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初回ガチャ


 テンイーシャノ学園。

 金色に輝く巨大な¥アンテナが敷地の中央に聳え立ち、その周りに四棟の鉄筋コンクリート造の現代風建物がある一般プレイヤー用の拠点だ。

 女神アイちゃんによって転送された一般プレイヤーはテンイーシャノ学園にある召喚の間に転移。そこにいた学生服姿のアイちゃんに学園長室まで案内される。そして学園長と名乗るスーツ姿のアイちゃんに『この世界ヤバい! とってもピンチ! 異世界人さま助けて~!』と頼まれてオープニングが終了。

 いきなりアイちゃんが複数人登場してくるカオスな展開だった。


『キャラクターの使い回しによるリソースの節約です。先に言っておきますが重要施設で勤務しているキャラクターのほとんどはアイちゃんです。同じ顔の親戚がたくさんいるという設定で現在は世界中に150人。今後も同じ顔の親戚が増えていく予定です。裏設定で個体ごとに名前はありますが、全員に“アイ”が付いているのでいつも通りアイちゃんと呼んでください』


 データ容量が少なかった時代に使われていた方法だっけ? 見た目は同じでも名前や服の色を変えておけば別の存在だよねってヤツ。

 とにかく。異世界召喚のテンプレ(?)を終わらせたオレは、初期資金10000ゼニと学生服のスキンを貰って学園長室を出た。

 このゲームのスキンは外見を変えるだけなのでデフォルトの黒シャツ&黒ズボンでゲームを進めていく。悪役が制服を着用するのは変だし、見た目に拘り始めたらリアルマネーの消費が凄いことになってしまう。


「……それにしても。異世界ファンタジーって感じがしないな」


 鉄筋コンクリート造の現代風校舎。支給された学生服も現代風のブレザータイプだったし、ジャンルを現代ファンタジーに変更したほうがいいんじゃないか?

 リノリウムの廊下を行き交う人々に注目すると頭上にアイコンが表示された。一般プレイヤーが緑と青。NPCが黄。ここにはいないけどエネミープレイヤーや魔物が赤だ。

 今のラビィはチュートリアル中の一般プレイヤー扱いなので緑アイコンと初心者マークが付いている。初心者マークが外れるまでは何度退場してもデスペナ無効なので有効に活用していこう。


「アイコンを青にするとロールプレイ中ってことになるんだよな」


 メニューを操作してラビィのアイコン色を青に変更した。

 これで“ロールプレイ中だから言葉遣いとか大目に見てねっ!”と苦しい言い訳ができる。もちろんロールプレイでも迷惑行為は厳禁だ。良識あるロールプレイを心がける。


「まずは目的の施設を探すか」


 オレは近くにいるNPCの学生に話しかけた。


「すみません」

「ここはハジマーリの街にあるテンイーシャノ学園だよ」

「……ちょっとお聞きしたいことが」

「ここはハジマーリの街にあるテンイーシャノ学園だよ」

「…………もしかして同じセリフしか話さないパターン?」

「ここはハジマーリの街にあるテンイーシャノ学園だよ」


 アイちゃんアバターを使いまわしている時点で予想はしていたよ。生きたNPCを売りにするVRゲームが多い中で原点回帰とはよくやるぜ。


「お困りかい?」


 騎士みたいな鎧を装備した男性アバターが声をかけてきた。こうして見ると恰好が現代風の建物に全然合っていない。

 ……というか、アリスがオレの一角ウサギをテイムしたときに協力してプレイヤーだ。さわやか騎士様って感じだったからよく覚えている。

 ついに一般プレイヤーと遭遇か。ラビィ伝説はここから始まるワケだな。

 ――さぁ、オレのエネミーロールを見せてやるぜっ!


「あぁ、滅茶苦茶困っているぜ。お兄さんは飛行アプリを入手できる場所を知っているか?」


 敬語を封印しただけ。これなら大根役者でも関係ないぜ。――オレ、カシコイ!

