24.パレード
季節は師走
今年も残すところわずかとなった。
治療院のほうはうまくいっている。みんなも頑張っている。
お殿様は病気の完治後体力も戻り完全復活らしい。
優香をはじめ治療にあたった4人はこの前お城に呼ばれて、食事会を行った。
俺は呼ばれなかった。
優香たちに何かあればと気になって付いて行きたかったが河田奉行が責任をもって送迎するということで話がついた。
その席でこんな話が出たらしい。
「どうじゃ、巫女殿はみな息災であったか?」
「はい、お殿様おかげさまで元気にやっております。治療院のほうも順調です。」
「優香殿それはよかった。実は儂の全快祝いとして姫豊の町中をパレードしてくれという話がある。
の、河田よ。」
「してくれ?それは殿が自分から・・・」
「なんじゃ?」
「いえなんでもありません。殿が全快されたことは誠に喜ばしいことです。
一時は病のためによからぬうわさも流れましたが、それを払拭するよい機会でしょう。
ここで殿の雄姿をお披露目するのは他国への圧力ともなります。」
「そうであろう。そこでじゃ優香殿。儂とともにパレードに参加せぬか?」
「えっ。パレードですか?」
「なに、馬車に乗って町中を巡回するだけじゃ。町の衆には手でも振ってやればええ。」
「みんなどうする?」
女子たちはごにょごにょと相談するが、なかなかまとまらない。
「では新年の行事として準備を進めよう。河田もよいな。」
「はっ。かしこまりました。殿のご予定を確認し、準備を進めます。」
「うむ、しっかり頼むぞ。」
なんだか巫女全員で参加することに決まったらしい。
まあ、お殿様には逆らえない。
俺もこっそりと馬車のそばに着かせてもらおう。
さて、師走と言えば大掃除だ。神社では煤払いという名で行われ、掃除をするだけでなく正月に向けて神様を迎える準備という宗教的な意味もあるらしい。
普段役に立たない俺だが、ここは頑張るぞ。
俺は男だし、梯子を使って高いところを掃除することになった。
「うわっ。すっごい埃だ。」
ハタキを使って天井近くの埃を払っていると塊が顔にかかった。
俺は顔を背けたが勢い余ってバランスを崩す。
「あぁ」ドスン!
うん?なんだか柔らかくて暖かい・・・
「先生、大丈夫ですか?」優しい声を掛けられ俺は目を覚ました。
「ゆうか?」
「はい。先生梯子から落ちて気を失ってたんですよ。」
「ああそうだ。埃が顔にかかって。」
「ちゃんと回復の術を掛けましたからもう大丈夫ですよ。」
「えっ、優香!」俺は慌てて体を起こす。先ほどまで俺は優香に膝枕をしてもらっていたのだ。
「うっ!」まだ頭や体が痛い。
「先生、まだ動いてはいけませんよ。しばらく安静にしていてください。」
俺は優香に体を押し戻され膝枕の体制に戻った。
優香の太ももが頭に当たっている。上からは優香が優しく微笑んでいる。
「優香、ありがとうな。じゃあ、お言葉に甘えてもう少しこうしているか。」
俺は体の痛みより膝枕がうれしいやら恥ずかしいやらで落ち着かない。
ここは奥の小部屋だ。みんなはまだ大掃除の最中だろう。
「やっぱり俺のことは部長としてほっとけないか?」
「ううん。いつもはみんなの手前、部長として・・って言ってますけど・・・先生だからです。」
「ん?」
「先生だからいろいろしてあげたいんです。」
「優香。」
「私は先生とこうしているだけで幸せです。」
優香は小さな声でそういうと少し顔を赤らめた。
お正月がやってきた。
ここ姫豊神宮には多くの参拝者が初詣にやってくる。
3が日の間は治療院はお休みだ。
しかし、みんな巫女服に着替えて仕事をしている。
優香、真紀、桜は祈祷やお祓いの手伝いで玉田さんと一緒に本殿に詰めている。
俺もそこで案内係をしている。
理央と富美はおみくじの係。
菜々美、楓、芽衣、朱里の4人で売店の売り子をやっている。
売店ではお守りやお札、破魔矢などを売っている。
みんな大忙しだ。
神社の周辺には屋台もたくさん出ていて露店をやっている。
こちらも大繁盛のようだ。
