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18話 おれはあいつの友達だから

 私達の返事を待たず、取り出していた鍵をポケットに収めながらリキさんは先を歩く。

 どうやら、歩きながら話すらしい。


 歩調を合わせ、私達はその後をついて行く。


「────ただ、おれの主観と偏見と感情論で言葉を口にしていいんなら、エスターク公爵領で起こった先の一件に、レオン・アルバレスは無関係だ。間違っても、あいつはそんな事に関与するような性格をしていない。これは断言出来る」


 冗談を言っているような様子ではなかった。

 でも実際に、帝国軍人だろう人間に襲われた身としては、帝国の人間と聞くとどうしても顔を顰めてしまう。


 その中でどうにか冷静に口にされた言葉を頭の中で咀嚼し、私は言葉を返した。


「……なら、別に問題はない気がするんですけど」


 今回の政争の延長で関与していた帝国の人間。

 それとは絶対に無関係と言い切れるならば、勿論、何も知らない私達が納得出来るかどうかはさておき、リキさんからすれば特大の爆弾扱い呼ばわりする理由はないように思える。


 なのに何故、あえてそんな物言いをしたのだろうか。


「ああ。問題はなかった(、、、、)ぜ。おれが今も、殆ど状況を知らなかった状態であれば、未だその判断をしていただろうさ。だが、父上から共有された内容を照らし合わせると────いかんせん、臭すぎる(、、、、)。何より、時期が被り過ぎてる。偶然にしては出来過ぎてるだろ」


 ディアナ王国に存在する魔法学園は、基本的に全寮制。

 故に、頻繁に実家に帰るなどしていない人間の場合、外の情報に疎いのは仕方がない。

 だが、ロヴレンさんから届けられた手紙の情報を知ってしまった今、本来の意見を覆さざるを得なくなった、と。


「……時期?」

「王都で〝精霊痕〟と呼ばれる痕跡が見つかった時期と、〝大図書館〟で『青白い何か』を見たっていう噂が流れ始めた時期が、だよ」


 そこで、合点がいったとばかりにハクが息を漏らす。

 続け様、成る程ねとリキさんの懸念を言葉に変えた。


『その青白い何かって奴が、〝精霊〟だと疑ってるんだね』

「冷静に考えりゃ、幽霊なんてもんが存在する訳はない。だが、噂がただの嘘っぱちとは考えられない。となると、可能性は必然的に限られてくる。『青白い何か』は〝精霊〟なんじゃないかってな」

「……で、エスタークでの一件か。オマケに失踪者として姿を消しているともなると、確かに臭いな」

「だろ?」


 これが全て偶然で、全くの無関係でした────とはとてもじゃないが、思い難い。

 何かがあるのだろう。


「ねえ、ハク。そんな事って、あり得るの?」


 ただ、私の中の常識に照らし合わせるならば、〝精霊〟が無闇矢鱈に姿を見せるとは考えられないし、そもそも普通の人間に〝精霊〟は目視出来ない筈だ。

 ましてや、生気を吸い取るなど、私の知ってる〝精霊〟は間違ってもそんな事はしない。


『基本的に、〝普通〟の精霊にそんな事は出来ない』


 普通、とあえて言ったという事は、普通でない〝精霊〟ならば出来るのだろう。

 その考えが正しいと言うように、ハクは言葉を続ける。


『でも、〝闇精霊〟ならその限りじゃない。それを使役出来るダークエルフなら、可能性は十分あるよ。だけど、失踪にはどうやっても結びつかないと思う』


 ────多分、他の要素が絡み合っていて。それに、あえて目につく場所でやる意味が。


 などと、ハクはぶつぶつと呟きを漏らしながら自分の世界に入ってしまう。

 リキさんの言う〝精霊〟の可能性があるからこそ、〝精霊〟のハクにとってこの一件は喉に刺さった小骨のように煩わしく思っているのかもしれない。

 ひとまず、放っておいた方が良さそうだ。



「とはいえ、土台おかしな話だよな。なんで、うちの国の政争に帝国が絡んでるのか。そこが訳わからん。仮に傀儡にしたいなら、こうして目立つ理由は何処にもない。加えて、人間どころか、外界との交友を絶ってる筈のダークエルフまで何故いるのかも理解に苦しむ」


