数も少ないし、オレのアホっぽい自己紹介を華麗にスルーとは手強い。


「――それじゃオレは行くぜ!」

「ちょっと待って」


 校門に向かおうとしたらスフィアに止められた。


「校門の外に変な人がいる」

「変な人? イベントキャラか?」

「たぶん」

「序盤のイベントはアイちゃんが育っていないせいでいろんな意味でヤバいって話だけど。……そういえば校門を出たところで戦闘イベントがあるって攻略サイトに載っていたような」

「……やっぱりアレはヤバいヤツなんだ」

「詳しい内容までは調べてないから、ヤバいかどうかはわからないぞ」


 過度なネタバレはゲームをつまらなくさせる。情報収集は用法容量を守って楽しみましょうってな。


「まずは相手を確認しに行くか」


 とりあえず校門の様子を見に行く。もしもイベントキャラではなくて変態迷惑プレイヤーだったらアイちゃんに通報すれば解決だ。


「…………うあぁうぅう……うあぁ……ぁぁ」


 そいつはすぐに見つかった。

 服装を見るに住人NPCだ。

 校門から10メートルほど離れた場所で黒い霧を纏った怪しい男性がゾンビのように身体を揺らしながら立っている。皮膚が腐っていたり血が流れたりはしていないけど黒い霧とうめき声のせいで軽くホラーだ。

 初戦闘の相手がコイツって攻め過ぎだろ。


「…………うあぁうぅう……うあぁ……ぁぁ」

「……うあぁうう……あうあぁ……うぁあぁ」


 容姿と状態がまったく同じ住人NPCが1人増えた。プレイヤー側が2人だから人数を合わせてきたようだ。

 オレの背後で隠れているスフィアに聞いてみる。


「1人1体を倒す戦闘チュートリアルだな。校門を出たらイベントが始まると思うけど、……いけるか?」

「……頑張る。50体以上待ち構えていたときよりはいい」


 運悪く他の初心者と一緒になったのか。

 そういえばサービス開始直後は大量のゾンビ(?)が待ち構えていてパニックになったとSNSで見た覚えがある。


「それじゃ行くぞ」


 学園外に出た瞬間にラビィの操作が不可能になった。


「…………うあぁうぅう……うあぁ……ぁぁ!」

「……うあぁうう……あうあぁ……うぁあぁ!」


 住人NPCが両手をこちらに向けてゆっくりと歩いてきた。

 ……完全にゾンビの動きだ。


『――なんという事でしょう。アレはハジマーリの街の住人』


 どこからともなく学生服のアイちゃんが出現してきて淡々と説明してくれる。


『あぁ、なんてヤバい状況なのでしょう。彼らは汚染された邪悪な魔素、略して汚邪魔素の影響で闇落ちしているではありませんか。――おっと、ちょうどいいところに異世界人さまが。お願いします異世界人さま。異世界人さまの特別な能力ならば住人を傷付けることなく汚邪魔素を浄化できます。さぁ、住人を救うためにガンガン攻撃して体内のヤバい汚邪魔素を浄化してください』


《チュートリアルクエスト:住人を救え!》


 ものすごく強引な展開で確かにヤバい。


「…………うあぁうぅう……うあぁ……ぁぁ!」


 住人NPCは呻くだけでその場から動かないようだ。


「とりあえずデッキブラシで殴ってみるか」

「w!」

「……え、ノジー?」


 いきなりストレージから飛び出したノジーが住人NPCの正面に着地。腰のしなりの入ったアッパーカットが相手の顎に直撃した。


「――wW!」

「――うべえぇあっ!」


 ノジーによって天高く打ち上げられた住人NPCは頭から地面に落ちていく。

 ――グチャっ!

 ……ヤバい音が聞こえたけど大丈夫?


「……うぅん。僕は今まで何をしていたんだ?」

「生きてた! しかも正気に戻ってる!」

「w!」


 戦闘終了。

 親指を立てて決めポーズをとったノジーはストレージに戻っていった。本当はオレが直接戦いたかったけど【テイマー】だから仕方がないのか?


「異世界人さまが助けてくれたんですね。ありがとうございます。僕はフコーナモブといいます。赤い屋根の家に住んでいるので今度お礼をさせてください」

「……おぅ」


 黒い霧が晴れて浄化された住人NPCもといフコーナモブは頭を下げて去っていった。もうちょっとマシな名前はなかったのだろうか?

 さて、スフィアのほうは……ちょうど戦闘が終わったところだな。フコーナモブと同じ容姿の住人NPCが立ち上がって頭を下げている。


「異世界人さまが助けてくれたんですね。ありがとうございます。僕はフコーナモブといいます。赤い屋根の家に住んでいるので今度お礼をさせてください」


 お前も同じ名前かよっ! ……お礼イベントがあるから、その関係で統一しないとマズいのか。


『相手の肉体を傷付けずに汚邪魔素を浄化するなんて、さすがです異世界人さま。ヤバいです』


 祈るように胸の前で手を組んだ無表情の制服アイちゃんがキラキラなエフェクトで感情を表現している。


『……え? 大したことはないですか。そんなことありません。汚邪魔素を浄化できるのはとてもスゴイ能力です。とってもヤバいのです。――あっ、そういうことですか。異世界人さまはこの世界にやって来たばかりで汚邪魔素のことを知らないのですね。それはヤバいですね。でしたらワタシが説明しましょう。説明好きで強引なヤバいアイちゃんにお任せください』


 オレたちは何も言っていないのにイベントが進行していく。さすが強引だと自称するだけはある。


『この世界を構築している物質の一つに魔素というのがあって、良い感じな魔素と悪い感じな魔素の絶妙なバランスで成り立っています。それで悪い感じな魔素の中でも極悪でヤバい魔素が汚邪魔素です。汚邪魔素がどのくらいヤバいかを説明すると、汚邪魔素の影響を受けた生物はさっきの住人のようなヤバい状態になます。精神的にヤバい状態になると浸食されやすくなってヤバいです。他にも大気中に汚邪魔素が溜まってしまうと狂暴でヤバい魔物が発生したり、最悪魔王と呼ばれるとってもヤバい魔物が誕生してものすごくヤバいのです。だから汚邪魔素を浄化できる異世界人さまは最高にヤバいのです』


 ……設定が適当なヤバいゲームだから汚邪魔素に関してはざっくりと理解すればヤバいことにはならないはず。

 オレの予想だけど、汚邪魔素の存在理由は“エネミープレイヤーは汚邪魔素の影響で闇落ちしたプレイヤー、またはこの世界の住人”という設定を作り出すため救済装置だと思う。

 これならラビィが悪役として再起不能になっても“浄化されたラビィ”として遊び続けることが可能だ。


『異世界人さま、このヤバい世界を救うために頑張ってください。異世界人さまにヤバいことが起こらないようにワタシはヤバいくらい祈っています』


 ……このアイちゃん。ヤバいが多くてマジでヤバい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