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23.姫豊神宮治療院

ここは<姫豊神宮治療院>

優香たちは神宮内の離れにある治療院で治療を始めていた。


治療は一日10人限定だ。由美さんを含め巫女は10人。

一日一回、術を使えば巫女としての力を使い果たす。その力は翌日にならないと回復しない。

由美さんがお殿様の病気に掛かりきりだったので、治療院はその間休業状態だった。


今日は久しぶりの治療院再開だ。

今日から再開することは上級武家を中心に案内してある。

本当は重症患者から診るのが順当だが、ここにはここの常識がある。

神社は寺社奉行の管理管轄である。奉行は当然お殿様の家来だ。

序列や組織系統は詳しくは知らないが、逆らえるものではないのだ。


さて、治療だ。

「1番の方、どうぞ。」由美さんが患者を案内する。

トップバッターは桜だ。打順は4番だけど。

患者のほうは中年の侍だ。高級そうな着物や髭の生やし方から位の高い人だろう。


「どうされました?」神主の着物に着替えた俺は侍に問いかける。

「うむ、最近このあたりがチクチク痛んでな。食事もあまり食べられないのだ。」

侍はみぞおちのあたりを抑えて辛そうにしている。

「最近心配事は無いですか?」

「仕事でも家庭でも心配事だらけじゃ。ううっ痛い。」

これは神経性の胃潰瘍かもしれないな。


「胃が弱っているのかもしれません。こちらへ。」

俺は患者を診察台に寝かすと、着物を緩めておなかを出す。

「桜先生、お願いします。」

巫女服の桜が患者の横に立って右手を患部にかざす。

「はい、わかりました。それではいきますね。<回復の術>」


桜の手から光が現れ、優しく患部を包んでいく。

先ほどまで痛そうに顔をしかめていた侍の顔がみるみる緩んでいく。


しばらくして光が消えた。

「痛みはどうですか。」桜が聞いてみると

「おお、治った。あれだけ痛かったのがウソのようだ。ありがとう。」

「はい。」桜が頷く。


「よかったです。もし痛みがぶり返すようならまた来てください。」

俺は侍に声をかけて退室してもらった。

侍は小判1枚を払うと頭を下げながら帰っていった。

まずはうまくいったようだ。

桜もほっとしたようで奥の部屋に戻った。代わりに真紀が出てくる。


「次の方、どうぞ。」由美さんが声をかける。

次は5歳くらいの男の子だ。母親に連れられてやってきた。

「どうされました。」

「はい。咳が止まらないんです。」

咳だけでなく、呼吸も苦しそうだ。

おでこに手を当てたが熱はないようだ。

「いつからですか。」

「2~3日前からですが、以前からたまにこうなるんです。とても苦しそうで。」


これは風邪ではなく喘息かもしれないな。

「わかりました。ここで横になってください。」

着物を緩めて胸を出す。


「真紀先生、お願いします。」

「はい。楽にしててね。」巫女服の真紀が診察台の横に立つと男の子の胸に手をかざした。

<回復の術>

光が現れしばらくして消えた。

「僕、どうかな。」

咳はおさまっている。

「うん。咳が止まった。もう苦しくない。先生、ありがとう。」

男の子の笑顔に思わず真紀が頭を撫でた。男の子は恥ずかしそうに笑った。


「お母さん、今日のところは治まりましたが、この病はすぐには治りません。

お子さんの体の調子がいいときは運動をさせてください。体が丈夫になれば病もおさまっていきます。

また咳が止まらなくなったら連れてきてください。」

俺はお母さんに説明する。

「えっ、そうなんですか。この子は体が弱いから運動させてはいけないと思っていました。」

「無理をさせてはいけませんが、体を鍛えていけば病気も逃げ出しますよ。」

「はい、わかりました。本当にありがとうございました。」

その親子も小判1枚を支払い帰った。

治療は一律小判1枚(1両)だ。安いのか高いのかわからないが、病状によって差をつけるのは難しい。

以前から小判1枚でやっていたのでこれでいいのだろう。

男の子は帰り際、いつまでも真紀に手を振っていた。

真紀も手を振り返して満足そうだ。


「よし、次はアタシだ。」巫女服の理央が気合を入れている。

「次の方どうぞ。」

患者は若い侍だ。

「どうしました。」

「昨日、剣術の鍛錬をしていて腕を怪我した。」

その侍は左腕の裾をまくり上げた。

キズは無いようだが、二の腕が腫れている。打ち合ったときに受けた打撲だろう。


「理央先生、お願いします。」俺が促す。

「先生に先生と呼ばれるのは変だな。理央でいいよ。」

「いえ、ここでは先生です・・・」

「いやアタシは生徒だ。先生じゃないだろ。」

どっちでもいいから始めてくれ。

「だいたいアンタもこれくらいのケガでいちいち来るなよ。

アタシが播州商業と喧嘩した時に受けた怪我はこんなもんじゃなかったしな。」

理央、他校の生徒と喧嘩したのか。


「なっ。私が悪いといわれるのか!もういい、帰る!。」

患者は怒って帰ろうとする。

「まあまあ、お侍さん。そう言わずに。理央、いやなのか?交代するか?」

「はぁ、ここで代打は無いだろう。すぐにやってやるよ。」