 そう。それなのだ。

 政争を利用し、次代の国王を傀儡にしたかったならば、もっとやりようがあった筈だ。

 少なくとも、エスターク公爵家に足がつく人間を送り込む愚は何が何でも冒すべきではなかった。


 だが、考え方を変えれば違った見方も出来る。


 その程度の愚は、冒して構わなかった(、、、、、、)と考えればどうだろうか。


 寧ろ、それは実のところ愚ではなく、本懐を遂げる為の大きな布石であったのだとすれば。

 エスターク公爵家を排除するという、神輿に担ぎ上げた王子の希望に添いつつ、政争に拘っているのだと強く印象付ける為の行為でもあったならば。


 本当の目的は何処か別の場所にあるとしたら、腑に落ちないだろうか。


 ……けれども、その場合、本当の目的というものが分からない。

 唯一の手掛かりは、ダークエルフの協力を得ているという事。

 かつ、何らかの理由で私達の祖国の政争に首を突っ込まなければならなかったという事。


 流石に、私の考えすぎだろうか。


「……もしくは、もう多少目立ってしまっても問題のないところまで来ているのか、だな」


 政争を隠れ蓑として使っている場合、その可能性だって浮上する。


 ただ、私の本分はこういった頭で考える事ではないのもあって、心なし、ぷすぷすと頭から煙が出始めているような気にすらなってきた。


「手詰まりな状況だからこそ、おれらに出来る事といえばレオン・アルバレスを探した上で、『青白い何か』が〝精霊〟であるかどうかを確かめる。くらいだろうなあ? まあ正直、どこからどう見ても面倒事な案件に首を突っ込むのは気が引けたんだが……、この一件にヴァンが絡んでると聞いてよ。父上からの頼みだけならばまだしも、お前にゃ個人的な借りがある(、、、、、)。だから、手を貸してやるぜ」


 ……あれ。

 なんで今、借りと口にした瞬間、リキさんは申し訳なさそうな表情を浮かべたのだろうか。


「……借り、ですか?」

「色々あんのよ。おれらにはさ」


 一瞬だけだったから、私の見間違いだったのかもしれない。

 問い掛ける私の言葉に、「なっ」と同調を求めるようにヴァンへ悪戯っぽく笑うリキさんの表情からは先程のような感情は既に霧散しており、一切見受けられなかった。


 ヴァンも特別気にした様子はない。


「そんな訳で、早速調査といこうぜ。勿論、あんたの姉の呪いの手掛かりも含めて、な。丁度、凄腕の魔法使いに、精霊術師もいる。んで、鍵も此処にある。これ以上なくお誂え向きだろ?」



