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37.座敷童2

客間に敷かれた2組の布団を見て俺たちはびっくりした。


「由美さん。逃げましたね。」

「うん、逃げたね。」

由美さんは霊が苦手なのもあるが、こういう状況になることをわかって実家に帰ったようだ。


優香はぴったりとくっついた2組の布団をチラチラ見ている。

「ちょっとくっつきすぎだな。」

俺は一組の布団を引っ張って間隔を開けた。

「でも離れてて何かあるといけないし。」

今度は優香が布団をくっつける。

そんなにくっつけたら俺の煩悩が・・・俺が再度、布団を離そうとしたら、

「もう、先生、2人で起きてましょう。」

「そ、そうだな。」俺は頷く。



最初は怪奇現象に警戒していたが特に何も起こらないまま時間が過ぎていく。

「もうすぐこちらに来て1年だな。」

「そうですね。長いようで短いような。最近はこっちでの生活が当たり前になりました。」

「ああ、俺もそうだ。元の世界での生活は遠い昔のような気がする。」

「以前にも言ったと思うんですが私たちは神様に呼ばれてこちらの世界に来たと思うんです。でももし1人で来てたらと思うとぞっとします。

「確かにな。みんなと一緒でよかった。」

「私もです。私も先生と一緒でよかった・・・」


おれは優香の手を上からそっと押さえる。元の世界にいたら優香とこんな展開にはなっていないだろう。たとえ好きという感情があったとしても、それを押し殺して生徒と先生の関係のままだったはずだ。

「そう考えると、転移させた神様にも感謝だな。」

「はい、そうですね。ふふ。」

夜は静かに更けていった。




「コトッ」

ん、なんだろう。

「トントントン、パタン」

誰かが廊下を歩くような音がした。百合さんだろうか?それとも?

俺はそっと障子しょうじを開けると廊下を覗く。行灯あんどんの明かりが漏れて廊下を照らすが誰もいない。優香も後ろから覗く。

「誰もいませんね。」

障子を閉めて次を待つが特に何も起こらない。


声を潜めて待っているとだんだん眠くなってきた。見ると優香も欠伸をしている。

「俺が起きているから優香は寝ていいよ。」

「いいえ、大丈夫です。ふぁ~。」

大分眠そうだ。その時、

「トントントン、コロコロコロー」

また廊下で音がした。障子を開けてみる。


何かが転がってきて目の前で止まった。

まり

何処から来たんだ?廊下を端から見渡すが何もない。

「毬みたいですね。今回の霊ってもしかして。」

「うん、そうかもしれない。」



「うふふ、うふふ。」

今度は部屋の中から笑い声がした。慌てて振り返るとそこにはおかっぱ頭の小さな女の子がいた。

「うふふ、遊びましょ、うふふ。」

俺はぎょっとして固まった。

「あなた、お名前は?」優香が女の子に話しかける。

「うふふ、名前?名前なんかないわ。遊びましょ。」

「君は座敷童なのか?」

「なあにそれ?遊んでくれるの?」


「ううん、今は遊べないの。それよりここのお家の人が寝られなくて困っているの。あなたは自分の家に帰らないの?」

「私の家はここよ。前は違ったけど。それより遊んでくれないの?ずっと待ってたのに。せっかくあなたたちが私のことを見つけてくれたのに。」

「ごめんね。私たちは遊べないの。誰か遊んでくれるお友達のところへ行ってくれる?」

「遊んでくれないなら仕方ないわ。私、お友達を探しに行くわ。」

「そうね、そのほうがいいわ。きっといいお友達が見つかるわ。」

「ん、わかった。もう行くね。バイバイ。」



女の子は消えた。廊下に転がっていた毬も消えている。

「行ったかな?」

「そうですね。」

「やっぱり座敷童だったんだろうか。」

「そうだと思うけどそれは人間が付けた名前だから。座敷童は幸運を呼ぶらしいからここのご主人の出世もあの子のおかげかもしれませんね。」

「そうかもしれないな。ま、どちらにしろこれで解決したかな。」


その後は何も起こることなく、睡魔に襲われた俺たちは短い睡眠をとった。




翌朝、由美さんに解決したことを伝え、迎えに来た由美さんと姫豊神宮に戻った。


しばらくしてその後の様子が気になり百合さんのことを聞いてみた。

「由美さん、その後、百合さんはどうですか?」

「はい、おかげさまですっかり元気です。お二人にはとても感謝していました。百合ちゃんにはお兄さんがいるんですが良縁が決まり、お父さんはさらに出世して家じゅう幸せいっぱいです。百合ちゃんも可愛い妹ができたと喜んでいます。」

「可愛い妹?いや、まさか、まだいるのか?」

「小百合ちゃんというらしいです。いっぱい遊んでいるそうです。」


俺は驚いて優香を見る。

「ん~、まあ、悪い霊じゃないから。」

「そ、そうだな。これも一つの解決かな。」

幸せならそれでいいか。俺が優香を見てほほ笑むと優香が俺にそっと寄り添った。


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