夕方になり人出も少なくなってきた。
「交代で休憩しよう。」
「私焼きトウモロコシが食べたい。」
「私は焼きイカだな。」
「お団子がいい」
もぐもぐ・・・
「こういうところで食べるとなぜか美味しいよな。」
「ん~しあわせ~。」
俺も食べたかったが、はしゃいでいるようで恥ずかしかったので辛抱した。
でもあとでこっそりお団子をいただいた。優香ありがとう。
こうして3が日は問題もなく過ぎていった。
そしてすぐにパレードの日がやってきた。
街道沿いにはお殿様を、いや巫女軍団を見ようと多くの人が詰めかけていた。
馬車は3台だ。
1台目はお殿様、奥さま、息子の家族3人が乗っている。馬車のそばには側近の侍や河田奉行が付いている。
2台目は優香たちだ。優香、桜、真紀、理央の上級生メンバーが乗っている。もちろん巫女服の正装だ。
俺はこの馬車のそばに付く。俺の服装は宮司から借りた神主の衣装だ。
3台目は菜々美、楓、芽衣、朱里、富美の1年生メンバー5人だ。
「それでは出発いたします。」
俺は優香と目を合わすと思わずほほ笑んだ。
河田奉行の合図で馬車がゆっくりとスタートする。
お城の門を出るとすでに観衆でいっぱいだった。
「わ~。お殿様。巫女様~。」
お殿様はさすがで笑顔で手を振っている。奥様や息子も堂々として笑顔を振りまいている。
優香たちはというと緊張してか、固まってしまっていた。
「さあ、優香たちも笑顔で。みんな手を振ってくれてるぞ。」
最初はぎこちなく手を振っていたが、だんだん慣れてくると自然な笑顔が出るようになった。
「そうそう、その調子。」
「桜殿ももっと笑顔で。」あの時の護衛の侍が桜のそばについている。
あれ以来この若者は何かと桜にくっついている。桜もまんざらではなさそうだ。
「なあ真紀、なんだか怪しくないか?」
「えっ、不審者でもいるの。」理央と真紀が観衆に手を振りながら小声で会話する。
「違うよ、優香と先生だよ。それに桜とあの侍も。どうも距離が近いというか前と違うんだよな。」
「優香と先生は前から仲がいいけど特別何かあったわけじゃないと思うよ。でも信頼関係ができているのか2人の世界があるみたいだね。お侍さんのほうは最近グイグイ来てる感じ?桜も結構嬉しそうだよ。」
「やっぱりそうか。これはしっかり聞いておかないとな。今晩はこのネタで盛り上がりそうだな。」
「そうね。ちょっと冷やかしてみてもいいかもね。」
おれの知らないところでやってね。
「巫女様だ。巫女様が来たぞ!」
「ああ、いつ見ても美しいな。俺はこの間病気を診てもらったんだ。一発で治ったよ。」
「治療の腕は抜群だな。それにあの器量の良さ。俺とお付き合いしてくれないかな?」
「ばかやろー。巫女は生娘でないといけないんだぞ。関係者以外は男子禁制だ。」
「そうだよなー。まあ、高根の花だよなー。あっ、こっち向いた。巫女様~!」
「この間はありがとうございました~!おかげさまで元気いっぱいです~!」
「お姉ちゃ~ん。ありがと~!」
「巫女様。ありがたや。ありがたや。」
大人気だ。
そして3台目の馬車は
菜々美の独り舞台だった。そこだけスポットライトが当たっているかのように。
恥ずかしそうに笑顔で手を振る菜々美はまさに天使のようだ。
「菜々美様~。俺大ファンです。」
「菜々美様~こっち向いて~!」
「L・O・V・E MYLOVE ナ・ナ・ミ」
なんだか親衛隊みたいなのがいる。これはもうアイドルだな。
「ねえ、なんか私たち出番がないんだけど。」
「仕方ないのです。菜々美には勝てません。それに先輩たちより前に出るわけにもいかないのです。」
「ふっふっふ。私はひそかにレベル上げをします。ファイアーボールさえ打てるようになればわたしの時代です。」
「・・・」
「もぐもぐ・・・お菓子美味しい・もぐもぐ」
ちなみに上から芽衣、富美、楓、朱里、富美でした。
こうして新年の行事も滞りなく過ぎていくのでした。
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