22.健太の悩み
俺は今、モーレツに悩んでいる。
もちろん糞のことだ。
別に臭かったり不潔なわけじゃない。
このままでは金魚の糞は水槽の底に沈んで忘れられるだろう。
俺の居場所が無い。
優香たちがお殿様にお願いしてくれたのでここに居させてもらえるが、お殿様から見ればいらない子だ。
客観的に考えて俺の必要性が見えてこない。
明日から優香たち巫女隊の本格始動だ。
みんな優秀だし、人気もある。引っ張りだこになるだろう。
それに引き換え俺はどうだ。
回復も転移も出来ない。
獣と戦っても、あの子たちのほうが強い。
しいて言うなら、盾役くらいか。
いろいろ考えるが、堂々巡りだ。自分に能力が無いのだから仕方ない。
こうなったら、土産物屋の手伝いでもするか。いや、手に職をつけて生計を立てるか。
俺は縁側に座っていろいろ考えていた。
「先生、何かありましたか。」
ふいに声を掛けられびっくりした。考え事をしていたので気づかなかったのだろう。すぐそばに由香さんが立っていた。
「由美さんこそどうしたんですか。」
「私は今まで優香たちとおしゃべりしていたんです。元の世界の話を聞いたり、こちらの世界の話をしたり。先生は元の世界で<学校>というところで<勉強>を教えていたんですね。」
「ええ、そうです。と言ってもほんの半年ほどですが。」
「みんな先生のことが大好きみたいですね。先生の話になると、みんな笑顔になります。慕われているんですね。」
「はい、おかげさまでみんな懐いてくれていますね。いい子たちです。」
「本当に。
私、優香たちに出会えてよかったです。
自信を無くしていたけど、今は巫女を続ける気になりました。毎日が楽しいんです。これもみなさんのおかげです。」
「それはよかったです。」
「それで。先生はどうしたんですか?悩み事ですか?」
「はは、年下の女の子に心配されちゃいましたか。なんか情けないですね。」
「そんな情けなくなんかないですよ。人間悩みはつきものです。
私はみなさんに助けていただきました。今度は恩返しをする番です。
答えが見つかるかわかりませんが、話だけでも聞かせてください。」
俺は由美さんの優しい言葉に思わず本音を話した。
「自分の居場所が無いって、そんなことで悩んでたんですか?」
「そんなことって。俺にとっては大事なことです。」
「確かにそうですが。
では私から見た先生の立場を言いますね。
先生は優香たちにとってなくてはならない人です。
兄であり、親であり、先生であり、そして恋人?でもあると思います。」
「兄や先生はわかるけど、親や恋人はどうかな?」
「9人いれば9人ともが同じ考えではないですよ。
恋愛感情をも持っている子もいます。誰とは言いませんが・・」
「う~ん。仮にそうだとしても俺の居場所というか存在意義の話だけど。」
「え~鈍いんですけど!
だから、先生は9人にとって必ず必要な人なんです。
もし先生がいなくなったらあの子たち泣いちゃいますよ。
だから、先生はみんなのそばにいてあげるだけでいいんです。」
「そうかなー。それでもなー。」
「先生って結構面倒くさい人ですか?もし納得いかないなら、宮司のお手伝いか、<先生>でもしたらどうですか?」
「先生をする?そうか、由美さん、この町には学校はあるんですか?」
「いえ、優香たちが話していたような学校はありません。」
「それでは読み書きはどうやって覚えるんですか?」
「武家の子供たちは集まって武官に教えてもらうようです。これは学校と言えなくまないですね。でも町人は入れません。」
「他の子供は?」
「私は母から読み書きを習いました。ほかの家でも親や兄弟から習うことが多いです。
と言っても、親に学があるひとやある程度裕福な家だけですね。
だから大人でも読み書きができない人は大勢います。」
~そうか、この世界で<先生>になるのもいいかもしれない。
しかし、貧しい家から授業料は取れない。
紙や筆、教える場所もいる。お金が無ければ始まらない。
簡単にはいかないな。
俺がまた、考え込んでいると、
「ほら、先生。辛気臭い顔をしないで。先生はみんなを引っ張っていくんだよ。」
由美さんに肩をバシッと叩かれた。
~由美さん、こんなキャラだったかな?
そうしているとみんながやってきた。
「先生。由美と何話してるの?話があれば私が聞きますから。」さすが優香部長。
「まさか、変な気を起こして由美にちょっかいかけてるんじゃないだろうな。」理央まさかそんなことは。
「だめよ、先生は私の先生だから。」菜々美、うれしいけどどういう意味だ。
「まあ、先生なら振られて終わりだね。」桜、相変わらずきついな。
「そんなんじゃないよ。明日から頑張ろうって話さ。」
「明日か。回復の術、うまくできるかな?」
「私、怖そうな人が来たらどうしよう?」
少し不安そうだ。
「みんな大丈夫だ。先生が付いている。何かあれば俺がみんなを守る。」
「先生かっこ付けちゃって。まあ、頑張るのは私たちだけどね。」
「じゃあ、桜は俺を守ってくれよ。」
「えっ、私も守られたいんだけど。」小さな声で桜が言った。
「うそうそ。桜も俺が守るよ。」
「えへへ。」桜がデレた。
「じゃあ、明日から頑張ろう。今日は早めに寝るんだぞ。」
「「はーい。」」
俺の居場所ははっきりした。この娘たちを守ること。今までも何度も考えたことじゃないか。
でも俺は<先生>という言葉が心に引っ掛かっていた。
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