5.ウサギそして・・
この作品は恋愛要素が強めかもしれません。
俺は警戒して前方の草むらを見つめる。
しかし、ひょこっと顔を出したのは野ウサギだった。ウサギは草食動物で気が弱い。ほっとした。
「可愛い~」桜が近づいていく。
「ちょっと待て。」俺は異変を感じた。
ウサギは臆病で人を見ると逃げていくはずだ。
ところが前方のウサギは逃げるどころかこちらを睨むように威嚇してくる。
桜も怖くなってこちらへ戻ってきた。
「刺激しないように離れよう。」
俺の指示に2人はうなづいて静かに動き出したとき、突然ウサギがこちらへ突っ込んできた。
「きゃっ!」突撃されそうになり優香が飛びあがる。
ポヨン! 優香の胸が大きく揺れる。これは目の毒だ。ウサギではなく俺が刺激を受けた。
頑張って視線をウサギに戻す。
ウサギは通り過ぎてUターンすると諦めずに再度突っ込んできた。
~仕方ない。
俺はバットを握りしめるとタイミングを見計らってウサギを叩く。
スカッ!
~あれ?空振り?
通り過ぎたウサギは止まってこちらを振り向くと「ニタッ!」と笑ったように見えた。
~くそ!やっちまった。
「任せて!」今度は桜がバットを構える。
4番サード田中桜。さすがに堂に入った構えである。
「かっ飛ばせ~!サ・ク・ラ!」
ウサギが突っ込んできた。桜がタイミングを取って、
「ゴン!」
鈍い音がして、ウサギが吹っ飛んだ。
優香が「ナイス、桜。回れ回れ!」いや、どこを回るんだ・・・。
「イエ~イ!」桜と優香がハイタッチして喜んでいる。
「いや、だから・・・。この隙に戻るぞ。」
「イエ~~~。」テンション高っ。
「いや~。さっきは助かったよ。さすが4番打者だな。」
「まあね~。先生は監督でもしててよ。」
「まいったな~」
そんな話をしながらバスまで帰った時にはお昼を少し回っていた。
「みんなただいま~。」「あ~。やっと帰れた。」「俺も疲れたよ。」
「先輩、お帰りなさい。先生もお疲れ様。」1年ファーストの楓が出迎えてくれた。
「外はどうでした?何かわかりましたか?」楓と仲の良いセカンドの芽衣が聞いてくる。
「ほとんど収穫はなかったな。話より先に休ませてくれ。おなかも空いたし。遅くなったけど、昼ご飯にしよう。」
「あ~。ごめんなさい。私たちはみんな先に食べちゃいました。」芽衣が謝ってきた。
「いいよ、遅くなった俺たちが悪いんだし。俺達も食べよう。」
昼食として用意していたお弁当を広げると、俺たち3人はがっついて食べた。
「・・・ということは、近くに民家とかなさそうですか?」
弁当を食べながら先ほどの探索の様子を話すと、楓が聞いてきた。
「まだわからないけど、すぐ近くにはないかもしれないな。午後からは別方向へ行ってみる。」
俺が答えると楓が
「それじゃ、みんなで探索しましょう。そのほうが早いです。」
「私としてはあのウサギが気になるんだけど。」部長の優香の意見だ。
確かにあのウサギは異常だ。本来臆病な草食動物があそこまで凶暴になるとは。
こちらに向いて唸っているときは口元から牙のようなものが見えた。
まさかの肉食化あるいは雑食化も考えられる。
植物に関しても違和感がある。このあたりの植物は俺の知っている草木と似ているが、よく見ると葉の形や色それに表皮の質感も記憶にある植物と若干違うような気がする。
ここは日本なのか?誰かが言っていた異世界?まさかな!
