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32.戦い終わって

「みんな、お疲れ様。さあ、いただこう。」

俺たちは目の前に並んだおいしそうな料理を前に目を輝かせた。


*****************************

その少し前、


う~ん。ここはどこだ。体がだるくて頭が重い。でも気持ちいいな。柔らかい感触に優しく包まれているのがわかる。この感じは以前にもあったな。


俺はゆっくりと目を覚ました。目の前には俺の顔を覗き込み優しく微笑む少女がいた。

「先生、気が付いたのね。」

「優香すまない、俺は気を失っていたのか。」

「はい、それはもうしっかりと失ってました。」

悪戯っぽくに笑う優香の笑顔に癒される。


「ううっ~」体が重い。

俺は上体を起こすとあたりを見回す。

館のホールのようなところで倒れていた俺。周りのは優香、理央、楓、芽衣、富美もいる。

倒れていた俺は優香に膝枕をしてもらっていたようだ。

「優香、ありがとうな。もう大丈夫だ。そうだ、富美、富美こそ大丈夫なのか?」


「うん。大丈夫なのです。それよりお腹が空いてのです。」

「そうか、それなら大丈夫そうだな。ということは悪霊は退治できたのか。」

「はい、先生がやっつけちゃったじゃないですか。ここへ来た時の嫌な感じはもうありません。」

「ラスボスを倒した先生。かっこよかったね。やっぱり異世界はこうでなくっちゃ。」


「俺がやっつけた?確かにみんなが倒れてもう後がないので詔を唱えて夢中でお祓いをした。そこで意識がなくなったんだ。でもそのお祓いが効いたのか。」

「先生のお祓いはすごかったです。先生が大幣を振るうとラスボスが激しく光ったと思ったら、(ぐぉ~)って苦しみだしてそのまま消えちゃって。残っていた悪霊の気配もすっきり消えましたよ。」


そうなのか。ということは俺にも巫女の力、いや、男だから神主の力か、神力が備わったのか?

「俺に神の力がついたのかな。」

「そうみたい。さすが先生、私が選んだだけのことはあるね。」

優香が嬉しそうにくっついてくる。

「もしそうなら試してみたいんだが。そうだ、理央、あれだけぶっ飛ばされて怪我はどうだ?」

「アタシか。まあ、怪我ッてほどではないけど擦り傷や打ち身はあるな。」

「回復は掛けてないのか?」

「みんな力を使い果たしてるからな。これくらいの傷なら唾つけとけば治るよ。」

「俺に試させてくれるか。」

「先生!先生も力を使って倒れてたんだから、ダメです。」

「そ、そうか。そうだな。」

俺は優香に諭されて試すのを思いとどまった。どうやら焦っていたようだ。今まで何の力もなく、年下の少女たちに頼ってばかりで自分の存在意義を疑問視していた。もし力を得られたならこんなにうれしいことはない。


しかし、今回の戦いはギリギリだった。へたをすれば全滅してたかもしれない。生き残れたことを神様に感謝した。


「さあ、帰ろうか。」

俺たちはとりあえず情報をくれた醤油蔵の主人に報告するために帰路に就いた。




醤油蔵の夫婦はボロボロの俺たちに驚いていたが、館の主を葬ったことにさらに驚きを隠せなかった。

「今まで誰が行っても対処できなかったのに、悪霊を退治したのか?」

主人はびっくりしていたが早速町長に連絡を取った。館の件ではここの主人と町長は何度も情報交換をし対策を考えたりしたこともあり旧知の仲だった。


町長は悩みの種だった悪霊が退治されたことを知り、たいそう喜んだ。もちろんここの夫婦を含め地元住民も不安の種がなくなり安心して生活することができる。夜は町長の計らいで会食に招待された。少し時間があったので、俺たちは風呂をいただく。蔵は麹菌を守るため清潔が大事だ。職人に入らせるために風呂が用意されていた。


風呂で汚れと疲れを落とした俺たちは町長の待つ料亭に着いた。


「やあ、お待ちしてましたよ。さあ、座って座って。」

部屋に案内されるとそこには2人の男が座っていた。一人はいま席をすすめてくれた恰幅の良い中年男。その横に少し若い文官ふうの男性だ。俺たちは促されて席に座る。俺、優香、理央、楓、芽衣、富美の6人。一緒に来た酒蔵の主人は反対側の末席に座った。


「ぐぅ」ん?


