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33.天狗

久しぶりの投稿です。

立野の戦いが終わり俺たちは休暇をもらった。


理央、富美、楓、芽衣、優香と俺だ。治療院のほうも落ち着いているし、他のメンバーの巫女力も上がって1日複数人の治療ができるようになったので少々抜けても大丈夫だ。


俺たちは町に出て休暇を楽しんでいた。

「少しお腹が減ってきたのです。ご飯の時間ですね。」

富美が俺と理央を交互に見ながら催促してきた。

「お前は、ほんっとに食いしんぼだな。」

「じゃあ、ちょっと早いけどお昼にするか。そこの蕎麦屋でいいか?」

「「「オッケーです。」」」


みんなそれぞれ好きなものを注文し、テーブルについて待つ。少し早いかと思ったが、席に着くとその気になってしまい、蕎麦が来るのが待ち遠しい。そんな時、近くのテーブルから気になる話が聞こえてきた。


「それよりあの噂を聞いたか?」

「ああ、あれか。本当だろうか。俺は信じられん。」

「いやいや、もともとあの山にいるという話は昔からあったんだ。今まで山奥にいたのが何かの加減で麓のほうに降りてきたんだろう。」

「けが人も出たという話だからな。あまり近寄らないほうがいいぞ。」

「そうだな。」


何だろう。山に何か出たのか。イノシシか熊だろうか。

「こんにちはお兄さん。その話詳しく教えてもらえませんか?」

優香、急にツッコんだな。


「なんだ、お嬢さん興味があるのか。まあ。美人だから教えちゃうか。」

男は優香を見ていやらしそうに笑う。

「出たんだよ、鉢伏山に。もう何人もに目撃されて怪我人も出ているんだ。だから興味があっても行くんじゃないぞ。」

「え~。怖そうですね。で、何が出たんですか?」

「天狗だよ。テ・ン・グ!」

テング?



「はい、お待ち。」

「「「いただきま~す。」」」


ちょうど運ばれてきた蕎麦を食べるが、天狗のことが気になる。

天狗?天狗って鼻の長いあれか。妖怪だったかな?