<回復の術>


「どうですか。痛みは引きましたか。」

「うむ、いいようだ。」侍は腕を動かして確認した。

「ほら、治っただろう。アタシにかかればこんなもんだ。

今日も訓練か鍛錬か行って来い。また怪我すればアタシが見てやるよ。」

理央はどや顔で言った。


若い侍は怒るタイミングを逃したようで、難しい顔をしていたが小判1枚を支払って帰った。

「理央、問題は起こさないでくれよ。」

「大丈夫だよ。アタシもやることはちゃんとやるんだから。」

ガッツポーズを決める理央に不安を覚えながら次の患者を迎える。




その時、入口のほうでガヤガヤと騒ぎが起きていた。

俺はすぐに出ていくと一人の男が別の男に支えられて立っている。

男は苦しそうに前かがみになっておなかのあたりを押さえている。

「どうしたんだ。」俺の問いかけに、

「それが夕べから腹が痛いと言い出して今朝急に苦しみだしたんだ。

見てやってもらえないか?」

「これはいけないな。由美さん、奥へ運ぼう。」

「はい。」


「待て。次は儂じゃ。そんな町人風情はほおっておいて儂を診ろ。」

次の患者が騒ぎだした。

「今日は儂ら上級武家だけのはずじゃ。早くしろ。」

みると騒いでいるお侍さんは重傷には見えない。

ただ、階級やプライドは高そうだ。怒らせると後が面倒だ。

どうするか悩んでいると

「ここは私に任せてください。お侍様、こちらへどうぞ。(先生は奥の部屋へ。)」

由美さんが申し出てくれた。

由美さんはお侍さんを診察台に座らせると問診を行う。

由美さんはベテランだ。ここは任せておこう。



俺は急患を奥の部屋に連れていった。

「優香、来てくれ。急患なんだ。」

「はい、ここは私の出番ね。」

診察台がないので患者を長椅子に寝かす。


痛いのは下腹部のようだ。場所や症状から急性虫垂炎と思われる。いわゆる盲腸だ。

ほおっておくと盲腸が破れてお腹の中に膿が飛び散ってしまう。そうなれば命にかかわるのだ。

「優香先生、たぶん盲腸だと思う。」

俺は着物を開けさせて患部を見せる。

微妙な位置なので、あそこは見えないようにシーツを掛ける。


「先生・・・お願いします・・・」

「かなり苦しそうですね。すぐに楽になりますよ。」

~神様お願いします。この方を助けてください。

優香は神様に祈ると自信をもって唱える。

<回復の術!>


優香のかざした右手から、神々しい光が放たれる。

患者の患部だけでなく体全体が光に包まれる。

いや、部屋全体が光っている。まぶしくて目が開けていられない。

といっても痛い光ではない。とても暖かいやさしい光だ。


そばにいる俺まで癒されているのを感じる。

長くて短い時間が終わり光は消えていった。


「お加減はどうですか?」

患者はすやすやと寝息を立てている。気持ちよさそうに眠っている。

顔色もよさそうだ。

どうやら治療はうまくいったようだ。


「夕べはあまり眠れなかったんでしょう。このまま寝かせておきましょう。」

「先生ありがとうございます。こいつは俺の弟なんですがもう死んじまうのかと思いました。

助けていただきありがとうございます。」

「よかったですね。神様に祈りが通じたのでしょう。」

なんだか優香が神がかって見える。


「それになんだか俺のほうも調子がいいんですけど。

腰が痛かったのが治っているし、疲れがたまって調子が悪かったのに逆に調子良いし。」

付き添いの兄の体調がよくなったらしい。

そういえば俺も夕べ寝付けなくて睡眠不足だったが頭がすっきりしている。

優香の巫女パワー恐るべし。


「優香お疲れさま。ゆっくり休んでくれ。」

「うまくいって良かったです。でもまだまだいけますよ。」

「いや、無理しないでおこう。また急患があれば頼むかもしれないので休んでくれ。」

「わかりました。でもいつでも呼んでくださいね。」

優香の力があればあと何人も治療できるかもしれない。でも力があることが周囲にばれるととことん利用されるかもしれない。優香を守るためにも1日1回を守っていこう。


由美さんのほうも治療はうまくいったようだ。お侍さんも機嫌良く帰っていったらしい。

その後も順調に治療は進み、昼前には予定通り終わった。

ただし、急患が入った分、はみ出した1人は優香に頑張ってもらった。


ということで予定の10人プラス急患一人の11人の治療が完了した。

今日の稼ぎは小判10枚+α

小判1枚(1両)で一か月分の給料らしいので全員が一日で一か月分稼いでしまったらしい。

これはかなりの稼ぎだな。ただし、今日は上級武家が相手だった。

上級武家や商人の大棚なら小判1枚くらい払える。

しかし下級武家や一般の町人ならその半分でも厳しい。


現に急患で担ぎ込まれた町人は現金が用意できず、米一俵の支払いとなった。

この辺りは相手に合わせるらしい。

明日は下級武家の患者を診る日だ。

治療代に関しては由美さんに任せておこう。


ということで治療院1日目は無事に終わった。


よろしければ下のほうのボタンを押してください。間違えて押してしまったとしてもかまいません。

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