2.《斥候》
「この子の天職は、《斥候》です……‼ まさか、伝承に伝わる天職が二人も出るとは……‼ 何たる、何たること‼ 実に素晴らしい‼」
《斥候》。名前だけは聞いたことがある。《勇者》や《賢者》に並ぶ伝説の天職の一つだったはずだ。だが、自分がその天職であることに実感が持てない。
一瞬の間、静寂が訪れた後、アリスの時と勝るとも劣らない歓声が場を包んだ。
「さすがアレインッ! 我が息子よ!」
「すごい! すごいよアレイン!」
アリスと両親にもみくちゃにされながら、ようやく自分がすごい天職を与えられたのだと気づく。周りの歓声に充てられて、笑顔があふれてきた。
しばらくして報告を終えたらしく、大司祭様が慌てた様子で戻った後、天の詔の儀式はつつがなく終えられた。
その日の夜は予定にはなかったが、村で宴が開かれた。
言い伝えられた天職である《勇者》と《斥候》が同じ村に二人現れたことで、領主から酒や肉といった祝いの品が贈られたからである。普段口にできない美味な料理を口にし、村人たちは満足したようだった。
俺やアリスには祝福の言葉が贈られ、ほかの大人たちから祝福された俺の父親やアリスの父親は終始泣きっぱなしだった。
それから朝になると、俺やアリスは今まで通りの生活を送り始めた。大司祭様からはいずれ王都から迎えの騎士たちが来るだろうと言われ、それまでは家族の時間を送ろうということだ。
その間、父親と母親からは昔話や俺が幼かったころの話を気が滅入るほど聞かされた。突然息子が言い伝えにある天職を与えられた戸惑いもあったのだろう。でも、家族との時間は有限であるという自覚もあったから、俺はこの時間を大事に過ごすことにした。
2週間ほどたっただろうか。王都から豪華な馬車を引き連れて騎士たちが迎えに来ていた。
代表らしい騎士の人が言うことには、俺とアリスはこれから王都に向かい、必要な技術を会得しなければいけないらしい。
予想通りしばらくは村に帰れないらしく、わかってはいたもののしばらくの間父親がゴネまくっていたが、母親に諫められ、覚悟が決まったようだった。
両親から見送られたあと、アリスと合流した俺は今まで見たこともないほどの豪華な馬車に乗り王都に向かった。
馬車の中で、騎士の人から多くの話を聞かされた。
父さんが話してくれた伝承は136年前、人類の領土を魔族から奪い返した英雄は4人いた。《勇者》《賢者》《聖女》《斥候》を天職に持った4人である。
領土を奪い返した代償として、4人の英雄は次々に命を落とした。その後、人類は領土を盤石なものとしたが、英雄たちと同じ天職を持つものは以後一人として現れなかった。
しかし今、4人の英雄と全く同じ天職を持つものが4人現れている。今ここにいる《勇者》のアリス、《斥候》の俺以外に、《賢者》と《聖女》が王都で先に修練に励んでいるという。
「君たち二人にも、王都につき次第、伝承に記されている修練に励んでもらう」
「伝承の修練、ですか……?」
「ああ、《勇者》の君にはあらゆる武術の鍛錬、《斥候》の君にはあらゆる探知や罠に関する技術を修めてもらう」
アリスと比べてあまり英雄らしくない修練だと思ったが、伝承いわく必要であるらしい。
その後、王都にたどり着いた俺たちは人々から熱烈な歓迎を受けた。何せ、伝承から136年ぶりの《勇者》たちだ。魔族との戦争に終止符が打たれる時だと言う者も少なくないらしい。それだけ大きな期待を背負われているのだと、ようやく気付くことになる。
「アレイン、一緒にがんばろうねっ!」
「ああ……」
大衆の声援を馬車の窓際から覗き、アリスは満面の笑顔で俺に言った。その笑顔を見た俺は、たどり着く未来が幸福であると信じて疑わなかった。
王城での歓迎会が執り行われた後日、早速俺たちはそれぞれに充てられた教育係とともに、それぞれの修練を積み始める。
《斥候》として覚えることはたくさんあって、他の英雄候補者たちと比べても遜色はなかったと思う。
しかし、俺が覚えているのは罠や索敵といった小手先のスキル。直接戦闘に関わることではないため、他の英雄候補者に置いて行かれないよう、自由時間の間も鍛錬を続けたり、アリスの教育係の人に手ほどきを頼んだりした。
それでも、天職の差は残酷なほど強く顕れる。その度に、足手まといにはなりたくない。俺のせいで誰かを傷つけたくない。そう強く願って……。
気が付けば、王都で修練を初めて七年の時が過ぎた。