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3.七年後

 七年という月日は、選ばれた天職を受けた者に伝承の英雄にも引けを取らない実力を与える。


 拮抗していた魔族との戦争において、彼ら()()が現れたことで戦況が瓦解し、136年前とは逆に、魔族を人類が支配しようとしているほどに。

 《勇者》率いるこのパーティは、魔界から沸く魔物たちを片っ端から討伐し、ダンジョンを攻略し、次々と魔族から領土を奪い返していった。


 《勇者》アリスは卓越した剣技と人外染みた身体能力を持って、パーティの主力となり、


 《賢者》ロナルドはあらゆる魔法を駆使してパーティの後衛を務め、


 《聖女》カタリナは二人の受けた傷を悉く癒す。


 そして《斥候》の俺は、落とし穴やワイヤートラップなど、罠の発見、解除や探索に精通し、パーティを回避できる危険から守る……はずだった。


 《斥候》としての修練を積んで、俺が習得したのは人が手間を掛けて設置する罠に関する知識。だが今の魔界のダンジョンでは魔法によって簡易化されたトラップが主であると判明したのだ。


 気づいたのは、俺のパーティが初めてダンジョンに潜った時のこと。

 俺は魔法による罠に関しては全く精通していない。だから解除できない。そして魔法によるトラップは《賢者》がいとも簡単に解除してしまう。結果として俺の役割は《賢者》に完全に潰されることになり、俺は荷物持ちとしての地位を確固たるものとした。


 こうなったのは、パーティの面々に与えられた伝説の魔道具が俺にだけ与えられなかったことも大きい。

 《勇者》には聖剣、《賢者》には魔導書、《聖女》にはロザリオ。これらの魔道具はもともと開きのあった俺と彼らの力をさらに引き離し、足手まといとなった俺は戦闘に加わることすらできない。


 こういった理由もあって、俺は自然と他のメンバーから攻撃されるようになった。

 王や国民からのプレッシャーもあったのだろう。繰り返す遠征の度、ストレスのはけ口にされることも少なくない。暴力を振るわれることも多々あった。


 やがてその中には、かつての幼馴染のアリスも加わることになる。


 王都での修練が始まった始めの頃、まだアリスは優しかった。《斥候》の地道な座学ばかりで、どんどん力をつけていくみんなに置いて行かれる俺の不安に寄り添い、悩みを聞いたり、手合わせに付き合ってくれた。

 しかし、貴族出身で《賢者》のロナルドや王都で有力な大司祭の娘であるカタリナと関わるうちに、足手まといである俺を下に見る彼らの考えに同調し始めたようだ。


 その結果、王や貴族からも煙たがられていた俺の味方はいなくなった。


 そうして、俺は荷物持ちだけでなく更なる雑務を押し付けられるようになる。拠点の町から、王城への報告、物資の調達や宿泊所の手配。ダンジョンで手に入れた戦利品や魔獣の素材、携帯食料はすべて俺が運ぶ。


 そんな暮らしが続いても、少しでも役に立とうと最初の頃は限られた時間を使って鍛錬を続けていた。しかし、いくらやっても開き続ける力の差、鍛錬なんかしても無駄だとメンバーから叱咤され続け、度重なる睡眠不足で疲れは溜まる。


 最初の頃こそ、俺の不当な待遇に怒りを覚えた。だが事実、戦闘では俺は役に立てない。しかし、パーティをやめようにも、《斥候》という伝承の天職を与えられた俺がこのパーティを抜けることは国民の心象を悪くしかねないため受け入れられなかった。

 何より、荷物持ちである俺が抜けることは、メンバーが許さなかった。いわく、俺たちに荷物を持たせるなんてふざけているのか! ということらしい。


 とある魔族の襲撃で村の両親が魔物に殺されたこともあって、やがて俺は無気力になっていった。


 そんな日々が続く一方、《勇者》率いるパーティはかつての伝承通り魔族を圧倒し、いつの間にか人類は魔族の領土のほとんどを奪い取っていた。

 魔族の王である魔王を除き、“十英雄”と呼ばれる、十人いた魔族の有力者も今では一人。


 今俺たちは、魔族最後のダンジョンの攻略に挑んでいた。

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