9.再会
神社への参道が見えてきた。
「そこを入るんじゃ。」
お爺さんが指をさす。
4人が鳥居をくぐると社は目の前だ。
今朝がた私たちが出てきたままなのか、扉が半開きになっていた。
「お前さん方は本殿に飛ばされたんか?」
「はい、あのお社は本殿なんですね。」
「本殿といっても、拝殿や別殿があるわけではないがの。」お爺さんはニコニコ顔で説明してくれる。
~お爺さんもお婆さんもいい人でよかった。
真紀はお爺さんの笑顔に癒された。
お爺さんが近づいていくので私たちもついていく。また何か起こるもしれないと少し怖い。
「おっ。」お爺さんが扉を開けると暗い室内に誰か倒れているようだ。
「まさか、だれか飛ばされた?」
私たちが慌てて駆け寄ると、声をかける。
「優香?優香なの?」「菜々美!」「先生!」
どうせ先生は最後です。
~遠くで声が聞こえる。この声、私知っている。
「う~ん。・・・真紀?おはよう優香が寝ぼけて目を覚ました。
「優香。会えてよかった!」真紀が抱きついてきた。
「真紀・・・。そうか、私また飛ばされたんだ。」
先生と菜々美も目を覚ます。
「3人とも無事だったか。よかった。みんな心配したんだぞ。」みんなで無事を喜ぶ。
どうやら真紀たち3人に続いて俺たち3人も飛ばされたらしい。
この世界は飛ばされるのが当たり前なのか?
「そうか、知り合いなんじゃな。」お爺さんが笑顔でつぶやいた。
「この方は?」俺はお爺さんのことを真紀に尋ねた。
「この近所に住んでいるお爺さんです。」
迷っていたところを家で休ませてもらい、ごはんまでご馳走になったことを聞いた。
「この子たちが世話になってありがとうございます。」
「なに、ワシらも2人だけで寂しかったからちょうどよかったわい。」
「詳しい話を聞きたいんですけど、今度は残してきた子供たちが心配です。
戻れるものなら戻りたいんですけどできますか?」
「先生、それがだめらしいの。」
転移は巫女の力が必要で、神様と神様の間、多分神社と神社を転移するらしい。
その時、神光というあの不思議な光に包まれるようだ。
しかし、その力は連続では使えないらしく、1日は空けないといけないらしい。
ことなどを説明した。
「お爺さん、そういうことですよね。」真紀が説明してくれた。
「そうじゃ、詳しくは婆さんに聞くとええ。それよりお前さんたちもメシを食っておらんのではないか?」
「ぐ~」だれかの腹の虫が答えた。
俺たちはお爺さんの家に連れて行ってもらうと残った芋粥をいただいた。
「すっかりご馳走になってすみません。それともう少しお話をお聞きしてもいいですか?」
俺はこの国のことや転移のことを詳しく聞いた。
お爺さんはひろしさん、お婆さんはたえ子さんというらしい。
~そうか、ここは神国、日本ではない。歩いて自分の家に帰ることはできないだろう。
ここは日本に非常に似ている。いや、日本の過去か未来かもしれない。
どちらにしても戻るなら転移するしかないか?
しかし、巫女の力で転移したとしても、制御できるのだろうか?最初にしろ、今日にしろ、
自分たちの意思とは関係なく転移してしまった。もう少し調べないとな。
それよりも残してきた桜たちのことが気になる。
水分、食事、凶暴な獣のこともある。
明日の朝、転移を試してみよう。
「あの~、大変申し訳ないのですが、一晩泊めていただくわけにはいけませんか?私は外で構いませんので、この子たちだけでもお願いできないでしょうか?」
「おお、もちろんじゃ。狭いし布団はないが、この部屋で寝ればいいじゃろ。」
「「「ありがとうございます。」」」
私たちは晩御飯もいただいて寝ようということになった。一人で外で寝るのは危ないのし自分たちも不安なので先生も部屋の中で寝るように決まった。
昨夜バスで寝た時はそれぞれの座席を倒して、なんとなくマイ・スペース的な雰囲気があった。
今日は違う。一つの部屋に雑魚寝だ。
~やばいぞ、女子高生と雑魚寝だ。絶対に何かあってはいけない。
俺は一番奥の隅を陣取った。
優香が「う~ん。ここは部長の私が先生の隣で寝ます。」
~まずい、優香の揺れる胸が目に浮かぶ。
「いいえ。私は先生のクラスだから私が隣でいいです。」菜々美が異議を唱える。
~菜々美。さっきまで、大人しかったじゃないか。そんな嬉しそうに見つめないでくれ。
「でも部長としての責任が」「いいえ、ここは任せてください。」
2人が主張する。
~まさかのモテ期がきたか?どっちが来るんだ?