「ふふっ。先生、今度は天狗退治ですか?勇者の血が騒ぎます。」

楓は勇者じゃないだろ。そんなに目をキラキラさせるんじゃない。

「楓ったらまたそんなこと言って。何かあっても私は知らないからね。」

芽衣は反対らしい。


「なんだよ、悪霊の次は天狗か。まあ、アタシにかかればイチコロだけど。」

理央も天狗を退治するつもりか。

「優香はどう思う?」

「その天狗が悪さをしてみんなを困らせているならほっとけないですね。」

「そうだよな。でも噂だし、もう少し調べてみよう。」



「は~、お腹いっぱいです。」

みんなが蕎麦を食べ終わる前に、天丼とかけ蕎麦を食べ終わった富美が満足そうに言った。

天狗にはノーコメントか。ぶれないな。




神社に戻った俺たちは河田奉行に話を聞く。

「それでは天狗の話は本当なのですか。」

「うむ、町奉行から選抜隊が派遣されたが返り討ちにあって逃げ帰ってきたのだ。通常の刀では傷つけることも出来ないらしい。」

「それでは奉行殿や達彦さんたちでも難しいですか。」

「あの2人か、剣の腕は立つが刀が通らないなら退治は無理だろう。」

「やはり人ではなく妖怪だから?」

「そうだな、もっと神聖な、巫女の力ならあるいは・・・」


どうやら天狗の噂は本物らしい。夕食の時間を見計らってみんなに相談する。

「みんな、ごはんを食べながら聞いてくれ。知っているものもいると思うが・・・」

俺は仕入れた情報を説明する。

「今のところ特に大きな被害は出ていないし、神託を受けたわけでもない。無理して退治に行かなくてもいいと思うがどうだろう。」


「だからアタシがやっつけてやるよ。」

「私も勇者の血が騒ぐ~。」

「世間の皆様の迷惑になっているならほおっておけません。」

理央、楓、優香の3人は乗り気か。


「もし退治に行かれるなら武器が必要ですね。」

先ほどまで静かに話を聞いていた宮司の玉田さんが声を上げた。

「武器ですか。この神社に武器が備えてあるのですか?」

「はい、食事が終わったら案内します。」


俺たちは玉田さんの後について本殿の裏手にある物置部屋のようなところにやってきた。

「ここです。」

部屋に入るとそこには数々の武器が並んでいた。

槍、刀、薙刀、くない、弓、鎖鎌など。見てもわからないものもある。

「す、すごいですね。全部本物ですか。」

「もちろん本物です。これらの武器は名のある鍛冶師が神社に奉納していただいたもので、祈祷済みです。神の力を授かった者なら使いこなせるでしょう。妖怪・妖魔にも力を発揮するはずです。昔の巫女もこれらの武器を持って妖怪退治をしていたのです。」


妖怪、妖魔、悪霊などが相手では侍の使う刀や槍では効果がない。そんな時は巫女の力が必要ということか。



「私これにする。」楓が弓をとる。

「それは破魔弓です。破魔矢を使って遠距離から攻撃できます。」


「アタシはこいつだ。」理央は槍を選ぶ。

「その槍は日本号という名槍です。」


「これは、くない?」

芽衣はをくないを選ぶ。結局行くのか。


「優香はどうだ。」

「う~ん。私はこれで。」手首をクリッと回す。今持ってはいないが、神楽鈴のことだろう。


富美は・・・ついてきていないか。前回悪霊に憑依されてひどい目に合ったからな。


俺はどうしよう。刀や鎖鎌は使う自信がない。残ってるのは薙刀か。

俺は薙刀を手に取って玉田さんを見る。

「・・・」

なにも言ってくれない。何かまずいのだろうか?

「玉田さん、これは?」

「・・・薙刀です。」

ん?それは知ってる。俺に興味がないのか?

女の子には愛想がいいくせに男には冷たい感じか。こんな人だったかな?

あ、そうかわかったぞ。これらの武器は神の力を授かった巫女でこそ使いこなせる武器だ。玉田さんには俺の力を言っていない。そんな物もっても役に立たないぞと言いたいのだ。


と、言っても自分でも神の力があるのかどうか、自信がない。あれから力を使う機会もないので検証はできていない。一度治療院で回復をやろうとしたら邪魔者扱いされてそのままだ。

でも天狗と戦うのだ。素手よりいいだろう。


「い、一応これをお借りします。」俺はジト目の玉田さんに言った。



次の日、河田奉行と達彦さん、忠長さんに手伝ってもらい、武器の扱いを練習する。


「ほう、さすがは理央殿だ。槍も持たせても一級品だな。」

「うふふ、そうかしら。」

忠長さんは理央の後ろから手を回して槍を持つ手に自分の手を添えている。

さっきから槍を突く練習をしているようだが可動域が狭く突きにも勢いがない。二人羽織り状態なので当然だ。それではウサギも狩れないぞ。


「うむ、すでに名人の域だと思う。」

忠長さん、ムッチャ適当だな。理央はデレに入っているし。


楓は破魔弓だ。由美さんが練習を見てくれている。

「実は私、弓道をやってたことがあるんです。」楓、意外だな。

「それで筋がいいんですね。私も子供のころから弓を習っていました。」

由美さんも習っていたらしい。由美だけに弓か。でもおやじギャグを言うと女子に引かれるので黙っている。

「由美さんだけに、弓ですよね。」あ~言っちゃった。

「うん、そうなの。よく言われます。」

「「あははは。」」

2人して盛り上がっている。言ってもよかったのか?失敗したな。

でも練習もしてくれ。


芽衣はくないの練習だ。

くないは15センチくらいの投げナイフだ。忍者がよく使うらしい。

敷地内の植木に縄を巻き付け、黙々と投げ込んでいる。

誰も使ったことがないので教えてくれる人もいないようだ。

芽衣、頑張れ!