* * * *


「……にしても、随分と少ないんですね」


 世界に誇る学舎である魔法学園。

 その敷地の中にある〝大図書館〟。

 辿り着くまでに随分と歩いたが、見かけた生徒は両手で事足りる程。

 教員と思しき人も何人か見かけたが、敷地の広さを考えれば殆ど無人に等しい。


「今は休校中なんだ。流石に、何人も失踪ってなると魔法学園も対策を練るさ。教員の殆どはそのせいで駆り出されてる。一部の生徒も同様にって感じかな」


 随分と手を加えて改造を施されているせいで分かりづらいが、リキさんが今着ている服は制服であるらしい。

 白と赤が基調となった制服。


 しかし、学園の敷地内で見かけた生徒の服の色は白と青が基調だった。

 もしかすると、色で学年を分けているのかもしれない。


 そんな事を考えているうちに、リキさんは裏口らしき扉に差し込んだ鍵をカチャカチャと動かしつつ、複雑な魔法陣を複数浮かべる事数分。

 カチ、と解錠される音が響いた。


「よっしゃ。ったく手こずらせやがってよ。漸く開いたぜ」

「……泥棒もびっくりの手際の良さだな。普通、この手の解錠は数時間かかると聞いたが」

「いいだろ? コレ。羨ましがってもあげねーけどな」


 何やら、ツールのようなものをリキさんはこれ見よがしに見せつける。

 円形のそれは、私には魔導具らしき何かとしか認識出来ないが、解錠に役立つものらしい。


 やがて押し開けられる裏口らしくない荘厳な扉。直後、視界に映り込むは大きな吹き抜け。

 立ち並ぶ本。本。本。本。


 見渡す限り、本に埋め尽くされたその空間に、思わず私は圧倒される。

 私がそんな反応をする中、リキさんは口を開いた。


「ヴァン。お前、一応、入り口に魔法を掛けといてくれ。誰かが来たら認知出来るやつ。知っての通り、おれに魔法の才はねえから」


 たしかに、無断で立ち入っている以上、バレるわけにはいかない。


 そもそも、入学予定とはいえ今の私は部外者だ。リキさんが「大丈夫、大丈夫」と言っていたけども、恐らく……というより絶対、正式な手続きを踏む前に立ち入っていい訳がない。


 でも、曰く休校中なので正式な手続きを踏むとすれば随分後になるだろうとのこと。


 そういった訳で、私は言われるがままにやって来ていた。なので、小細工は必須だろう。

 ただ、私も魔法については詳しくないし、才能もない。

 そんな訳で手伝うよ────とは、言うに言えなかった。


「その間、おれは先にこの子を案内しとく。呪い関連ならC1辺りだろ」

「ぇ。あ、いや、別に急いではないのでヴァンが終わってからみんなで、」


 一緒に向かいませんか。


 そう言おうとした私の言葉を、何故かリキさんが遮った。

 C1とは恐らく、場所を示した言葉なのだろうが、特別急いではいないと告げると、なぜか気まずそうにリキさんは頬を二、三回掻いた。


「あぁ。その、ちょっとキミに手伝って欲しい事もあるというか。それがちょいと急ぎの用でさ。そんな訳で、付き合って貰えるとおれとしては物凄く嬉しいんだけど」


 若干歯切れが悪かった。


 要するに、呪いについての本の場所へ案内ついでに、リキさんはリキさんで用事があるのだろう。それも、私が必要な用事。

 もしくは、ヴァンが一緒にいない方が都合がいい、何かが。

 最中、言葉の意図をいち早く察したヴァンが私達に背を向けて歩き出す。


「……分かった。そういう事なら、すぐに追いつくから先に行っててくれ」

「助かる」


 ……もしかして、ロヴレンさんから何か伝言でも預かっているのだろうか。

 私の事か。もしくは、ヴァンについてか。

 はたまた、〝精霊〟についてか。


 その場合下手をすれば────。


 などと私なりに考えを巡らせる中、ヴァンの足音がある程度離れたところで言葉がやってくる。

 身構える私だったが、それは私の中の緊迫した様子を鼻で笑うかのようなへらりとした口調で、あまりに端的な発言だった。


「あいつ────ヴァンってさ、すんげえ奴だよな」


 数歩ほど先へ歩き出したと思ったら、肩越しに振り返りながらリキさんはそんな事を言う。

 あまりに拍子抜けな発言で、全く関係のないものだったせいで、思わず目を丸くキョトンとしてしまう。


 身構えていた分、頭の中が真っ白になって思うように返事すら出来なかった。


「そんでもって、クソ真面目で、クソ優しくて。だからまぁ、申し訳ねえ事したなってずっと気掛かりだったんだよな。そんな訳でさ。ありがとうな(、、、、、、)、ノア・アイルノーツさん」


