浦島太郎、待つ。
匿名希望です。
むかしむかし、浦島太郎っぽい青年がおりました。
釣りが好きな浦島は、海で釣り糸を垂れると魚がかかるのをひたすらに待ちます。特に待つのは苦ではありませんでした。むしろそれが釣りの醍醐味だと思っています。
「あ、カメェがいじめられてる」
イガイガのメリケンサックをつけた小坊主が二人、カメを執拗に殴り続けています。カメは虫の息です。
浦島はいじめが終わるのを待ち続けました。
そこそこの魚が3匹獲れた頃、ようやくいじめは終わりました。
「大丈夫ですか?」
浦島がピクピクと痙攣しているカメに声をかけました。
「か、かろうじて……」
ボコボコに殴られすぎててカメかスッポンか分からなくなっている顔を撫で、とぼとぼとカメは海へと向かいました。
浦島はこっそりカメの背中に乗りました。
海底の竜宮城。乙姫が浦島を見て驚きました。
「ボコボコだったので、つい」
乙姫がカメを突き飛ばし、浦島の手を引きました。
「まぁ! カメを助けていただいたのですね? ありがとうございます!」
何をどう勘違いしたのか定かではありませんが、浦島は竜宮城の中へと導かれ、もてなされました。
浦島は無言で食べ始めます。
無言で飲み始めました。
「まあ、食べっぷりも素敵なのね」
ひたすらに食べ続けました。
がむしゃらに飲み続けました。
三年が過ぎました。
浦島は今日も食べ続けてます。
乙姫が帰れという、その日まで……ひたすらに待ち続けます。
カメは竜宮城の入り口でひっくり返ったままですが、三年経っても誰も助けてくれません。
匿名希望でした。