27.赤石の火事
最近は少し落ち着いてきている。
何がって?いろいろだ。
治療院も順調だ。最近は由美さんの手引きで周辺の町へ転移し出張治療もやっている。
桜と若侍の恋も順調のようだ。桜が簪の話を若侍にすると早速プレゼントされたようだ。
まさか優香と張り合っているのか?
そして俺と優香も仲良くやっている。もちろん進展はないが。
菜々美が気になったが、案外さっぱりしていた。うぬぼれかもしれないが、以前から菜々美に好かれているように感じていた。しかし取り越し苦労だったようだ。菜々美の人気は上々で最近では親衛隊どころかファンクラブまで出来たようで、事あるごとにファンに囲まれている。先日は握手会までしたようだ。菜々美は菜々美で今の状況を楽しんでいる。
そんなある日、朝の参拝で異変が起きた。
「赤石の町を救いなさい。」
久しぶりのお告げだ。お告げがあったということは何か大きな問題が発生して困っている人がいるのだろう。なにか情報はないか、河田奉行に聞いてみたが、特に知らせは来てないようだ。
赤石の町までは馬を飛ばしても丸1日はかかる。徒歩なら3日くらいか。
情報がないということは問題が起きてからそれほど時間がたってないのだろう。
以前に赤石の町へも出張治療に行っているのですぐに転移は可能だ。
選抜メンバーを選ぶ。
優香、桜、真紀、それに楓、芽衣、由美さんの巫女6人。困っているなら巫女が多いほうかいい。
こちらの治療院もあるので全員で行くことはできない。
さらに有事に備えて若侍2人組。護衛役だ。どうせ1人は桜にくっついてくるし。
俺は監督としてついていく。ヘボ監督だけど。
「おい、先生。町を離れても優香といちゃつくんじゃないぞ。アタシがいないからってはめ外すなよ。」
「当り前じゃないか理央。俺たちは人助けにいくんだぞ。」
「いや、最近の2人はいつもベッタリだからな。ちくしょー、アタシも行きたかった。」
「理央はここで残ったみんなを頼む。これでも頼りにしてるからな。」
「ちっ、わかったよ。お土産忘れるなよ!」
お土産って?だから人助けだよ・・・
「じゃあ行ってくる。頼んだよ。」
巫女たちは巫女服、俺は神主の衣装だ。
俺たちは優香の力で転移した。
カンカンカン・・・
「わーわーーー」
なんだ、半鐘の音か?ずいぶん騒がしい。
「これは巫女様。来ていただいたのですね。」
転移先の神社の神主だろう。老人が声をかけてきた。
「はい、今朝お告げがあって、姫豊神宮から来ました。これは火事ですか?」由美さんが答えた。
「そうなんです。しかし私はこの通りおいぼれで消火作業も、治療をする力もありません。どうすることも出来ず困っておったところです。」
「そうでしたか。治療は私たちに任せてください。」
「巫女様、お願いいたします。
「みんな大丈夫か?」
最近は転移に慣れたのか、転移後の気絶は無くなった。
少しぼんやりするが、意識はある。
巫女たちは大丈夫だが、若侍2人は伸びていた。仕方ない、初めての転移だからな。
「桜たちはここで伸びている2人を見ていてくれ。俺と優香、真紀で火事の現場を見てくる。」
向こうのほうで煙が上がっている。
「よし、行くぞ。」
「「はい」」
数百メートル進んだところで現場に着いた。町の中心からは少し離れているが住宅が密集している地区だ。まだ火の勢いが強く、傍までは近づけない。住民は桶で水を掛けたり長い棒を持って燃えかけの家を崩していく。延焼を防ぐためだ。すでに何十軒もの家が燃えている。そして道端には何人もの怪我人が座りこんでいた。
「巫女様だ、巫女様が来てくれたぞ。」
火消しをしていた男が俺たちに気づいて声を上げた。
「どんな状況ですか?」俺が聞くと、
「ああ、夜中か明け方近くだと思う。焦げ臭いにおいに気づいて外へ出てみると、隣の家が燃えていたんだ。俺の家も燃えちまった・・・」
「ご家族は大丈夫でしたか。」
「俺が早めに気づいたんで嫁や子供を逃がすことができた。でも隣の家族は多分・・・」
「けが人はここに居る人たちだけですか?」
「ここには比較的軽傷のもんがいる。重傷者は町の集会所に運ばれているはずだ。ほれ、あの赤い屋根の建物だ。」
「わかりました、ありがとうございます。集会所の様子を見に行ってきます。」
「優香、真紀、1度桜たちのところへ戻って、重傷者を見に行こう。」
「でもこの怪我人たちは・・・」
「先に重傷者だ。手遅れになるといけない。」
「わかりました。」
桜たちのところへ戻ると若侍も意識が戻ったようだ。
「達彦さん、具合はどうですか。」桜が若侍に聞いている。達彦という名前らしい。
「うん、かたじけない。まさか気を失うとは我ながら情けない。」
「誰でも最初はそうなんです。私たちだってそうでしたから。」
桜は達彦の手を握って説明している。
「ん、ゴホン。お2人とも目が覚めたようですね。」桜はやっと手を離した。
「いや、面目ない。まだ少しボヤっとするがなんとか動けそうだ。」
