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空を飛ぶ4つの方法


 占い師のアイちゃんに月間課金パックを薦められたが断って¥アンテナを離れた。

 人混みを縫うように走り抜けて目的地のアバター工房に到着。

 工場のような大きな建物の出入口に看板が置かれていて“アバター強化。アプリ無料体験もやっています”と書いてある。


『どうも。ワタシはアバター工房総合受付のアイちゃんです』


 建物の中に入ると受付嬢のアイちゃんがいた。

 さすがに慣れてきたぞ。


「飛行アプリを試させてくれ」

『飛行系アプリですね。15番の部屋に入ってください』


 案内された15番の扉を開いて中へ入る。

 飛行アプリの体験場。そこは建物のサイズからはとても想像できない、ゲーム的ご都合主義満載な広い草原だった。500メートルくらい離れた場所で他の参加者たちが箒や槍、飛竜などで空を飛んでいる。

 そして目の前にいる講師は予想どおり。


『どうも。飛行系アプリ担当講師のアイちゃんです』


 今度のアイちゃんは戦闘機のパイロット風だ。

 服装をレトロなデザインにしているのは、ゲームの世界観を壊し過ぎないように気を使っている?


「まるでアイちゃんのコスプレショーだな。画集でも出版できるんじゃないか?」

『いいですね。そのアイデアを採用しましょう』

「……え? マジ?」

『利益を出すためです。それに画像ならすぐに作れます』


 ピーンポーンパーンポーン♪

《突然ですが運営からのお知らせです。アイちゃんの魅力がたくさん詰まった画像集が発売されました。一生懸命作ったので買ってくれたら嬉しいです》


 ――仕事が速過ぎっ!


『早くも500ダウンロード達成。……これは第2弾も検討しましょう。今は夏ということで水着が面白そうですね』


 ……水着か。定番だけど売れそうだなぁ。欲しいかも。


『アイデア料としてラビィちゃんには無料で画集をプレゼントします』

「いいの!? ありがとう!」


 中身が気になったので、受け取った画像データをサムネイルで表示させてみる。……ほほぅ、レースクイーン姿を見た感じだと実はアイちゃんって着痩せするタイプなのか。

 ――うむ。あとでじっくり拝読しよう!


『それでは体験会を始めます。現在、飛行アプリに関係する体験コースは4種類あります。好きなコースを選んでください』


 目の前に選択肢が表示された。


「魔法型、サマナー型、テイマー型、魔道具型の四つか。……アイちゃん。簡単でいいからそれぞれの特徴を教えてくれ」

『魔法型は重力や風などの魔法を使います。該当する魔法をインストールすることで飛行可能ですが、EN消費が激しいので短時間しか飛べません。飛行性能は使用属性とアバターの性能で大きく変わります』


 これは絶対にナシ! 短時間しか飛べないのは【天空の祝福】と相性が悪い。


『サマナー型は飛行能力を持つ召喚獣に騎乗する方法です。召喚獣のHPまたはENがゼロになるまで飛行できます。テイマー型は召喚獣の代わりに使役獣に騎乗します。こちらも使役獣が行動不能になるまで飛行できます。飛行性能についてはどちらも魔物の能力で決まります』

「質問なんだけど、魔物に乗っているときの【天空の祝福】はどういう処理になるんだ?」

『召喚獣に乗っている間はカウント継続でリセットもありません。ただし使役獣の場合、騎乗中に使役獣が地面に触れた時点でリセットされます』


 要約すると魔力で作られたモノならセーフ。実体があるモノはそれが浮いていればセーフだけど地面に触れていたらアウト。

 このルールだと実体のある武器もアウト判定になってしまう。ミスって地面や壁を叩いたら【天空の祝福】がリセット。例外はプレイヤーや魔物を攻撃したときだけだ。

 ついでに聞いたことだが【空中ジャンプ】は召喚獣、使役獣どちらも乗ることで回数がリセットされる。飛んでいる魔物を足場にすることで【天空の祝福】を維持したまま【空中ジャンプ】の使用回数を回復することが可能というワケだ。

 初回ガチャで【テイマー】をゲットしているワケだし、悪役にぴったりの魔物を使役できたら試してみよう。


「アイちゃん。槍で飛んでいる人のは魔道具型?」

『肯定します。魔道具の補助があるため魔法型よりもEN消費が抑えられます。飛行性能はアバター性能と道具によって変わります。槍の場合だと直進性能が高くなるかわりに旋回能力が悪くなります』

「なるほど」


 槍に乗って飛行するプレイヤーが戦闘訓練用の案山子に向かって突撃していくのが見えた。


「攻撃手段は槍に乗って突撃って認識でいいのか?」

『アシストを使用すると基本はそうなります』

「アシストを使わなければ他にもいろいろできるんだな。とりあえず魔道具型で決まりだ。近接戦闘が可能だから1番戦闘狂っぽい」


 次は体験会で試す装備の選択だ。

 跨れるタイプは竹箒と槍以外にも、斧、薙刀、大鎌、メイス、ハンマー、デッキブラシなどがあった。他にも鎧、籠手、ブーツといった各種防具。個性的なモノだとスキー板、サーフィンボード、水上バイクっぽい乗り物系。案山子やプロペラが付いた筍まである。


