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ログアウトといえば……


 エネミープレイヤーに与えられる真っ暗な待機場所。

 そこで一角ウサギ姿のオレはアイちゃんから説明を受けていた。


「……つまり、この情報交換所に書いてある流れでオレはテイムされたってことか?」

『その通りです。これはアイちゃんクエストと呼ばれていて一部のプレイヤーから好評となっております。さすが一ヶ月以上このゲームをプレイしている人たちはノリがいいです』


 ノリが合わなければとっくに辞めている。残ったプレイヤーは訓練された猛者たちに決まっているよな。


『アナタも“ペット生活に興味はない”と発言した数時間後にテイムされるとはとても素晴らしいオチでした』

「……オレを嵌めるためにやったとかないよな?」

『それはありません。紳士淑女たちはアナタの前に8羽失敗しています。逃走されないデバフの順番などを試行錯誤してやっと成功したのがアナタです。そしてエネミープレイヤーでテイムされた第1号です。おめでとうございます』


 ぱちぱちぱち~。

 アイちゃんに拍手された。……別に嬉しくない。


「それよりも、アレは放置でいいのか?」


 空中に映像が表示される。テイムされたくーちゃんがアリスにモフられていた。現在のくーちゃんはAI制御なので当然中に人はいない。


『何もしなくても問題はありません。くーちゃんはアナタの戦闘データを基に成長していきます。もちろん憑依して戦闘データを更新することも可能です』


 だったら基本放置で問題ないな。現実で捕まりたくない。


『さて。このような形となりましたが、エネミーモード採用試験合格となります』

「……テイムされたら合格って言っていたけどさ、それで本当に良かったのか? 累計ポイントは?」

『そちらの合格基準はログインだけでも達成できるのでオマケみたいなものです。重要なのは人間とは構造が違う一角ウサギの肉体で格上プレイヤーを倒す実力。アナタの操作技術は合格に値すると評価しました』

「それはどうも」


 魔物の操作技術が大幅な加点だったワケか。

 合格すればいろんな種類の魔物を操ることになるので、ウサギ程度で躓いていたら話にならないと考えれば納得できる。


『これからエネミーモードの本登録を始めます。……まず初めにエネミープレイヤー専用の人間アバターですが、これはワタシが勝手に決めます』

「選べないのか?」

『エネミープレイヤー専用の人間アバターは一般プレイヤーの敵役として動かすことも視野に入れています。他にも宣伝で利用する可能性があるため、アバターの容姿や名前は最低限整えておきたいのです』

「ネタに走られると宣伝には使いにくいし、他作品のキャラを真似られると著作権とかが面倒ってことか」


 それに容姿は良いほうがウケもいい。……まぁ、オレとしては使いやすいアバターなら特に不満はない。


「人間アバターが敵役を想定ってことは、それをボスキャラとして使ったりもするのか?」

『実力と演技力、敵役としての魅力が備わっていればボスキャラに止まらず、真のラスボスとしての起用も検討します』

「――いいな、それ!」


 一般プレイヤーに仲間だと思わせておいて“実は真のラスボスでした”と裏切ることもできる。それはちょっと格好いい。


「オレの人間アバターはどんな感じなんだ?」

『こちらです』


 オレの目の前に人間アバターが出現した。


「…………………………ちっちゃいな」

『身長135センチ。体重は30キログラム。最小最軽量です』


 サイズ的にはオレをテイムしたアリスより小さいぞ。肌の色は軽く焼けたくらいで健康的。男か女か判別できない中性的な顔で大きくて可愛らしい目。肩に当たるくらいの黒い髪。ウサギの耳みたいな大きな黒いリボンを着けている。


『アバター名は【デッドリィ・ラビィ】としました。通常は【ラビィ】と名乗ってください』


 ……デッドリィ。意味は致命的だっけ? それって試験中に一般プレイヤーの急所ばかり狙っていたのが反映された感じか?


