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28.タコ尽くし

火事から一夜明けた。


昨夜は赤石町の宿屋に泊まった。

この町の神社は小さく、9人の大所帯が泊まれるほど広くはない。かといって治療を行った集会所もまだ怪我人がたくさん残っているので手狭である。

小さな町の宿屋なので豪華なおもてなしは無かったが、お風呂に食事、お布団があれば上等だ。


宿では女子たちの部屋と俺たち男子3人の部屋に分かれて泊まった。


何度も顔を合わせている若侍だがじっくり話したことはない。昨夜は風呂も一緒、寝るのも一緒でいろんな話ができた。

「じゃあ達彦さんは上級武家の出なんだ。」

「うむ、しかし次男なので家督を継ぐことはないだろう。だからこうして河田奉行様に仕えて頑張っているのだ。ところで健太殿、昨日は巫女殿が頑張っていたのに私は全く役に立たなかった。これでは何のためにここまで来たのかわからない。自分が情けなくなった。」

「うん、そうだね。そうなんだ。よくわかるよ。俺はいつもそのことで悩んでいる。優香たちが懸命に頑張っているのに俺は見守ることしかできない。でもね、彼女たちはいくら巫女の力があってもやはり女の子なんだ。うまくいかない時やいやなこともあるはずだ。そんな時支えになってやればいいんじゃないかな。」

「支えになる・・・」

「そうだ、桜だって辛いときは慰めてほしいはずだ。そんな時、力になれるのは達彦さんだよ。」

「そうか、私は暴漢や盗賊から巫女殿を守ることしか考えてなかったが心の支えがいるのか。」

「そうだよ、でももし賊が出たらやっつけてくださいよ。」

「うむ、その時は任せておけ。」


「それで桜とはうまくいってるの?」

「先日、簪を贈ったらたいそう喜ばれた。思わず抱きつかれてしまって焦ったな。実は奉行殿からは巫女の扱いには釘を刺されている。一線を越えてはならぬとな。私と桜どのとは好きおうておると自覚しておるが、なんとももどかしいのだ。」

