42.お風呂で
のぼせてしまった。
男たちがやっと風呂場を出ていった。
「優香今のうちに。」
「う、うん、先生も。」
今立ち上がるわけにはいかない。下半身は反応したままなのだ。そりゃそうだろう。大好きな優香と裸で向き合っていたのだ。でもこんなところ見せられない。
「俺もすぐに出るから優香は先に行ってて。」
「ん。」
歯切れが悪い。先ほどの男たちのことが気になるのか。
「そ、それじゃあ、出るけど、後ろを向いててね。絶対にこっちを見ちゃだめだよ。」
そうか、優香がこのまま立ち上がって脱衣場の方へ向かえば裸の後ろ姿を見ることになる。お尻も丸見えになる。湯船に浸かる時のように。
俺は後ろを向いた。
「よし、いいぞ。」
ザバッと音がして優香が湯船から出たようだ。
俺は心配して、、、他の客がいないか、優香が足を滑らせないか、ちゃんと戸を開けられるか(子供か?)そう、あくまで心配して、優香の方をチラッと見た。速足で歩いている。これなら大丈夫そうだ。優香が扉に手をかけるとき、こちらを振り向いた。
「っ・・」
俺は慌てて首を振る。
ガラガラと音がしてそのまま優香が出ていったみたいだ。
よし、一段落か。でも俺はまだ一段落していない。先ほどの後ろ姿でまたもや刺激を受けてしまった。当分出られそうにない。優香がいなくなって湯船の縁に腰を下ろすと「ふぅー」と一息つきお湯と優香とダブルの刺激で火照った体を冷やした。
「先生。」
部屋に戻ると優香が座って待っていた。部屋には布団が2組敷かれている。当然そうなるよな。優香も意識しているようでお布団と俺を交互にを見ている。
「なんだかのぼせちゃってな。」
黙っている優香に言い訳するように声を出した。まさか俺の体のことは言えない。
「そうなの・・・あ、さっき食事の用意ができたって鈴さんが来たよ。」
「そういえばおなかが空いたな。優香行こうか。」
「うん。」
優香がぴったりと寄り添ってきた。まだ男たちのことを気にしているのかもしれない。俺はそっと優香の肩を抱く。
「大丈夫だ。俺が付いてるから。」
「うん。」
優香はなぜか言葉少なだ。横顔を見ると少し上気しているように見えるのはまだのぼせているのか。
食堂に着くともう食事が始まっていた。秋田さんもいて俺たちはその横に座る。
「秋田さん、隣いいですか。」
「もちろんです。私は先ほどまで市場にいてすっかり遅くなってしまいました。商品を見ているとついつい時間を忘れるんですよ。」
「なにかいいものがありましたか?」
「ええ、ここは港町なので、主に魚介系を見ていました。生魚は日持ちしないので買えませんが干物を仕入れました。タコの干物もあるんですよ。」
そういえば、タコを洗濯もののように広げて干してあるのを見たことがある。干物なら行商に向いているだろう。
雑談していると、すぐに配膳され俺たちの前に食事が並ぶ。鈴さんと息子くんもお手伝いだ。
「どうぞごゆっくり。」
「はい、ボクもお手伝いして偉いな。ありがとうな。」
「えへへ、ほめられた。」
息子のほうが嬉しそうにお母さんに報告する。鈴さんも嬉しそうだ。
「いい親子だな。」
「本当に。実は私にも同じくらいの年の子供がいるんです。」
「え、秋田さんはご結婚されてるんですか。」
まだ数日だが一緒にいるのにお互いのことをあまり知らない。
「奥さんもいらっしゃるんですよね。どうされてるんですか?」
「実は私は地元で商店を営んでおります。私が行商に出ている間は嫁さんが店を見てくれています。」
「なるほど、いい奥さんですね。」
「ええ、それに私は旅が好きなんです。知らない土地に行ったり初めてのものを見たり食べたり。行商は旅のついでのようなものです。だから店を切り盛りしてくれている嫁さんには頭が上がりません。」
なるほど、道楽亭主か。奥さんも大変そうだな。
「さあ、いただきましょうか。」
タコ飯だ。おかずには煮魚と芋の煮つけが付いている。
「お、タコ飯だ。美味しいんだよな。」
「私も好きです。ここに来た時はやっぱりタコ飯を食べたいですね。」