俺はハラハラ、ニタニタしながら2人を見る。
その時、隣との襖が開いた。
「やれやれ、お前さんは奥へ行って爺さんと寝ろ。」お婆さんが布団を抱えて出てきた。
「はい。」襖越しに話を聞いていたお婆さんと入れ替わりに奥の部屋に入る。
俺はほっとしたような、ものすごく残念なような、複雑な気持ちで目をつぶるのだった。
朝目が覚めると、お婆さんが朝食の支度をしていた。隣を見るとお爺さんはもういない。
「おはようございます。お世話になった上に寝坊してしまってすみません。」
「なあに、どうってこたねぇ。」
「あの、お爺さんは?」
「畑に行っておる。手が空いてたら爺さんを見てきてくれ。畑は神社の近くじゃ。」
お婆さんに頼まれて畑まで行くと、お爺さんが芋を掘り起こしていた。
「おはようございます。お手伝いします。」
「おお。それじゃ起こした芋をその木箱に入れてくれ。」
俺は芋を拾い上げると丁寧に木箱に並べていった。芋はサツマイモに似た赤っぽい色をしている。
昨夜の芋粥は甘みがありおいしかった。
「このあたりにはほかの人は住んでいないんですか?」
作業をしながらお爺さんに聞いてみた。昨日から爺さん婆さん以外の人を見ていない。
「もうこのあたりに住んでいるのはワシら夫婦だけじゃ。以前は何人かいたが、亡くなって空き家になったり、子供の住んでいる遠方に行ってしまったりしてな。」
お爺さんも寂しそうだ。
俺とお爺さんは収穫した芋の箱を抱えて家に戻った。
「「「おはようございます。」」」
流石にみんな起きていた。俺たちは朝ごはんを食べさせてもらい2人にお礼を言う。
「お2人の大事な食料をいただいてしまってすみません。」
「はっはっはっ。このあたりは土地が肥えているので作物が良く取れる。2人で食べきれずに腐らすこともあるでの。ちょうどええわい。」
そう聞いて少し気が楽になる。
「お世話になりっぱなしで心苦しいのですが、そろそろ残った子たちを迎えに行きたいのです。」
「ほうか。神光を使うのじゃな。行ってくればええ。やり方はわかっておるの?」
「それなんですが。ここへ来れたのは自分で望んだのではなく、光に包まれて気が付いたら勝手に転移していたんです。神社に行くだけで元の場所へ飛べるでしょうか?」
「なんじゃ。”神楽”を知らんのか。まあええ、ワシが神社までついていこう。」お婆さんがうれしそうな顔で張り切っている。
俺たちは相談して俺、優香、真紀の3人で迎えに行く。他は子は残ってお爺さんの手伝いをしてもらうことにした。
「じゃ行くかの。」お婆さんを先頭にバットやトンボを担いで3人が続く。
本殿の前まで来ると神楽の練習をするという。「よく見ておれ。」
お婆さんはそばに落ちていた小枝を拾うと年齢を感じさせない動きで舞う。
「お婆さん素敵。」「とってもきれいです。」2~30秒の舞であったが、俺も見とれてしまった。
「ほっほっほっ。ざっとこんなもんじゃ。本当は小枝でなく神楽鈴を使うんじゃがな。ところでおぬしら2人は生娘じゃな?」
「えっ。生娘って、し・しょじょのことだよね。」「そうだと思う。」
「で、どうなんじゃ?」
2人は俺のほうをチラチラ見ながら、無言で頷いた。
「なら、大丈夫じゃ。生娘でないと、巫女の力は出ないでの。」
そうなのか。2人が処女でよかった。
俺が見ていると気づいた2人が赤い顔をしてプンと横を向いた。
「さ、練習じゃ。」
2人は小枝を拾うとお婆さんに合わせて神楽を舞う。
初めはぎこちなかったが10分もすればそこそこ踊れるようになった。
「そうじゃの、おぬしのほうがよさそうじゃの。」
優香が指名された。2人一緒に舞ってもいいが、本来は1人で十分らしい。
すぐそばにいる者や手に持っている荷物も同時に転移されるらしい。
「大事なのは動きよりも気持ちじゃ。行きたい場所(神社)を思い浮かべて、神様に連れて行ってほしいと願うのじゃ。」
「はい。わかりました。」優香が真剣な顔で頷いた。
俺たちは3人で本殿に入り、俺と真紀は座る。
優香は1人立って小枝を手に持つ。外を見るとお婆さんが頷いている。
「いきます。」
優香が小枝を両手で握りしばらく集中する。転移先の巨岩を思い浮かべて神様に祈る。
優香の舞が始まった。しばらくすると、小さな光が現れ、優香の周りを回る。
舞い終わったと同時に光が大きくなり俺たちを包み込む。
薄れ行く意識の中で俺は「うまくいきそうだ。」と感じていた。