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44.スリ

旅は二日目。


今日の目的地は摂津。かなり距離があるので頑張って歩くぞ。

「優香、大丈夫か?」

「私は大丈夫よ。先生こそ昨日は涙目だったじゃない。」

「あはは、今日は最初からスニーカーだから大丈夫だ。」

「ならいいけど。さあ、がんばっていきましょー!」

2人ともテンションが高い。やる気満々だ。昨夜は何もなくぐっすり眠れたのが良かったのか。よし、行こう。




「はあはあ、ゼイゼイ・・・」

「もう、先生大丈夫じゃないじゃない。」

「いや・・・こんなはずでは・・・ないんだ・・・けど・・・はあはあ。」

まだ昼前だというのに俺がへばってしまった。うう、情けない・・


「健太さん、少し早いけど昼休憩にしましょう。」

秋田さんの言葉でやれやれと腰を下ろした俺はそのまま寝ころんだ。

「ゆ,優香、回復をかけてくれー。」

「え、回復って病気や怪我には効くけど疲労回復にも効くのかな」

「多分、効くと思う。以前疲れていた時、治療院のおこぼれで楽になったことがあるんだ。」

「うーん、じゃあやってみるね。」

<神様、先生の疲れを癒してください。回復の術!>

優香の手からまばゆい光が放たれる。俺は光に包まれ体が温かくなった。


「どう、先生。」

「うーん。微妙だな。」

術で体が温かくなり、少し楽になった気がするが疲労が回復したかというとそうでもない。その証拠に俺はまだ肩で息をしていた。以前の記憶は気のせいだったようだ。

「まあ、このまま休んでいればよくなるよ。さあ、お昼にしよう。」


俺たちは宿で用意してもらったおにぎりとお茶で昼ご飯を食べる。

「おにぎりだけだけど美味しいな。」

「うん、美味しい。やはり外で食べると美味しく感じるのね。」

「そうでしょう。これも旅の醍醐味の一つです。毎日同じ家で同じようなものを食べていたら美味しさがわからなくなります。やっぱり旅は良いですね。」


秋田さんの旅愛が始まった。たしかに旅はいいかもしれないが、家のごはんが美味しくないと言ってしまったら奥さんがかわいそうだろう。


「私は以前に道に迷って街道筋を離れてしまったことがあるんです。どんどん山間に入って食料もなくて3日ほどさまよいました。やっと見つけた農家でおにぎりをいただいたんです。そのおにぎりのおいしさと言ったら。今まで食べたどんな高級料理より美味しかったのを思い出します。」

「空腹は最高の調味料といいますからね。」

「はい、空腹と、これで助かるという安堵感、それに見ず知らずの私におにぎりを出してくれた人の温かさ、もちろんお礼は払いましたが。いろんなものが私の心を揺さぶっていました。やっぱり旅は良いですね。」

それさっきも聞いた気がする。


その後も秋田さんの旅愛を聞かされながら食事を終えた。話をしながらたっぷり時間をとったので、だいぶ疲れもとれた。

「それでは行きましょうか。まだまだ先は長いですよ。先ほどはお二人のテンションが高かったのか、かなりのハイペースでした。少しペースを落としましょう。」

そうなのか。そういえば朝から張り切りすぎたような。昼からはペースを落とし、いい感じで歩けたと思う。

「もうすぐ摂津の町に着きますよ。」

あーやれやれだな。



その時、バタン!