 ありがとうと言われる事をした覚えがなかった私は、その言葉を前に不自然なまでに目を瞬かせてしまう。


「それと────さっきは〝借り〟って表現しちまったけどさ、本当のところは〝罪悪感〟、みたいなもんなんだわ」


 〝大図書館〟に来る前に、リキさんが口にしていた言葉。

 私が首を傾げていた事を覚えていたのだろう。


 しかし、何故それを今語るのか。

 その点については理解不能だったけど、不思議と指摘をする気にはなれなかった。


「……罪悪感、ですか」

「便利だよな? 〝天才〟って言葉はさ」


 自虐めいた様子で告げられたその言葉で、リキさんが何を言いたいのかが分かったような気がした。

 同時に、どうしてあの時、申し訳なさそうな表情を浮かべていたのか、も。


 止まっていた足が再び動き、歩きながら私達は言葉を交わす。

 彼の言葉に、ハクは無言を貫いていた。


「……もう知ってるとは思うが、おれの父上とヴァンの父上は、所謂幼馴染って奴でね。随分と仲が良いんだ」


 長期間見てきた訳でもない私の目にすら、あの二人の関係値は単なる貴族同士というより、気の置けない友人のように見えた。

 口にされる言葉一つ一つには、良い意味で遠慮はなかったし、きっとそうなんだろうなと思って目にしていた。


「だから、幼い頃からおれとヴァンも顔を突き合わせたりする機会がそれなりにあった。父親同士が仲が良いからな。爵位も同じで、良き友人になってくれたら。そんな理由で度々引き合わせていたんだろうぜ」


 直接聞いた訳じゃないから絶対とは言えねえけど。と、苦笑いと一緒に付け加えられる。


「ただまあ、父上達の想いとは裏腹に、他でもないおれのせいでそんな事は無理だったんだがな」

「どうして」

「おれは、あいつらみてえに天才じゃなかったからだよ」

「…………」

「おれは稀代の天才と謳われる魔導具師ロヴレン・マグノリアでなければ、魔法師の名門エスターク公爵家の歴代の中でも特に飛び抜けた才を持ったカルロス・エスタークでもない。ましてや、その血を色濃く受け継いだヴァン(天才)でもなかった。平々凡々なおれは、劣等感の塊だった。勿論、それが悪いとは言わねえ。ただ、凡人と天才は、間違っても対等じゃねえ。対等には、なれねえ」


 どれだけ取り繕ったとしても、その違いはどうしても見えてしまう。

 どうやっても、埋められない。隠し切れない。


「分かるだろ。あんたも、〝落ちこぼれ〟だなんて呼ばれてた人間だ。ヴァンほどじゃないにせよ、アリス・アイルノーツは紛れもなく天才だった。そんな奴を間近に見てきたんだから」


 ……よく、分かる。


 そして、世間はそれを踏まえ、天才としてのヴァンとして見るようになる。

 そうとしか、見なくなる。

 その存在意義は、婚約相手としての価値であり、自分の価値を高めるアクセサリーのようなものであり、御家の発展の為の駒。


 心を許せる人間は────一人として存在しない。誰もがその色眼鏡で見るから。

 同じ境遇であったカルロスさんには、ロヴレンさんがいて。

 ロヴレンさんには、カルロスさんがいた。

 でも、ヴァンには誰もいなかった。


 勿論、それを苦に思わない人間もいる。

 楽しめる人間もいる。

 でもだけど、私が思うにヴァンは違った。


 私がハクの存在に救われたように、対等な存在を欲していた側の人間だった。

 だから、学園を去った理由はよくわかる。


 関わっても苦にしかならない。

 だったら、一人の方がよっぽどマシ。

 そんな考えに落ち着いた人間に、学園など不要でしかないだろう。


「〝特別〟だなんて言葉をつけて、仲間外れにしてほしくねえ。対等でいられる存在が欲しかった。同じ天才じゃなくてもいい。ヴァン・エスタークをただの一人の人間として見て欲しい。そんな、友達が欲しかった。そう思ってる奴に、おれはあろう事か、一番言っちゃいけねえ言葉を言った。突き放したんだよ、おれは。あの中で唯一、ヴァンの友達と言えた筈のおれが」


