8.木下真紀
私はぼんやりと目を覚ます。
あたりは薄暗い。どこかの建物の中にでもいるようだ。
「ここはどこ?私はどうしたんだろう?」
はっきりしない頭で記憶をたどる。
そうだ、私は理央と富美の3人で森の中を探索していた。
食べ物や水などを探しながら歩いていたが、しばらくすると広場に出た。
広場の真ん中には大きな岩が積まれていて、・・・
「そうだ、不思議な光が現れて飲み込まれたんだ。あの時みたいに。」
トンネルの時のように。
ということはまたどこかに飛ばされたのか?
「理央?富美?」
同じ部屋の中に倒れた人影がある。
「理央、大丈夫?」
「うーん。真紀・・・アタシ気を失ってたのか? そうか、畜生~。またあの光にやられたみたいだな。
おい、富美も起きろ。」
「う~ん 、え、ごめんなさい。私何かやらかしました?」
「なにもしてねえよ。それよりまた飛ばされたみたいだ。」
「え。どうしよう、もうお家に帰れない・・・。うっうっ・・・」
富美が泣き出した。
「ちっ。しっかりしろ。泣いてもしかたねぇ。」
とりあえず2人とも無事みたいだ。
「ここは何か建物の中みたい。外へ出てみる?」私は理央に問いかける。
正面に扉のようなものがある。隙間から光がさしている。
返事を待たずに、扉を押してみると簡単に開いた。
外は太陽が昇っている。いい天気だ。
昨日の広場にいた時は夕方だったので一晩中、気を失っていたのだろう。
私はバットとお茶を持つと、少し段差を降りて外に出た。2人も続いて出てくる。
あたりは木々に囲まれているが、このあたりだけひらけている。
少し先には朱色の鳥居のようなものが見える。振り返ると、先ほどいた建物は神社の本殿か拝殿のようだ。詳しくは知らない。
「これって神社だよね。人がいるんだ。もしかして元に戻れたのかも?」
「そうですよ。これでお家に帰れる。」富美がうれしそうだ。
私もこれで助かりそうだと思いほっとした。
私は木下真紀。とりあえずピッチャーだ。
部長の優香とは小学校時代からバッテリーを組み、中学時代には全国大会にも出た。
この地区のソフトボール関係者にはちょっと有名だ。
1年の時先輩に食って掛かって、それ以来クラブは休みがちだ。
当時、両親の離婚問題で揉めていて私はイライラしていた。
実力差がどうであれ、先輩がレギュラーを務めるのは当然だ。
私は頭ではわかっていてもどうにもならないことにいら立ち、先輩に当たり散らした。
でも本当はソフトボールがしたい。苦しい練習を頑張り結果を出せた時は最高の気分だ。
全国が決まった時には優香と抱き合って喜んだ。
また、あの充実感を味わいたい。
でも私が意地を張っていたのだ。
理央は評判は悪いがいい友達だ。
私が家庭のことやクラブのことで悩んでいるとき話を聞いてくれた。
口が悪いのでヤンキーだと言われているが相手のことをよく考えてくれる。
1年の富美に対してもいじめているわけではない。
富美は甘やかされて育ったようだ。人づきあいが苦手で相手に依存してくる。
そんな富美を見かねて理央が面倒を見ている。
たまにパシリに使うけど、富美は嫌がっていない。
頼まれることやそれのお礼を言われることがうれしいようだ。
実は今回の練習試合は楽しみにしていた。
久しぶりに優香とバッテリーを組むのが楽しみだった。
ところがこんなことになりソフトボールどころではなくなった。
今頃優香たちはどうしているだろう。心配して探してくれているだろうか。
私たちは参道らしき細い道を降りていくと少し広い道に出た。
景色が広がり、田畑が見えるがあまり手入れは行き届いていないようだ。
少し先に小さな家らしきものがある。
「あそこへ行ってみよう。」2人は無言で頷いた。
期待と不安で3人とも口数が少ない。
周りに人影はない。鳥が鳴いているだけだ。
~本当に人はいるのだろうか。
建物に近づいた。
中からごそごそと音が聞こえる。誰かいるようだ。動物の可能性もあるが。
「どうする?」小声で相談する。
「声をかけるしかないんじゃない?じっとしてても始まらないし。」
「私に任せて。2人は後ろに隠れていざとなったら助けてね。」
私は玄関らしき戸の前に立つとノックをした。
「こんにちは。どなたかおられますか?」
努めて明るく声をかける。
先ほどまでの聞こえていた音が止まった。
私は数歩下がると、バットを背中に隠し、前を見つめる。
ガラガラを引き戸が開き老婆が現れた。
「なんじゃ、あんたは。どこから来たんじゃ?」
「すいません。道に迷ってしまって。少しお聞きしたいことがあるんですが?」
私たちはお互いをじろじろ見た。
お婆さんは70歳は超えているだろう。頭の白髪や顔のしわも目立つ。
「おまえさんは変わった格好をしとるの。まあ、中に入りんさい。」
「友達も一緒にいいですか?」おずおずと2人が出てくる。
「ほえ、お揃いのべべ着て、みんなめんこいのー。さあさ、こっちじゃ。」
私たちの服装はすぐにアップができるように、クラブのお揃いのジャージを着ていた。