 一瞬呆気にとられたお兄さんは、オレのアイコン色に気付いて「あぁ」と声を漏らした。


「それならアバター工房だね。この先にある階段を下りて外に出たら左に見える建物だよ」

「ありがとな。……おっと、自己紹介がまだだったな。オレの名前はラビィ。世界最強を目指す戦闘狂だっ!」

「私はモードキッシ。自分で言うのもアレだが、トップクラスの実力があると自負している攻略組だ。君が最前線にくることを楽しみにしているよ」

「それはいいことを聞いた。戦場で会うのを楽しみにしているぜ!」


 オレはニヤリと笑ってから走り去る。

 ――ソォー、クーゥゥゥルッ! 敵として登場しそうな意味深な台詞が決まったーっ! 瞳のハイライトが消えているのも戦闘狂っぽくてイイ感じな気がするぜ!


「よーしっ! この調子で悪役フラグをどんどん立てていくぞ!」


 てってく、てってく校舎を走る。

 はっはっはー。“廊下を走るな”の張り紙を無視して廊下を走っちゃうオレ、マジ悪役だぜっ!


「やっぱり少し走りにくいな。アイちゃんが言っていたとおり、身体が小さいから普通に走ると歩幅が狭い」


 走り方を試行錯誤した結果、跳ぶように走れば他のプレイヤーと同じくらいの速さになった。感覚的に一角ウサギに近い。


   × × ×


 校舎から出たオレはバカでかい金色の¥アンテナの前に立つ。

 ¥アンテナの奥に見えるのは学園外へ出るための校門だな。右の建物は部室棟でクランハウスみたいな役割だっけ。そして今出てきた校舎は学園長室の他に、課金専用の購買、資料閲覧室、他人の配信を鑑賞できる視聴覚室、終了したイベントを再体験できる部屋などがあるらしい。

 オレは左に見えるアバター工房を目指した。


『そこの異世界人さま。お待ちください』


 ¥アンテナの横を通っていると、黒いフードを被った怪しい女性が声をかけてきた。

 テーブルの上に水晶が置いてあるから占い師だろうか? ラビィを操作できなくなったから強制イベントのようだ。


『ワタシは謎の占い師アイちゃん。ワタシには見えます。アナタへのプレゼントが』


 水晶がぴかーっと光った。


《ログインボーナス。事前登録キャンペーン報酬。10万ダウンロード達成記念報酬。テンイーシャノ学園入学祝い品を手に入れた》


 ……なるほど。そういう役割のアイちゃんか。

 ¥アンテナは次回ログインからの開始地点だ。いてもおかしくはない。


『プレゼントの中に【新入生限定・無料ガチャ10回チケット】がありますね。早速使ってみましょう。――さぁ、この¥アンテナにチケットを捧げてください』


 言われた通りチケットを消費すると¥アンテナが虹色に光った。

 最高レア確定の演出だな。銀色の球体が九つと虹色の球体が一つ、オレの正面にやってくる。

 ガチャ結果を確認すると銀色の球体からはアプリ。そして虹色の球体からは女性アバターの……。


「はじめまして。私は“リタ・アンスグニ”です。一生懸命全力であなたをサポートします」

「――おぉ! あれは大人気声優が声を当てているSSRのお助けNPC!」


 近くで見ていた一般プレイヤーたちが声を上げた。

 ……ガチャ結果を第三者が見れるのかよ。プライバシーはどこへ行った?


「排出率0.00015%を一発で引くとは、なんという強運の持ち主」

「いいなぁー。ハーレムに加えたい」


 まぁ、最高レアだけあって容姿も声も完璧なお姉さんだ。

 しかしお助けNPCは悪役ロールの邪魔になりそうだし、そもそも悪役用のNPCは運営が用意してくれるので必要ない。

 ここは欲しいアプリを狙っていくぜ。


「チェンジ」

「「「――ホワーイ!」」」


 ……さらば、最高レアの綺麗なお姉さん。

 オレは何度もガチャを引き直して妥協点を探った。


「……まぁ、こんなもんだろ」


 SSRはアプリの【天空の祝福:地面から離れている間、全てのステータスが10秒ごとに上昇する。(最大回数=強化レベル)地面や建物に触れるとリセットされる】で決定。条件はあるけど飛行アプリと相性がいいしポテンシャルに期待できる。

 他は【EN自動回復強化】【テイマー】【浄化攻撃】とステータス強化系のアプリ。お助けNPCは最低レアの村人Aになった。

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