「私が町長をしている伊藤だ。隣は助役をしている佐山という。」2人して順に会釈する。

「姫豊神宮から来ました、健太です。今日はお招きありがとうございます。この娘たちは神社の巫女です。」

「うむ、早速だが立野の館、あそこに巣くっていた悪霊を退治されたというのは本当か。今まで儂らもいろいろと手を尽くしてきたがどうすることも出来なんだ。そなたたちには感謝しかない。」

町長たちはそろって頭を下げる。


「ぐぅ~」誰だ?おなかを鳴らしてるのは?

「フフッ!」やめてくれ。笑うんじゃない。

「ん、ゴホン」なんかすみません。



「どうぞ頭を上げてください。私たちは神のお告げに従ってやってきました。でも強力な悪霊だったので退治には二の足を踏んでいました。今回は結果としてたまたまうまくいっただけです。」

「そうか。たとえそれが本当だとしてもこの町の住民にとっては喜ばしいことじゃ。今日は感謝の気持ちとして来てもらった。まずは食事じゃ。さあ、どうぞ。」

「ありがとうございます。みんな、お疲れ様。いただこう。」


目の前にはおいしそうな懐石料理が並んでいる。

先付け、刺身、焼き物、煮物、天ぷら、小鍋、茶わん蒸し

どれも見た目も美しくおいしそうだ。さすがこのあたりで一番の料亭だ。


真っ先に飛びついたのは富美だ。

「もぐもぐ、やっと、もぐもぐ、食べられるのです。もぐもぐ。」

「ああ、アタシも腹ペコだ~。」

「おいおい、行儀良くしろよ。」

先ほどから腹の虫が泣いてたのは富美か?

「これが・・楽しみで・・ついてきたのです。もぐもぐ。」


俺が半分ほど食べる間に富美は間食してしまった。しかもチラチラと周りのお皿に視線を飛ばす。物欲しそうだ。

「はっはっはっ、若い人は豪快じゃの。見ていて気持ちがいい。あ~すまん、誰か居るか。」

町長は仲居さんを呼んですぐにできる追加料理を頼んでくれた。なかなか気が利く人らしい。富美は早速でてきた丼物をガツガツ掻き込む。

「なんだか申し訳ありません・・・」

うう、富美恥ずかしいぞ。


いろいろと話を聞くうちにラスボスは10年前に行方不明になった館の主人だろうということだ。周りから疎まれて被害意識が積もった結果、悪霊化したのではないか。しかしそれも元は自分が招いたことだ。同情の余地はない。


「それで報酬の話だが、佐山。」

「はい、それは私から。健太殿とその御一行には金1000両をお支払いいたします。副賞として醤油が付きます。」

助役の佐山さんが1000両をくれると言う。すでに用意してあったらしく目の前に1000両箱を出してきた。

俺たち6人は目を見開く。

「いや、さすがにこんなにはいただけません。ここへ来たのも要請を受けたわけじゃなく、こちらが勝手に来たわけだし。」

「この町は見ての通り醤油づくりで財政は潤っておる。それに館の主の資産を処分すればおつりがくるじゃろう。その資産は幸い跡取りも居らんから町で没収することとなる。」


なるほど、大金を貰っても町の財政はそれほど懐は痛まないか。俺は優香の意見を聞きたくて顔を見ると

「今回のボスは先生が倒しました。先生が決めてください。」

「そんなものもらっときゃいいんだよ。こっちは死ぬほどの目にあったんだ。」

確かに理央の言うとおりだ。まあいいか。

「それではいただくことにします。ありがとうございます。」

「いえ、こちらこそありがとうございます。館の件が解決したことで今後の町の発展にもつながるでしょう。」


「う~おいしい。」

富美はデザートのお菓子を食べながら満足な顔をしていた。

おい、ちょっとは考えてくれよ。


会食も終わり1000両箱を受け取ると今日のうちに姫豊に戻ることにする。

「それではごちそうさまでした。」

俺は頑張って重い1000両箱を待ちあげると、神社に向けて出発する。


「あっ、ちょっと待ってください。忘れものですよ。」

俺は助役の佐山さんに呼び止められた。

「こちらが副賞の醤油10年分です。」

俺は目の前の背丈ほどある醤油樽を見つめて「副賞ってなんだ?どうやって運ぶんだ?」とつぶやいた。


ストックがなくなりました。更新速度が低下します。orz

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