私たちは顔を見合わせて頷くとバットを置いて家に入らせてもらう。
木造の小さな家はだいぶ古そうだ。
入ると土間があり、すぐ前に畳の部屋がある。部屋の真ん中には囲炉裏があった。
奥にももう一部屋あるがたぶん寝室だろう。
「何もないけど、座ってくれ。」
私たちが囲炉裏の前に座るとお婆さんがお茶を入れてくれた。
「お婆さん、ありがとうございます。お茶いただきます。聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「なんじゃ。なんでも言うてみ。」
「こ・ここは日本ですか?」富美が待ちきれずに問いかける。
「日本?ここは神国じゃ。おぬしらはどこから来たのじゃ?」
「私たちは日本という国から来ました。ここは日本じゃないんですね・・・」
富美は落胆している。
~しかし妙だ。言葉は日本語が通じるし、先ほどの神社やこの家のつくりも昔の日本にそっくりだ。
~このお婆さんは田舎生まれの田舎育ちで知識がないだけかもしれない。
「もう一つ、私たちは不思議な光に包まれて、気が付いたら山裾の神社にいたんです。なにか心当たりはありますか?」
「なんと、お前さんたちは巫女か?」
「ミコ?巫女か。婆さん、アタシたちは女子高生だ。巫女じゃないよ。」理央が答えた。
「ジョシコーセ?よくわからんが、神光を使えたなら巫女じゃろう。」
「神光ってなんですか?」
「神光は神様の力じゃ。その力を使って神様の間を行き来できるのじゃ。それができるのは巫女だけじゃ。」
~私たちは巫女じゃないけど、巫女の条件には当てはまるかもしれない。条件といってもよくわからないけど。女子?
「私たちが飛ばされたのはその神光のせいかもしれないね。」
2人はわかったようなわからないような顔をしている。私も同じだ。
「私たちは元の場所に戻れるでしょうか?」
「神光が使えるなら戻れるじゃろう。何十年も使ってないはずじゃが壊れるもんでもないしの。」
「やった。私たち帰れるんだ。」富美が一喜一憂するが落ち着け、まだわからない。
「ところでお婆さんはここに1人で住んでいるんですか?」
「爺さんと一緒じゃ。今、山に行っとるがもう帰るころじゃろ。もう昼じゃからワシは飯の支度をするでの。お前さん方も食うていけ。」
だれかのおなかがグーと鳴った。
「婆さん、帰ったぞ。」どうやらお爺さんが帰ってきたらしい。
「こんにちは、お邪魔してます。」
「ほえ。娘っ子が3人もおる。」お爺さんは目を見開いて驚いた。
「婆さんこれはどうしたんじゃ?」
「少し前にうちに訪ねてきての。ワシもびっくりしておったところじゃ。」
「珍しいこともあるもんじゃの。お前さんたちはどこから来たんじゃ?」
「それが・・・」私はわかる範囲で説明する。
「そうか。神光で飛んできた、いや、飛ばされたのじゃな。そりゃ、神様もびっくりしたじゃろな。」
お爺さんは楽しそうに笑った。
「婆さん、今日はいいウサギが捕れた。この娘たちにも食べさせてやろう。」
そういいながらお爺さんはウサギの耳を掴んで持ち上げて見せた。
お婆さんはウサギを手早くさばくと、用意していた鍋に放り込んだ。
「さあ、できたで。たんとお食べ。」
目の前に椀を置かれる。ウサギの肉が入っているはずだ。
さきほどお爺さんが掴んだウサギを見てしまったので、なんとなく箸を付けづらい。
「遠慮せんでもええぞ。ほれ。」爺さんが催促する。
「いー、いただきます。」ここは私が切り込まないと。目をつぶって椀の中身を口の中へ掻き込む。
「ん、んー、おいしーい。」中身は芋粥だった。肉も入っている。
薄味だったが、私はおなかが減っていたのでとてもおいしく感じた。
あんまり私がおいしそうに食べるので、2人も続いて食べる。
2人とも無言でモリモリ食べる。
「ほっほっほっ、気持ちいいくらいに食べるの。やっぱり若い人はいいわい。」
「おいしかった~。お婆さんありがとうございます。」
「それはよかったの。そっちの娘さんはお代わりかの?」
空になった椀も見つめていた理央が嬉しそうにお椀を差し出す。
「すみません。いただきます。」理央のしおらしいところ、初めて見たかも。
その後、私と富美もお代わりをいただいた。
「私、一度神社に戻ってみたいんです。優香たちも気になるし。元の世界に戻れるかもしれないし。」
「なんじゃ、他にも連れがおるのか?」
「はい、先生も入れて全部で10人です。」
「神社に行くのはええが、神光は多分使えんぞ。少なくとも1日は空けんとな。」お婆さんが教えてくれる。
「それでも見に行くだけでもいいので。」
「どれ、ワシがついて行ってやるかの。こう見えても現役の猟師じゃからな。」
凶暴なウサギを獲ってきたお爺さんは腕は確かなのだろう。
ここは素直にお願いする。「じゃあ、アタシたちも行ってみるか。」理央と富美もいれて4人で出かける。
念のためにバットは持っていくことにした。
神社まではすぐだ。
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