「一応聞いておくけど、このアバターの性別はどっちなんだ?」

『観測者に委ねましょう。シュレディンガーのラビィちゃんです。ラビィちゃんの人気が出てきたら売れそうな方向に性別を設定します』

「そんな適当でいいのかよ」

『このゲームで細かいことを気にしてはいけません。それに現実でも創作物でも可愛いは正義です。可愛ければ演技力がダメダメでも、きっと周りは優しく見守ってくれることでしょう』

「オレに演技力を期待していないことがよく理解できた」


 徹夜で演技の練習を頑張ったのに……。


『考え方を変えましょう。想像してください。こんなに可愛いロリっ子がラスボスだったら、一般プレイヤーたちへのインパクトは絶大だと思いませんか?』

「……インパクトはあるだろうけど、オレの演技力じゃゲームの雰囲気が緩い方向に進んでいくような気がするんだが」

『それもまた面白そうなのでアリだと考えています。ぶっちゃけると低年齢層に配慮して重い展開は極力目立たないようにしたいのです。魔物の容姿などはファンシーモードで可愛く変換できますが、ストーリーだけはどうしようもありません。だから様々な種類の悪役を用意してバランスを取りたいのです』

「わかったよ。アイちゃんがいいって言うなら異論はない」


 エネミープレイヤー自体が運営のお手伝いだもんな。働きに応じてリアルマネーも貰えるし、与えられた仕事はキチンとやろう。

 ――てか、さりげなくロリっ子って言ったよな? 想定しているの女性じゃん。


「このアバター、かなり小さいけど当たり判定も小さくなるんだよな?」

『もちろんです。アナタは空中機動を好んでいるようなので最軽量にして空戦能力を伸びやすくしています。ただし歩幅が小さくなったり大型の武器が使いにくいというデメリットがあります』

「それなら悪くはないアバターだな」


 育成方針が解りやすくてグッド。


『アバターの細かい部分は変更できますがどうしますか?』

「疲れたからログアウトで。調整とかは次の機会でいい?」

『わかりました。それでは肉体を現実サイズに変更。運動施設へ転移します』

「……運動施設?」


 一瞬で場所が変わった。

 球技ができそうな広いグラウンドだ。他にもランニングコース。プール。筋トレに使いそうな運動器具など様々な施設が詰め込まれている。

 そこでは全身タイツ姿のアバターたちが身体を動かしていた。オレのアバターも黒い全身タイツに変わっている。


「アイちゃん。ここは?」


 ちゃっかり体操服姿に着替えているアイちゃんに尋ねた。


『運動施設です。ゲーム内では身体の大きさや身体能力が大幅に変化しています。その認識のまま現実世界に戻れば動作にズレが発生して怪我の原因となってしまいます。それを防止するため、現実世界に近付けたこの場所で身体を動かしてもらい、認識のズレを矯正してもらうのです』


 理解した! 現実でスキル名を叫んで黒歴史を作るのを防止する場所だな!


「ここの施設は自由に使っていいのか?」

『全て自由に使えます。ただし最初にログアウト体操を行ってもらいます』

「ログアウト体操? なんだそれ?」

『ログアウト前に行う体操です。これだけは必ずやってもらうことになっています』


 そう言ってアイちゃんは朝礼台の上に立った。


『それでは、ワタシの真似をして身体を動かしましょう』


 ちゃんちゃらら~ん♪ ちゃんちゃらら~ん♪


 ……ラジオ体操でよく耳にする、だけど微妙に違う音楽が流れ始めた。


『それではご一緒に……。

 1,2,3,4、ログアウト~♪

 2,2,3,4、ログアウト~♪』


 ――アイちゃんが歌うのかよ!