俺の薙刀は弥生さんという女性の方がついてくれた。年齢は俺と同じ20代前半と言ったところか。きりっとした武人らしい女性だ。

服装は羽織袴に鉢巻をしている。羽織の袖が邪魔なのか、紐を襷掛け(さすきがけ)にして袖を縛っている。

河田奉行の部下で師範級の腕前らしい。弥生さんは俺の横で自分の薙刀を持って手本を見せてくれる。

「健太さん、もっと踏み込んで、はあっ!」

弥生さんは薙刀をブンブン振って基本となる型を見せてくれる。

俺はついていくのに必死だ。



「はぁはぁ。 や、弥生さん、少し休ませてください・・」

「あっ、すみません。私ったら健太さんのペースも考えずに、夢中になってしまって。」

「いや、私こそ運動不足なのかへばってしまって恥ずかしいです。」

「ふふ、最初はそんなものですよ。はい、どうぞ。」

俺は弥生さんが差し出してくれた水を飲み、タオルで汗を拭く。


その時、俺は不意に突き刺さるような気配を感じた。

「なんだ、敵か。まさか天狗の奇襲攻撃か?」

俺は警戒してあたりを見渡すが、これといって敵の姿は見えない。


敷地の隅のほうで桜と達彦さんが談笑している。桜、最近出番が減ったな。以前は最前線で戦っていたのに。達彦さんもみんなの練習を見てくれるはずなのに桜にベッタリだ。まあ、ここで達彦さんがほかの女の子に指導したら桜が嫌がるよな。


ん、あれ?まさか。俺は思い当たることがありもう一度あたりを見渡す。

いた、優香だ。河田奉行と玉田さんの隣でみんなの練習を見ていた優香の気配にビビった。

顔は笑顔だ、多分。しかし目が笑っていない。俺のほうを睨んでいる。俺が弥生さんと練習しているのが気になるのか。


「どうしたんですか?そろそろ練習を続けましょうか。」

弥生さんは座っていた俺に手を差し伸べる。その自然な動きに俺も手を出そうとすると、

っ。

またあの気配だ。しかも先ほどよりきつい。俺はあわてて振り返った。

あ~ダメだ。完全に怒っている。しかもこっちを見て睨んでいる。そこにはもう笑顔はない。


俺は慌てて手を引っ込めた。

「や、弥生さん、今日はもうこれくらいで勘弁してください。体中が痛くてもう動けません。」

これ以上は優香の視線に耐えられない。俺は弥生さんに練習の中止を申し入れた。

「そうですか、残念です。これからなのに。でもまた続きをやりましょうね。」

「はい、ありがとうございます。ぜひお願いし」

ズキッ!

ま、またきた!なぜだ。手を取るのはやめたし、距離も離れているので会話の内容まで聞こえるとは思えない。俺は振り向くのも怖くなり、そのまま座って休む。


これか、これが巫女の力なのか。転移、回復、除霊、俺は様々な奇跡を目の当たりにしてきた。その大いなる力が俺に向けられている。天狗や薙刀なんて二の次だ。今は優香に集中するんだ。俺はゆっくり振り返ると優香を見る。

その顔は、睨まれてはいなかったが呆れような顔をしている。どうしよう。どういえばいいのか。



「はい、みなさん。そろそろ終わりにしましょう。」

玉田さんの声掛けでみんな手を止める。気が付けばお昼前になっていた。

よし、今なら自然にふるまえるだろう。

俺は玉田さんと河田奉行に近づく。

「練習をつけていただきありがとうございました。」

「健太殿、ご苦労だったな。薙刀はどうだった。」

「いやぁ、難しいですね。基本の型を覚える前にへばってしまいました。」

「はっはっはっ、健太殿はもっと鍛錬が必要じゃな。弥生はどうじゃ。薙刀の腕は確かじゃぞ。」

「そうですね。さすが師範代です。動きがとてもきれ」

いたっ。隣にいた優香にわき腹をつねられた。勘弁してくれ。


「アハハ」俺は笑ってごまかす。

「とりあえず昼食にしましょう。ゆ、優香も行こうか・・・」

優香は何も答えずさっさと行ってしまった。だいぶ怒ってそうだぞ。俺も無言で後を追った。


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