「あ~、そうだよね辛いよね。わかるわ。」


俺たちは感情を共感出来て一気に友人になれた。実はあ~でこ~でと話は尽きなかった。


「ところで忠長さんはどうなんです。いい人はいるんですか?」

俺はもう一人の若侍、忠長さんに話しかけた。彼は無口で自分からはあまりしゃべらない。

「いや、特におらんが、そのうち見合いでもすることになるであろう。」

「ん?前に理央殿のことを話していただろう?」

「理央と何かあったんですか?」

「あ~理央殿か。以前剣の鍛錬をしていた時に怪我をして治療院に行ったことがあった。その時見てくれたのが理央殿だ。」

「もしかして診療所を開院してすぐの時では?どこかで見たことがあると思ったんだがあの時の」

「そうだ。その時に(ここ程度のケガで来るな)と言われてな。私も腹が立ったが結局すぐに治してくれた。最後の笑顔が、その、か・可愛かった。」

あ、忠長さん赤くなった。


そうか、忠長さんは理央押しか。

「それじゃ、今度向こうも誘って3人ずつで出かけませんか?トリプルデートです。」

「と、とりぷるでーと?どうしたらいいんだ。」

「いや、普通に出かけて食事や買い物をするんです。そうだ、姫豊の町で名所はないですか?いいところがあれば行ってみたいです。」

「そうだな、お城から北へ行ったところに姫豊庭園があるがどうだろう。そろそろ春の花が咲いているのではないか。」

「それはいい、私もしばらく行っていないし桜殿も喜びそうだ。」

「じゃあ、決まりですね。今度の日曜日はどうですか。私が優香と理央を誘いますから、達彦さんは桜を誘ってやってください。2人とも大丈夫ですね。」

「私はもちろんいいが、忠長は?」

「う・うむ。行ってみるか。」

「はい、よろしくお願いします。」


こうしてトリプルデートが計画された。



宿での朝食が終わると昨日の集会所へ行く。重症患者の2回目の治療だ。

今日は昨日ほどの悲惨さは無い。具合の良い人は上半身を起こしていた。

「みなさん、おはようございます。順番に治療していきますね。」

町長さんとも挨拶を済ませ、治療を行っていく。

<<<回復の術>>>

今日も一通り治療を済ませた。後は栄養のあるものを食べて養生すれば大丈夫だろう。


「町長さん、治療も順調にできたので今日で姫豊の町へ帰ろうと思います。」

「ありがとうございます。治療の謝礼ですが恥ずかしながらこれだけしかありません。申し訳ないのですが、これで納めていただけないでしょうか?」

「町長さん、昨日も町の人に言ったのですが、今回の治療代はいりません。神様のお告げに従っただけですから。」

「そうですよ、そのお金も火事の復興に使ってください。」

「ああ、ありがとうございます。巫女様にはなんとお礼を言っていいか。そうだ、今日は地元料理でもてなしをさせてください。赤石のタコは美味しいですよ。早速準備させましょう。」


「それは楽しみです。せっかくなのでいただくことにします。」


赤石は海辺の町だ。特に赤石タコが有名である。

しばらくするといい匂いが漂ってきた。


「さあ、準備ができました。こちらへどうぞ。」

まずはタコの刺身だ。よく見るとまだウネウネと動いている。

「ギャー動いてる。」「これがおいしいんだよ。」「え~無理無理。」「食わず嫌いはだめよ、ほら。」「キャー止めて!」

なんとも騒がしいが、結局みんな食べた。


次は焼きダコだ。素焼きにして酢橘をかける。

「さっぱりしておいし~。」

「これならいけるわ。」


タコの煮つけが出た。濃い味付けが食欲をそそる。

「これは濃厚ね。」「いい味が出てる。」「ごはんがほしい。」


次は天ぷらだ。

「つゆにつけても美味しいけどそのままでも美味しいわ。」「天ぷらは王道ね。」


タコご飯にタコのお澄まし、酢だこだ。

「すごい、本当にタコ尽くしね。」「私タコ飯大好き。」「酢の物もさっぱりして美味しいわ。」


最後は赤石焼きだ。ここ地元では玉子焼きという。俗にいうタコ焼きだ。ただし、ソースでなくだし汁につけて食べる。

「あ~赤石焼、久しぶりに食べたわ~。」「このだし汁が美味しいのよね」「私は初めて食べたけどおいしかったわ。」


みんな大満足だ。これだけでここまで来たかいがあった。


「町長さんごちそうさまでした。とてもおいしかったです。巫女たちも喜んでいます。」

「お口にあったようでよかったです。それと沢山作ったのでこれはお土産です。」

「ありがとうございます。来れなかった子も喜ぶでしょう。」

「先生、ちょうど理央のお見上げができてよかったね。」

忠長さんが理央の名前にぴくっと反応した。

「ああ、そうだな。せっかくだからあったかい内に帰ろうか。それでは町長さんこれで失礼します。」

「はい、いつでも遊びに来てくださいね。タコだけはたっぷりありますから。」


俺たちは神社まで戻り神主さんに挨拶をし、すぐに転移した。



「ただいま。帰ったよ。」

「おお、お帰り。大火事だったらしいな。」

理央が出迎えてくれた。遅ればせながら火事の連絡が来たのだろう。

「そうなの、それよりお昼ご飯はまだかな?」

「これからだけど。」


「じゃ~ん。お土産だよ~。」

「ああ、いい匂い。それにアツアツじゃないか。富美、みんな呼んできてくれ。」

「は~い」

居残り組の理央、富美、菜々美、朱里がタコ尽くしに食らいつく。

「私たちは向こうで食べてきたから、4人で食べてね。」

「ちぇ、自分らだけいいもん食いやがって。こんなもん食ったら、普通の飯が食えないな。」

「いやいや、今日だけだし、こうやってみんなに持って帰ってきたんだし。」

「まあ、うまいから許す。」

「ははは」


すこし離れて達彦と忠長がいた。美味しそうに食べるみんなを微笑んで見ていた。


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