「あー」

目の前で子供が倒れた。いや躓いていてこけたのか。

10歳くらいの男の子だ。体も服も汚れている。今、倒れて汚れたというより貧しさからくる汚れに見える。

男の子は倒れたまま動かない。

「ボク、大丈夫?」

優香がそばに行って声をかける。男の子はゆっくりと立ち上がったが黙ったままだ。よっぽど痛かったのか。俺も立ち上がりそばによる。

すると男の子は急に動いたかと思うと一度俺にぶつかりそのまま走り去ってしまった。


「なんだよ、今の男の子。人が助けようとしてるのに。」

「健太さん、荷物は大丈夫ですか?」

「え、荷物ですか?大きな荷物は背負ったままだし、お金はさらしで胴に巻いているし。あ!小物入れの巾着がない!」

「スられたんじゃないですか。早く追いかけないと!」

「はい。え?姿が見えない?」

つい先ほどのことなのに男の子の姿がない。

「あ~やられましたね。スリです。ちょっと怪しかったんですよね。目の前でこけるし、動きが不自然だし。」

「ど、どうして言ってくれなかったんですか。そうしたらもっと注意してたのに!」

「いや、私も確信があったわけじゃないし、本人の目の前で言えないでしょ。もし勘違いなら子供を傷つけちゃうし。」

「まあ、そうですね。」

「それより先生。巾着には何が入ってたの?」

「うーん、大したものは入ってないけど、手ぬぐいとか、小銭とか、・・・そういえばライターが入ってたな。無くなってもいいけど、本来この世界にはないものだしな。」

「ラ、ライターって前に見せてもらった火が付く道具ですか?あーあれは私も欲しかったです。言い値でお支払いしてもよかったのに。」


「ま、仕方ありません。以後気を付けますよ。」

「先生ごめんなさい。私が男の子に声をかけたばっかりに。」

「優香のせいじゃないさ。もし優香がいってなかっても俺がいってたと思うし。」

「今後も気を付けないといけないけど、同じようなことがあったら、私、同じようなことをしちゃうかもしれません。」

「そうだよな。倒れた子供をほおっておくなんて俺にもできないな。」

「確かに難しいですね。同じ手を差し伸べるにしても、少し疑って声をかけるようにすればどうですか。」

「なんだか悲しいけど、そうする方がよさそうですね。」


そうこう、話をしているうちに摂津の町に着いた。

「まずは宿を確保しましょう。心当たりがあります。」

さすが旅慣れた秋田さんだ。頼りになる。結局町はずれのおすすめ宿に空きがあり、そこに決まった。

昨日と同じく俺と優香で一部屋だ。部屋に案内され、荷物を置くと神社に行くことにする。


宿を出ると、

「ちょっと先生、何をしてるんですか?」

え、この声は、

「楓じゃないの。こんなところでどうしたの?」

「それよりこれ!ハイどうぞ。」

「あれ、俺の巾着?どうして楓が?」

「ほら、ボク、出てきて!」

物陰からスリの男の子が出てきた。

「あ、こいつ。ダメじゃないか、人のものを盗んじゃ。」

「・・・ごめんなさい・・・」

巾着の中身を確認すると、小銭もライターも入っていた。

「どうしてこんなことをするんだって、(やっぱり貧しいからか)」

問い詰めるつもりが自問自答になってしまう。

「お父さんやお母さんは知ってるのか?」

「・・・お父さんは、、、いない。・・・お母さんは・・・病気で・・・寝てる・・・」

俺と優香は顔を見合わせる。そうか、なら仕方ないか。いや、仕方ないではいけないな。

「お母さんは風邪か何かか?」

「知らない、けど、ずっと病気・・・」


「ねえ、ボク、お母さんのところに案内してくれる?」

「え、いやだ。お母さんに、、、言いつけるんだろ。」

「いいえ、違うわ。お母さんの病気をみてみたいの。力になれるかもしれない。」

顔を伏せていた男の子がチラと優香を見る。

「お姉さんが病気を治せるの?」

「うん、できるかもしれない。連れて行ってくれる?」

「スリのこと、言わないなら、連れていく。」

「言わないよ。」

「ちょっと先輩!せっかく私が捕まえてきたのに、痛い目にあったのを忘れたんですか?」

「ん、楓ありがとう。って先生の荷物だけど。でも私このままほおっておけないわ。」

「先輩、面倒見がよすぎます。そのうち大怪我しますよ。」

「いいのいいの。怪我を治すのは得意だから。それよりどうして楓がここに居るの?」

俺たちは男の子の家に案内されながら楓と話をする。どうやら俺たちが一線を超えないように理央が送り込んだらしい。理央のやつ、そんなことばかりしているな。物陰から俺たちを監視していた楓がスリの現場を一部始終見ていたということだ。


「そうだったのか、楓、荷物を取り返してくれてありがとう。」

「もう2人とも甘いんだから、そんなことじゃ異世界では生きていけませんよ。」

おっと久しぶりに楓の”異世界”が出たな。


歩いているうちに道幅は狭くなり、古い建物が増えてきた。やたらゴミゴミしていて悪臭も気になる。

「ここ。」

男の子が指さしたのは古い長屋の一部屋だ。

近くに老人がうずくまっているが、こちらに注意も向けない。まるで生気が無い。この界隈を象徴しているようだ。


「お母さん、ただいま。」

「お邪魔します。」

中に入ると部屋は散らかり掃除も出来ていない。奥に布団が敷いてあり誰か寝ているようだ。

「こんにちは。息子さんの知り合いのものです。」

布団がもぞもぞ動いた。

「誰か知らないけど、払う金は無いよ。帰っとくれ。ごほっごほっ。」


借金取りだと思われたのだろうか。歓迎されてないようだ。

「違うんです。私、巫女なので病気を診れると思うんです。」

「巫女?どちらにしろ治療代なんか払えないよ。帰った帰った。ごほっ。」

「先輩。やっぱり帰りましょ。」

「いえ、ちょっと失礼します。」

「えっ。先輩?」

優香は構わず布団の傍による。

「な、なんだい。勝手に。」


この人、やはり肺が悪いみたい。栄養状態も悪いし。

「お布団をめくりますね。じっとしてください。<回復の術>」

「え、ちょっ・・」

優香の手から光が出て母親の体を優しく包む。

「どうですか?」

「それは、呼吸が、楽になったけど・・。でもお金は払えないよ。あんたが勝手にやったんだからね。」

「はい、お金はいりませんよ。これは息子さんのためにやったんです。気にしないでください。」

「え、あ、お姉さん、あ、ありがとう。」

男の子がお礼を言った。なんだ、素直な子じゃないか。

「それでは、失礼します。」

「ああ。」

お母さんも小さな声で返事をする。


家を出ると男の子も一緒に出てきた。

「お母さんあれでも喜んでるみたいだ。」

「うん、よかったな。これでお母さんに何か食べさせてやるんだ。」

俺は男の子に小銭を握らせた。

「え、いいの?どうして僕たちなんかに・・・」

「まあ、何かの縁ということかな。お母さんを大事にするんだぞ。」

「わかった。お兄さん、お姉さん、本当にありがとう。」

「悪いことはするんじゃないぞ。お金がいるなら働くんだぞ。」

「うん、そうする。」


「あ~あ。二人ともとことんお人よしですね。なんだかお二人を見張るのがばからしくなっちゃいました。」

「もう見張らなくていいよ。俺たちは大丈夫だから。」

「でもこのまま帰ったら理央先輩に怒られちゃいます。」

「あ、帰るで思い出したけど、神社に行って一度転移しとこうか。」

「そうですね。私も一度帰ります。」


神社はすぐ近くにあった。小さな神社で夕方ということもあり誰もいない。俺たちは3人で姫豊神宮に転移した。


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