「うん、この歯ごたえがいいな。プリプリしてて。出しも効いてる。」
優香が静かだな。あまり食欲がないのか。
「優香、どうした?気分でも悪いのか?」
そういえば風呂で出くわした男たちは別のテーブルで食事をしている。こちらのことは特に気にしてないようだ。
「お風呂のことが気になるのか?あれは事故みたいなものだし。次からは俺も気を付けるよ。」
「じ、事故だなんて。あの事を事故で済ませる気なの。」
「お風呂で何かあったんですか?」
「いえ、食事の前にお風呂に入ってたんですが、他の男性客が後から入ってきて困ったんです。」
「ああ、なるほど。この規模の宿屋ではよくあることですね。若い女性のかたは恥ずかしいでしょう。タイミングを見てサッと入るしかないですかね。」
この世界ではお風呂アルアルのようだ。次は俺が見張りに立とう。
「そうですね。気を付けます。」
優香を見るがそこまで落ち込んではいないようだ。
「しかしタコ飯はうまいな。」
俺はお代わりをいただき、食事を堪能した。
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(もう、先生ったらわかってるのかな。)
私はどうも勘違いをしている先生に少し怒っていた。もちろんほかの男性が入ってきて恥ずかしかったけど、私はそんなことを気にしてるんじゃない。
(先生が私を抱きしめたりするから)
やっぱり先生は男だ。がっしりした腕や胸板を意識してしまう。お互い裸なのにギュッと抱きしめられてしまった。厚い胸板に私の胸が押し付けられる。私は頭が真っ白になってしまった。
(えっ)
私の太ももの、お尻に近いあたりに、何かが当たる。最初はわからなかった。
先生は急に腕の力を緩めると、先ほどまでくっついていた体が離れた。
私は少しホッとすると気が付いてしまった。
(あ、そうか。もしかして)
先ほど当たったものはきっとあれだろう。以前に甥っ子をお風呂に入れたことがある。その時の姿を思い出した。
(ど、どうするのよ。私はどうしたらいいの。)
私は気が動転してしまい、どうしていいかわからない。いや、わかっている。先生はほかの男性客から私を守ってくれている。だからこのままじっとするしかない。少し離れたいけど離れられない。ううん、離れたくない。
頭が混乱している。先生の息遣いを感じながら私は動けなくなった。
「優香、大丈夫か?」
ハッとして頭を上げるとほとんどの客が食事を終えていなくなっていた。
「ご、ごめんなさい。」
「いや、別にいいさ。体調が悪いなら食事を切り上げて部屋で休むか?」
「ううん、そうじゃない。せっかくだから食べてしまうわ。」
私が慌てて食事を再開すると先生は黙って見ててくれた。
「気になることがあったら言ってくれよ。俺も気を付けてるつもりだけど聞かないとわからないこともあるから。」
先生は優しい。いつも私のことを思ってくれている。でも気づかないこともあるだろう。
「先生ありがとう。お風呂でのことがびっくりしただけ。先生もその、男の、人なんだなって・・・」
「お、男の人って、もしかして優香あれ気づいてたのか?」
私は黙って頷く。
「そ、そうだったのか。ゴメン。でも優香を襲おうとか傷つけるとかそんなことは絶対ないから。あれは生理現象で俺の気持ちとは別なんだ。本当なんだ。」
なんだか先生が必死で言い訳している。
「うん、わかってる。先生は私を大事にしてくれている。でもそういう気持ちは少しもないの?全くないの?」
「ああ、無い。い、いや少しはあるかな。でも無い。うん、無い。」
「ん、いいよ。少しはあるんでしょ。全くなかったら私もショックだし。それと私がお風呂から上がる時みてたでしょ。ダメって言ってたのに。」
(あ、ばれてた。)
「まあ、いいわ。あー話したら少しすっきりしたかな。」
私は笑顔で先生を見た。
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