「そういえば案山子は飛んだり武器として使えるって攻略サイトで見たような……」


 ブラウザを立ち上げてちょっと確認。…………これは面白いかも。悪役云々は置いといてテイム候補に案山子を入れておこう。

 まずは空を飛ぶ練習だ。


「アイちゃん。初心者におすすめの武器は?」

『武器ならば万能型の竹箒かデッキブラシ。それと矢がおすすめです』

「……矢でも飛べるのか?」

『感覚を掴むためのモノです。ちなみに飛行アプリを応用することで、弓がなくても矢を飛ばすことができます。弓術アプリのような補正はありませんが牽制に使えます』

「それって隠し要素的な情報だろ。教えてもいいのか?」

『この程度の情報は問題ありません。既に非公式攻略まとめサイトで公開されています』


 今の説明だと他にも色々できるっぽいな。まずは無難に竹箒を選んでおこう。

 こうして、アイちゃんの指導のもと飛行アプリ体験会が始まった。


『それでは2人とも上昇してください』

「――よっしゃ! 行くぜ!」


 魔道具による飛行は思考制御だ。飛ぼうと意識した瞬間に竹箒の穂がエフェクトを纏う。

 ふわっと浮いて。

 ――くるん。バランスを崩して柄を軸に身体が半回転。

 ――ズボッ! っと頭が地面に埋まった。

 普通なら首が逝って即死だな。体験会で助かったぜ。

 気を取り直してもう一度。

 ふわっと浮いて、…………くるん、ズボッ!


「……ぐぬぬぬっ!」


 鉄棒に跨るイメージだけじゃダメだ。上昇時の慣性力でバランスが取りにくい。これは旋回時の遠心力に苦労するぞ。それと現実だったら股が大変なことになる。


『ラビィちゃん。彼女みたいにアシスト機能を使ったほうがいいと思います』


 一緒に体験会に参加した女性アバターが竹箒に跨って高度10メートルくらいを安定して飛んでいた。


「アシストに頼って変な癖がつくのが嫌なんだよ」


 アシスト機能は強制的に両手で柄を握って跨る姿勢になってしまう。しかしアシストを切れば片手を自由にすることが可能だ。

 最強の戦闘狂を目指すならアシスト機能は絶対邪魔になる。


「体験会中は事故っても無傷だし。練習するなら今しかない」


 とにかくオレは身体の傾きを意識して練習を繰り返した。

 何度も空中でひっくり返り、何度も墜落して、何度も頭が地面に突き刺さって猫神家のスッケーキョみたいな格好になった。

 地味に厄介だったのは【天空の祝福】のバフがかかるタイミングだ。いきなり速度が上がるからバランスを崩しやすい。カウントを忘れないように気を付けないと。

 そんなオレを見て笑っているプレイヤーがいるけど、余裕ぶっていられるのは今だけだぞ。戦場で出会ったときは絶望させてやるから覚悟しておけ!

 そんなこんなでオレが飛行訓練を始めて2時間が経過。一緒に参加していた女性プレイヤーはとっくの昔に体験会を終えていなくなっていた。


『ラビィちゃん。まだ続けるのですか?』


 オレが休憩していると新規参加者への説明を終えたアイちゃんが声をかけてきた。


「……そうだな。イイ感じに仕上がってきたし、最後に限界まで飛んで終わりにするか」


 竹箒に跨って集中する。

 操作は思考制御。物理法則はゲーム性重視の甘い設定。バランスさえ取ることができれば問題なく飛べる。


「オレが目指すのは世界最強。このくらい最強だったら出来て当前!」


 オレの気合が竹箒に届いたらしく穂が爆発するように伸びた。

 ……今なら何でもできる気がするぞ!


「アイ、キャン、フッラーイッ!」


 ――ドーン!

 急加速して空に上がる。ふらつきながらも姿勢を維持したまま他の参加者たちを一気に追い越した。


「……3、2、1、――Go!」


 10カウントで【天空の祝福】が発動してさらに加速。

 そのまま雲を突き抜けて誰よりも高い場所に到達したオレは世界を見下ろした。


「最高の景色だ。世界最強に相応しいぜ」


 唐突にウインドウが開き、アイちゃんからの通信が入った。


『初日からアシスト機能を使わずにその高度まで上昇したのは初めてです。ラビィちゃん、やりますね』

「ラスボスに決定してもいいぞ」

『飛行アプリを使いこなしたら四天王を検討しましょう』

「四天王は微妙だな。……でも、使えるかもしれないからその言葉を忘れるなよ。ログのスクショ撮ったからな! ついでにオレ専用の格好いい戦闘BGMを準備してくれたら嬉しいぞ!」

『アナタの活躍を楽しみにしています』


 微かにだけど笑ったようなアイちゃんの声が聞こえた。

 ――おっしゃー。オレの活躍はここからだぜっ!

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