25.優香と俺と
新年のパレードはトラブルもなく終了した。
女子たちはその夜、トークに花が咲いたようだ。
そして次の日、
「先生、少しいいですか。」
「どうしたんだ、優香」
2人きりになったタイミングで優香が話しかけてきた。
「夕べみんなと話し込んじゃって。」
「遅くまで起きてたみたいだな。」
「みんなに問い詰められて。」
「何か問題でもあったのか?」
「そうじゃなくて・・・、私と先生のこと・・・」
あ~ピンと来た。
俺と優香の仲がどうなっているのかという話だろう。
正直、俺は自分の気持ちに蓋をしている。
優香が俺に好意を持っているのはいくら鈍感な俺でも気が付いている。
そして俺も優香のことを好きな気持ちはある。
しかし、しかしだ。優香は教え子だ。絶対に恋愛対象に見てはいけないことは学校からもきつく言われている。
ましてや優香は巫女だ。巫女は生娘でないといけない。
何かの拍子に2人が盛り上がってしまっては、取り返しがつかない。
だから俺は優香を、いや優香だけではない。教え子の少女たち全員に恋愛感情を持ってはいけない。
「もしかして冷やかされたのか?まあ、言いたい奴には言わせておけば・・・」
「先生!・・・私の気持ちは・・」
優香は真剣な顔で目には涙を浮かべている。
「優香・・・」
どうすればいいんだ。
優香の気持ちはうれしいし、俺も優香を・・
何もかも投げ出して2人でどこかでひっそり暮らすか?
いやだめだ。優香は巫女の要だ。巫女の力も一番強いし、みんなのまとめ役でもある。
もし優香がいなくなればほかの子たちにも影響する。
この世界に必要で呼ばれたのならその責任を放棄することになる。
ましてや元の世界に戻れたらどうする。将来のある娘に変な男がついていれば優香の未来はどうなるのだ。
しかしここで優香の気持ちを拒絶すれば優香が傷つくのは目に見えている。
目の前で涙ぐむ少女を見つめながら俺は返答に困った。
「俺は、優香の好意が嬉しい。ありがとう。でも・・」
「私は、私は先生の気持ちが知りたいんです。もし望みがないなら諦めます。はっきり言ってください。」
「俺の気持ち・・・。俺は優香のことが」
「私のことが?」
「優香の、優香のことが・・・」
ええい。言ってしまえ。
「俺も優香のことが好きだ。・・・好きだ、優香!」
優香が俺の胸に飛び込んできた。
「優香・・・」
俺も優香を抱きしめる。優香の甘い香りと胸の柔らかさが俺の頭を麻痺させる。
ああ、優香。このままずっと抱きしめていたい。
思えばずっと一緒だった。
元の世界での部活動。転移後の探索。お爺さんとの生活。大里村の救助活動。姫豊への旅とお殿様の治療。そして現在の生活。
優香も俺を頼ってくれたし、俺の何かあれば優香に相談していた。
何よりも優香の笑顔が大好きだ。この笑顔を守るためなら俺は頑張れる。
「優香・・・」俺は改めて優香を抱きしめた。
その時、物陰でガタガタと音がした。
「いたた。おい、押すな!」その声は・・
俺たち2人が後ろを振り返ると、理央たちが物陰から出てきた。
「あ~あ、見つかっちゃったか。」
出てきたのは理央、桜、真紀の3人だ。
抱き合ってた俺たちは慌てて離れた。
「な、なんだお前たち、見ていたのか?」
「へへへ、こうなると思ってたんだよな。夕べ優香をだいぶ焚きつけたからな。」
「焚きつけた?理央、もしかしてわざと?」
「優香を見てるとじれったいんだよな。前から優香の気持ちは知ってたし、先生もまんざらじゃなさそうだし。」
「それでこうなることを見越してそっと覗いてたんだよ。」桜まで。
「実は私も先生のこといいなと思ってたことがあるんだよね。」
えっ、桜、今そんな話はやめてくれ。
「でも優香が真剣なのはわかっていたからあきらめたよ。私は新しい恋に生きるのだ。」
「桜ゴメンね。」
「優香、謝らないでよ。これでも私モテるんだから。」
あの若侍のことだろう。
「盛り上がっているところ悪いんだけど、俺は優香とそんな関係にはなれない。俺はお前たちみんなの教師だ。ましてみんなは巫女だ。それがどういうことかわかるだろう。」
「あのね先生。別に今すぐ結婚しろとか、最後まで行っちゃえとかそんなこと言ってるんじゃないだろ。今は2人の気持ちを大事に育てていけばいいんだよ。」
理央、お前、大人だな。
みんなして頷いている。
「先生。私、先生の気持ちが聞けてうれしかった。これからも私は巫女として頑張るし、先生も私たち全員のこと、しっかり見ててね。でもほかの子を見すぎちゃダメよ。菜々美とか。」
ギク、優香鋭いな。
「あ、当たり前だろ。俺の気持ちは優香一直線だ。」
「うん、いいわ。許してあげる。」
優香の笑顔がまぶしい。この笑顔のために俺もがんばるぞ。
「優香おめでとう。」
「真紀ありがとう。」
おめでとうはちょっと早いぞ。
「それから、先生、これからは、たまには、その、2人で・・・」
「ああ、そうだな。たまにはデートしような。」
「デート、きゃ!」優香が顔を赤らめる。
「おいおい、お熱いな。これから2人をしっかり見張っておかないとな。まさか一線を越えるなよ。」
「あ、当たり前だ。理央。それに俺は先生だぞ。口の利き方が間違ってないか?」
「いまさら先生もないけどな。一応そういうことにしといてやるよ。」
「理央、直ってない」「「「ハハハ・・・」」」
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