ウサギさんプレイ
のんびり更新していく感じです。
よろしくお願いします。
すぴぃ~……、すぴぃ~……。
「――いたぞ。角アリだ!」
――パチン!
男の声で鼻提灯が割れ、オレの黒いモフモフボディがびくっと震えた。
……危なかった。昼寝に最適な草原フィールドだったせいで眠ってしまったぜ。
「……もきゅ。(周囲にプレイヤーはいないな。オレを狙っているわけではないか)」
長細くて大きなウサギ耳には【探知〔音〕】アプリが種族特性として標準インストールされている。遠くの音まで良く聞こえるのは便利だけど、こういうときは紛らわしい。
「――もきゅ!(――まっ、寝込みを狩られて評価が落ちるよりはマシだな)」
今のオレは繁殖し過ぎて討伐対象になった一角ウサギという魔物だ。見た目は全身真っ黒のモフモフで大きさはおよそ40センチ。額には15センチくらいの鋭い角が生えている。
オレは尻尾をフリフリしながら聞こえてくる音に耳を澄ました。
「中身がいるかもしれない。二人とも気を付けるんだ」
「きゃ~! イーケメン様。こわ~い」
「イーケメン様。助けて~」
「――モッキュ!(――けっ! 課金自慢のハーレムパーティーかよ!)」
広い草原のフィールドで男一人と女二人、そして1羽の中身入りの一角ウサギが会敵したみたいだ。音量から推測すると300メートル以上は離れている。
……さて。現在期間限定イベント【ウサギ狩り】が開催中だ。三人はイベント報酬、1羽はエネミーポイントを獲得するための戦いが始まろうとしていた。
「大丈夫だ。君たちは必ず俺が守る!」
「きゃ~! イーケメン様。格好いい!」
「イーケメン様。愛してるぅ~!」
「モキュ!(お助けNPCだと分かっていても腹立つ!)」
女性たちの声に覚えがあると思ったら、妹が見ているアニメで聞いたんだ。最新CMでピックアップ中のお助けNPCとして宣伝されていたから間違いない。
ちなみに人気声優が声を当てているお助けNPCの最高レアの排出率は2%。今後は同じ声優で姉、妹、人妻、清楚、ツンデレ、ポンコツ、ヤンデレなど様々な設定のお助けNPCを実装していくらしい。声優統一パーティーを作る場合は相当額の課金が必要となるだろう。
オレは……まぁ、年上キャラは大好物だけど学生だから無理のない課金で遊んでいくつもりだ。
「――キシャー!(課金が全てじゃないって教えてヤルッ!)」
一角ウサギの怨嗟が戦闘開始の合図となった。
移動が面倒臭いし、どうせ間に合わないので彼らの戦闘は音で楽しむことにする。
――キン、キン、キン! バキィ! ボキィ! グサーッ! バキューン! ひゅ~~~~ぅ、ドッカーン!
「――クッ。コイツ強い! ――ぐわぁあああ!」
「「イーケメン様~!?」」
「キッシャー!(課金ハーレムなんか偽りの愛なんじゃー!)」
「「きゃああああぁぁぁぁぁ!」」
三人と1羽の戦いはすぐに決着した。
今回は中身の腕が良かったらしく、イーケメン率いる課金ハーレムパーティーが退場したみたいだ。今頃は拠点で復活していることだろう。
「もっきゅ~。(平和だなぁ~)」
オレは雲一つない青空を見上げた。
ここはフルダイブ型VRゲームの世界。
今日もオレたちエネミープレイヤーは魔物を操って一般プレイヤーたちを狩り、そして狩られる。
そんなオレの本名は安久谷九郎。
夏休みを趣味のゲームに費やす年上のお姉さんキャラが大好きな普通の男子学生だ。