「それは良かった。みんなも聞いてくれ、やはりこの先で大きな火事があった。怪我人も多そうだ。まずは町の集会所へ行って治療をしようと思う。」
「「わかりました」」
「ここだ。」
俺たちは集会所に入る。中を見ると思わず息をのんだ。
全部で20人くらいだろうか。重症者が畳に寝かされている。全身大やけどをしているものもいる。
顔や頭も焼けており表面の皮膚が剥がれ落ちているようだ。
顔が焼けている人は男か女かもわからない。子供もいるようだ。
「ううう~。」みんな苦しそうにうめいている。
「こ、これは巫女様、来ていただきありがとうございます。私はこの町の町長です。こんな大火事は初めてでけが人は多いし途方に暮れておりました。」
「お告げがあって駆け付けました。治療はお任せください。」
「ありがとうございます。みんなを助けてやってください。お願いいたします。」
「さあ、みんな、行くわよ。」
優香の掛け声で6人の巫女が治療を始める。優香は一番ひどそうな全身やけどの患者の前に来た。
「もう大丈夫ですよ。治療しますね。」
~神様、この人の命を助けてください~
<回復の術!>
全身やけどの人の体が優香から出た光に包まれる。長めの治療が終わると、患者の顔色がだいぶ戻ったようだ。薄皮が張ったのだろう。まだ意識は戻らないが表情は落ち着いている。
「どんどん行くわよ。」
優香の力は以前から強いが、ほかのみんなも力をつけている。優香以外でも1日に2~3人は見れるようになっていた。
一通りの治療が終わりみんな一息つく。
さすがに優香以外は力を使い果たしたようだ。
タイミングを見て町長が寄ってきた。
「さすが巫女様。もうだめかと思っていたものまで回復していただき、ありがとうございます。」
「いいえ、重症の患者は完全には回復していません。明日も治療をいたします。」
「そうですかよろしくおねがいいいたします。奥に食事を用意しておりますので食事をとりながら休んでください。」
「ありがとうございます。」
俺たちは奥の部屋に案内された。
食事を出されたがひどいやけどを見た後であまり食欲が出ない。若侍も同じようだ。
しかし巫女たちはおいしそうにパクパク食べている。日々の治療で慣れているのか肝が据わっているのか。
「達彦さん、具合が悪いの?」桜が心配して聞く。
「うむ・・・、あまり腹が減ってないようだ。」
「先生も大丈夫?」優香が聞いてくれるが、
「し、食欲が・・・」
「もう、男はだめね!」桜が笑いながらツッコんだ。
「「「すみません!」」」
あまり食べれなかったが、食事が終わる。
「優香、巫女の力はどうだ?まだ大丈夫なら火事現場の怪我人を見に行こう。」
「はい、大丈夫です。みんなは休んでいてね。」
「儂らも一緒に行こう。治療はできないが、力仕事ならできるだろう。」
「達彦さん、頑張って。」
この2人は本物だな。俺が微笑ましそうに2人を見ていると優香がそんな俺を見ていた。
俺は照れくさくて声を出した。
「それじゃ行こうか。」
現場に着くと火の勢いは無くなっていた。
初めに会った男も消火活動の手を休めていた。
「集会所で治療をしてきました。こちらはどうですか。」
「ああ、あんたか、ご苦労さん。火事のほうはもう大丈夫だろう。あとはこのあたりの怪我人と焼けた家だが。」
「家のことは残念ですが私たちではどうすることも出来ません。怪我人を見てみましょう。」
「ああ、頼む。どうすればいい?」
「みんなを一か所にまとめてください。」
「わかった。みんな、巫女様がやけどを見てくださるぞ。こっちに集まってくれ。」
自分で動ける人は自力で集まる。動きにくい人は俺と若侍で抱えて集めた。
「優香、比較的軽傷だから一度にいこうか。」
「そのほうがいいですね。それではいきますね。<回復の術>」
優香を中心に怪我人全体を光が包んでいく。少しすると光が消え怪我人の顔色が戻る。
「おお、ひどかった火傷が一発で治ったぞ。」
「お母さん、もう痛くないよ。」「ああ、よかったね、よかったね。」
「巫女様、ありがとうございます。腕の火傷が残るかと思いましたが、きれいに消えています。ありがとうございます。」
「「「巫女様、ありがとうございます」」」
一人の女性が出てきた。
「巫女様、息子を治療していただきありがとうござました。しかし火事で何もかもなくしてしまい、治療代をお支払いすることができません。申し訳ありません。」
「息子さんが無事でよかったです。もちろん治療代は要りません。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
そのお母さんは何度も頭を下げた。
「さあ、みんなのところに戻ろうか。」
戻り際に火傷の治った子供が手を振ってきた。俺たちも笑顔で手を振り返した。
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