 具体的な発言の内容は聞こえてこない。

 だけれど、ここまで説明されたお陰で、リキさんがヴァンに対して申し訳なさそうな態度を取るのか。その理由が分かった。


「その事に気が付いたのは、もうどうにもならなくなった時だった。でも。でも、だからもう「仕方がない」って割り切っちまうのは何というかさ────ダサいだろ?」


 笑う。

 ずっとあった軽薄さはなりを潜めて、快活に、屈託のない笑みをリキさんが浮かべた。


「だから、凡人は凡人なりに努力をしてみる事にした。歯ぁ食いしばって、必死に、頭ぶっ壊れるくれえ、努力してみる事にした。せめて、天才なんだって騙れるくれえには、追いついてみようってな。それが、罪滅ぼしで、あいつの友達としてやれる事だと思ったから」


 そこで、リキさんは私を見た。


「でも、その必要はなかったみたいだが」


 責めるような眼差しではなかった。

 むしろ、嬉しさに似た感情が宿っていた。


「あんたがいてくれて良かったよ。だから、ありがとうなのさ。悪いね。先に、これを伝えたかったんだ。流石にヴァンに聞かれる訳にもいかねえからさ。恥ずかしいからな」

『……不器用、なんだね』

「んなわけあるか。おれは、リキ・マグノリアだぞ。この天才(、、)が不器用なわけがあるか」

「それもそうですね」

「空気の読める奴は好きだぜ。丁度、あんたみたいな人はよ」


 〝天才〟という仮面を被って、リキさんは満足そうに笑った。

 でも、本当にリキさんが凡人であるのかについては疑わしい部分だけれども。



 やがて辿り着いた先。


 C1と呼ばれていた場所は、やや埃にまみれたところであった。

 そして何より────薄暗い。


 なんだったら、幽霊が出てもおかしくないような雰囲気が漂っていた。


「呪い関連の本なんて、殆ど眉唾だし、そもそも見ようとする人も物好きな奴くらいだ。だから、埃まみれなのは仕方ないと言えば仕方がないんだよな」


 傍にあった本を、リキさんが取り出す。

 埃を払い、中身の確認を始めた。


「取り敢えず、手分けをして探すか。それじゃあ、あんたはあっちの────」

「そういう事でしたら、私はこっちを探しますので!」


 そう言ってリキさん指差した方向は、特に薄暗い場所だった。

 そんな訳で私は遮るように声を上げる。


「……そういや、脅かした時も驚いてたし、もしかしなくても幽霊とか苦手な人? 幽霊っぽいもの連れてるのに?」

『……僕と幽霊を一緒にしないで貰おうか』


 ハクがお怒りだった。

 それはもう物凄い目力で、発言者のリキさんが「ぉ、おぉう」と怯むくらいに。


「そもそも、幽霊なんている訳ねえよ。どうせ、なんかの見間違いとかが関の山だろ。面白おかしく噂が広まってるだけだっての」


 だから、怖がるだけ無駄なのだと語られる。


「そんな訳でだな────」


 しかし、それらの言葉は丸ごと全部、意味のないものと化す事となった。

 理由は単純にして明快。


「……って。なんだ。二人して、見ちゃいけねえもんでも見たみてえな顔して」


 私やハクと向かい合っているリキさんには、丁度、背後にあたる場所。


 私の見間違いでなければ────いた(、、)

 本来なら見えちゃいけないものがいたのだ。


「い、いるんです」

「いる?」


 ゆらゆらと鬼火のようにゆらめく青白いソレが私の視界に映りこんでいた。


 私の見間違いか、勘違いかなと一瞬、現実逃避を起こしてみたけどハクも彫刻のように突如として固まってしまったのでこれは勘違いじゃないのだろう。

 一刻も早くここから逃げなければという気持ちがあるのに、石像のように固まってしまった足が思うように動かない。


 いやいやいや。

 そんなまさか。


 これは……そう。精霊術師にだけ見える目の錯覚だ。精霊の悪戯か何か。

 もしくは、白昼夢とか。


 兎に角、これは私とハクだけが見えてる幻覚か何かなのだと思い込みながら指を差してみる。


 従うように、リキさんが肩越しに振り返りながら背後を確認して────「おおう」と、友達に出くわしたくらいの調子で答えを口にした。

 それはもう、一切の遠慮も躊躇いもなく。


「あれ、噂の幽霊じゃね」

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