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35.天狗3

俺たちの視界の先には2メートルはありそうな天狗がいた。幸いこちらには気づいていないようだ。


顔も体も真っ赤で上半身は裸だ。腰みのを付けて足には下駄をはいている。鼻は長く伸びていて目を剥いたような顔をしている。腰にぶら下げているのが大うちわだろう。

子供の泣き声はすぐそばの小屋から聞こえてくるようだ。小屋と言っても木の枝を組んで木の葉で覆ってあるだけだ。少なくとも子どもは生きているようだ。


このままツッコめばどうなるかわからない。俺たちの武器が通用するかどうか。それに一撃で倒せないと思うのでこちらにも被害が出る可能性がある。小屋にいる子供を巻き込むわけにもいかない。俺たちはそっとその場を離れる。


「先生、どうします。」

「うん・・・、少し戻ろう。」


そうだな、ここなら。

そこは一本道で両脇は丈の長い草が茂っている。

「ここで迎え撃とう。」

「優香と理央、芽衣は両脇に分かれて待機だ。俺が天狗を誘い出すから、天狗が近づいたら攻撃してくれ。富美は離れたところに隠れて何かあればみんなのサポートを頼む。楓は俺と来てくれ。先ほどのところに戻るぞ。」

「了解です。私の出番ですね。私はこの日のために弓道を習っていたのです。」

「頼もしいな。でも自分に酔うんじゃないぞ。危なくなったら逃げるんだ。みんなもそうだぞ。」

「「はい」」


俺は楓を連れて先ほどの天狗のところに戻る。幸いなことに天狗は同じところにいた。

「楓、ここから破魔弓で天狗を狙えるか?」

「はい、大丈夫です。当てて見せます。」

「矢を射ったら楓はそこの岩陰でやり過ごしてくれ。俺は天狗を引き付けて先ほどの待機場所へ戻って迎え撃つ。」

「わかりました。」

「よし、いくぞ。」

気配を殺したまま、楓は弓を構える。向こうはほとんど動かない。案外おとなしいのか。

ビュン!矢が放たれた。矢がぐんぐん迫り天狗の顔に命中する。

「ギャーーーー」

矢は天狗の右目に突き刺さった。天狗は叫び声をあげて怒り狂っている。

「楓」俺は楓に声をかけると岩陰に移動させる。


「こっちだ!」

俺は立ち上がると大声を出して天狗の注意を自分に向けさせた。

天狗は俺を見つけると鬼の形相で近づいてくる。ある程度引き寄せると踵を返して道を進んでいく。待機場所まですぐだ。

「来るぞ!」

俺はそのまま道を走り抜ける。


まずは芽衣の攻撃だ。少し距離があるが顔に向けてくないを投げる。

ダメだ。外した。しかし慎重にもう一度。

ザクッ!

「ガォー」

顔は外したが、肩口にくないが突き刺さる。楓の矢は右目に刺さったままだ。

芽衣は身を潜めてその場を離脱する。


肩口に刺さったくないを抜こうとして天狗の足が止まる。

次は理央だ。この隙を逃さず理央が槍で攻撃する。天狗は背が高いので顔は狙えない。足狙いだ。

ザシュザシュ!

一撃、二撃、

「グゥォー」

足を突かれて天狗がしゃがみこんだ。

今だ。俺も飛び出して薙刀で理央に加勢する。

カツッ!コン!

あ、あれ、攻撃が通らない?

「何やってんだよ先生!おらっ!」

理央は確実にダメージを与えていく。そのまま押し切れるかと思った瞬間、天狗が吠えた。

「ウォーーーー」

天狗はふらつきながらも立ち上がり両手を振り回して暴れる。理央は素早く飛びのいたが俺は飛ばされてしまった。

「先生!」優香が駆け寄る。

「優香、来るな」

「先生、今助けます。”回復の術”」

俺は温かい光に包まれダメージが軽減される。しかし暴れまわる天狗に今度は優香が弾き飛ばされた。

「優香。ゆうかーー!」

俺は優香に駆け寄ると優香を抱きしめる。ぐったりしているが大怪我はないようだ。


「おい、優香に何をした!お前は許さない。許さないぞー!ウォーーー!」

俺は薙刀を握りしめ天狗を切りつける。型も何もあったもんじゃない。めちゃくちゃに振り回した。それは怒りだ。優香を傷つけた相手を絶対許さない。

「ウオーー!」

ザシュ!ザッ!「オーーー!」




「先生。先生!」

優香の呼びかけに我に返る。

「先生。終わりました。」

俺の足元で天狗が息の根を止めていた。優香が駆け寄ってくる。

「はぁはぁ。やったのか? 優香、大丈夫だったか。」

「私は富美に回復してもらったので。先生こそ大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。よかった。優香が無事でよかった!」

俺は優香をギュッと抱きしめた。

「先生。ちょっと苦しいよ。」

「ご、ごめん夢中で。」


楓も戻ってきてみんなに囲まれている。

俺は急に恥ずかしくなり優香を離した。

「み、みんな大丈夫だったか?」

「ま、先生が一番危なかったかな~。」

「ははは、そうかもな。そうだ、つかまっていた親子を助けに行こう。」

「それならここに。」

どうやら楓が気を利かせて助けてくれたようだ。

「みなさん、助けていただきありがとうございました。」

「お兄さん、お姉さん、ありがとう。」

どうやら天狗は親子を捕まえただけで、小屋に囲っていたようだ。ペットのつもりだろうか。それは天狗に聞いてみないとわからない。


その時足元の天狗が光り出した。シルエットが薄くなっていき、光とともに天狗の体も消えてしまった。


「ま、終わったということだな。みんなご苦労様。さあ、帰ろうか。」

「はい、でも先生。この子のお父さんのことも。」

あ、忘れてた。


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