さて、どうしたものだろう。全員をいくつかの班に分けて探索すれば効率が良いが、何があるか不安である。
かといってこのままバスにこもっていても救助は期待できないだろう。ましてや、水・食料の問題もある。
お茶は余分に持ってきているがそれでも明日までしかもたないだろう。
食料は先ほどの弁当でおしまいだ。
俺は優香と桜に相談し、午後の予定を考える。
そして危険はあるがみんなで探索したほうが良いと結論付けた。
「みんな、聞いてくれ。水や食料のことを考えると、今日中にある程度探索したい。そこで午後からは3つの班に分かれて探察を手伝ってほしい。反対や意見があれば言ってくれ。」
特に反対はなく、手順や注意事項を確認しながら、全員に説明していく。
「それでは班分けだが、」
「芽衣、一緒に行こ」「うん、いいよ楓」
「しゃーねーな。真紀行くか。お前もな。」ヤンキー理央が真紀と富美を誘う。
「じゃ菜々美と朱里は先生と一緒だ。いいか?」2人が頷く。
楓と芽衣の1年生2人だけでは不安なので優香、桜も入る。
これで3つの班ができた。
1班 部長のユウカ、4番サードのサクラ、1年ファーストのカエデ、1年セカンドのメイ
2班 ヤンキーリオ、ピッチャーマキ、1年ライトのフミ
3班 俺、1年ショートの美少女ナナミ、1年の無口なアカリ
探索の目的は
まずは民家・住民の発見。飲み水、食料の確保。現在の状況の把握。
このあたりだ。
俺は目的の意識合わせと注意事項の説明を行った。
「怪我に十分注意して行動するように。何かあっても何もなかっても15時になったら引き返してくれ。17時までにはここに戻ってくるように。みんな時計はあるな?」
「は~い。」と言ってみんなスマホを見せる。
~スマホもいつまで電源が持つやら・・・。
それぞれ手にバットを持って出かける。
1班がバスの右手、2班がバスの後方、3班がバスの左手にそれぞれ進んでいった。
俺はバットが足りなかったので、グランド整備用のトンボを担いだ。
「先生がバットを持ってもどうせ空振りだしね。」と桜がいじってくる。
~はい、その通りです。
「さあ、俺たちも出発しよう。」
俺は苦笑いしながら3班の2人と一緒にバスの左手に進んでいった。
「先生、こうしてお話するの、初めてだよね。」美少女菜々美が話しかけてきた。
「そうかもしれないな。」
俺は菜々美のクラスの副担任だが教室へはたまにしかいかない。担当する物理の授業が週に2回ほどあるがせいぜい順番に当てていく程度だ。実験でも始まれば話す機会もあるかもしれないが。
「たまにクラブに出てきてくれても見てるだけだし。」
「ははは・・」~俺の実力は知っているだろう?
「先生、私と一緒の班になれてうれしい?」
少し顔を傾けて、ドキッとする笑顔で聞いてくる。
「・・・な・なにを・・・」菜々美、何を言ってるんだ。
もしかして小悪魔か?そういえば新学期早々俺のわき腹を突いてきたことがあったな。
「なあ、朱里?」俺は静かにしている井上朱里に無理やり話を振る。
「・・・」
ん?「朱里?具合でも悪いのか?」
「いえ・・・」
「朱里、絶好調ね! 先生、朱里は調子がいいときほど無口なんです。」
「そ・そうか。何かあれば言ってくれよ。」
ほんとに無口な子だ。まあ機嫌が悪いわけでもないらしい。
俺は菜々美と雑談をしながら木々の間を進んでいった。
俺は途中でキノコを見つけ採集していく。山菜も取れた。
毒キノコもあるので見極めが大事だ。じいちゃんに感謝だな。
菜々美は将来、芸能活動をするのが夢だそうだ。少し前に読モ(読者モデル)としてティーン向けの雑誌に載ったらしい。
「私が有名になったら、高校時代の恩師として先生を紹介するね。いや”恩師””よりも”好きだった人”のほうがいいかも。」
~どこまで本気かわからないが、ここは冷静に!
「はは、期待しておくよ。」
そう言って菜々美に振り回されていた時のことだった。
目の前の草がガサガサと揺れると、突然、鹿が現れた。
「「キャッ!」」
大きな牡鹿だ。立派な角を生やして体重も100いや200キロ近くあるかもしれない。
「フッフッ」と息をしながらこちらを睨んでいる。
口元からはよだれを垂らし、目元が血走っているように見える。
やばい!やばい!やばい!!!
鹿も草食動物だ、本来は人間を襲ったりしない。
だが目の前の鹿は明らかに俺たちを威嚇している。
朝のウサギのことが思い出された。
~ここの動物はどうなってるんだ?
「お前たち下がれ」俺は菜々美と朱里を庇うように立つと、トンボを構えた。
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