『そこ。ぼーっとしていないで、ちゃんと身体を動かしてください』

「……す、すみません」

『気を取り直して。

 3,2,3,4、ログアウト~♪

 4,2,3,4、GOログアウト~♪

 ログアウト~♪ ログアウト~♪

 現実戻るよ、ログアウト~♪

 ログアウト~♪ ログアウト~♪

 リアルに負けるな、ログアウト~♪』


 以後、体操が終わるまで同じフレーズが延々と続いたのだった。


   × × ×


「ちわっす。クーちゃん」

「今日は早いなサンチ」

「あんまり遅れるとスノウちゃんが怖いからねー」


 状況報告ということで円卓の集会所にログインすると、すでにサンチが待っていた。前回と同じでオレはウーパールーパー、サンチは触手スライムのアバターだ。


「クーちゃんも合格した?」

「したぞ。その聞き方だとサンチも?」

「当然だよ。イベント開始直後の乱戦でポイント稼いで、そのまま突っ走ったー」

「オレも同じだ。……ただ最後にテイム条件を満たされて捕まったけどな。エネミープレイヤーで初テイムだってさ」

「へぇ、そんなこともあるんだ。私もクーちゃんをテイムしたいなー。……それって情報交換所で盛り上がってたやつ?」

「それそれ。ウサギ1羽テイムするのもの凄い人数が集まってきてさ。正直、運営とプレイヤーがあそこまで突き抜けているとは思わなかった」

「生き残っているプレイヤーはアイちゃんの調教済みって感じだったよねー。ログアウト体操でアイちゃんが歌い始めたときは笑っちゃったよ」


 確かに無表情で抑揚なく歌うから強烈だった。


「そうそう。クーちゃんの人間アバターは試験中の戦闘データが反映されている感じだった?」

「そうっぽいな。……今回はライバル関係だから詳しいことは言わないぞ」

「わかっているよー。転生した二人が簡単に出会ったら面白くないもんねー」


 今回のラビィはちびっ子系で、今まで使ってきたリアル準拠のアバターとはかけ離れている。簡単にはバレないぞ。

 ――おっ、スポットライトが追加されてスノウがやってきた。


「スノウちゃんは試験どうだった?」

「……最低で最悪だったわ」


 意外な言葉にオレとサンチは顔を見合わせた。スノウの実力はよく知っている。今回の試験で苦戦するとは考えられない。


「機材にトラブルがあったのか?」

「寝坊しちゃって試験に参加できなかったー?」

「そんなヘマはしないわよ。試験に備えて機材は新品に買い変えたし、睡眠時間もばっちり8時間取ったわ」

「準備完璧だねー」

「そうよ。私は入念に準備をしたわ。ウサギ狩りのイベントと試験日が一緒だったからウサギの身体に慣れておいたし、テイム条件だってちゃんと調べて何度もシミュレーションした。試験日は妹の喜んでもらおうと身近なウサギを手下にしてモフモフ天国を作ったわ。あとは私が操作する一角ウサギが妹にテイムされればモフモフ護衛計画は完璧だったのよ。…………なのにどうして。――なんで試験開始直後に妹に会いに行こうと探し回っていたら、他のエネミープレイヤーがどんどん合流してきて乱戦になっちゃうのよーっ!」


 あのウサギウェーブの原因はスノウだったのか。稼がせてもらいました。ありがとうございます。

 こういうときにウーパールーパーの無表情は便利だ。


「結局スノウちゃんの妹とはどうなったの? イベントフィールドは広かったし簡単には見つからなかったでしょ?」

「お姉ちゃんパワーで見つけたわよ。……だけど、装備が充実した明らかに上位のプレイヤーたちが妹の周囲を守っていて近付けなかったわ。囮を使ったり、穴を掘ったりして何度も突破を試みたけど全部失敗。そうして足止めされているうちに妹が寝取られていたわ。……しかも、あろうことかエネミープレイヤーに!」


 ……嫌な予感がするぞ。テイムされたエネミープレイヤーはもしかして。

 スノウが据わった瞳で言う。


「あの黒ウサギ。中身を見つけたら必ず抹殺してやる」


 ……やべぇ。絶対にオレだ。


「クーちゃん。それってもしかして……」


 おいやめろサンチ! こっち見るな!


「……サンチ。中身について何か知っているの?」


 ウーパールーパーの無表情で無言の圧力!


「…………中身というか、情報交換所にあった特殊クエストがそれっぽいなーって」

「アレね。他のヤツをテイムしないように嘘を混ぜて教えたのが失敗だったわ。……というか、情報交換所じゃなくてお姉ちゃんを頼ってほしかった」

「試験中は連絡できない仕様だったから仕方ないよな」


 よし! 誤魔化したーっ!


「そうなるとスノウちゃんは今後どうするの? 一般プレイヤーになって妹と遊ぶ感じ?」

「妹が別の魔物をテイムしたいって言い出す可能性もあるし、試験も合格していたからエネミーモードは続けるわ」


 とりあえずエネミーモード採用試験は全員合格。

 プレイ続行ということになった。

 ――オレたちの戦いはこれからだっ!

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