20.池田藩主
昨夜はよく寝た。
やはり清潔な布団は気持ちいい。
今日は池田藩主に会って、病の治療をする日だ。
朝5つ(朝8時くらい)に迎えが来るらしい。
それまでに朝食をとる。
由美さんと菜々美がおしゃべりしている。
よく見ると由美さんの雰囲気が昨日と変わっている。どうもうっすらと化粧をしているようだ。
薄い色だが口紅が似合っている。
菜々美がお化粧をしてあげたようだ。
こんな状況でも化粧道具を持ち歩いているのか。
恐るべし菜々美。
でも由美さんも気分が晴れたのか、笑顔が見える。
昨夜は女子たちで遅くまでおしゃべりをしていた。
由美さんも気分転換になったのかもしれない。
食事も終わり、巫女服に着替えた4人は準備万端だ。
時間通り河田奉行が迎えに来た。
「それでは参ろうか。」
お城はすぐ隣だ。といっても敷地も建物も広いので30分くらいかかっただろうか。
門番もいたが河田奉行と一緒なので顔パスだ。
俺だけなら通してくれないのだろう。
優香たちを見ると驚いたようだ。
うちの巫女は美少女ぞろいだからな。
池田藩主の部屋の前に来た。
「殿、河田奉行と巫女がお着きになりました。」
特に返事は無い。部屋のお着きの人は中の様子を伺うと俺たちを部屋に招き入れた。
「殿、具合はいかがですか。今日は新しい巫女を呼んでまいりました。」
奉行様が殿のそばで話をする。
「健太殿はそちらで。」
俺は入り口近くのさらに下座で待機だ。どうせ役には立たない。
それより、池田藩主の容体が気になる。
床に伏しているのだが、屏風の隙間から様子が見える。
言葉も発さないし、体もほとんど動かさない。
これはかなり悪そうだ。まさか、手遅れなんてことはないか。
「行きましょう。」由美さんが優香たちを促して殿様の近くへ寄る。
「お殿様、由美です。今日は私に代わりまして、この者たちが務めさせていただきます。
それでは優香さん、お願いします。」
回復の術は優香がメインで行う。
藩主の病気は内臓疾患ではないだろうか。
「お殿様、優香と申します。よろしくお願いいたします。
どこか痛いところはありますか?」
藩主はゆっくりと右手を動かしおなかのあたりを触った。
「わかりました。それでは楽にしてください。」
優香はほかの3人を見る。みんな頷いた。
優香が手をかざす。その周りにさらに3人が手をかざした。
~神様、お殿様の病気を治してください。
「回復の術!」
「「「回復の術」」」
4人の手から光が現れる。
それはだんだんと大きなそして温かい光となり藩主を包んでいく。
光はなかなか消えない。大里村での術と比べると、時間が長く感じる。
大分時間がたった。優香以外に3人の手はもう光っていない。
優香はまだ1人で頑張っているようだ。
それでもしばらくすると光が小さくなりやがて消えていった。
「今日はここまでになります。失礼いたしました。」
4人はお殿様の前から下がった。
「どうじゃ?」お奉行様が小さな声で聞く。
「ふぅ~。かなり難しいですね。だいぶ力を使いましたが治った様子はありません。」
優香がつぶやくと、3人も頷く。
「そうか・・・。」
「河田、そこに居るのか?」
「はっ、ここでございます。」
「少し腹が減ったようじゃ。何か用意してくれぬか?」
「殿?承知しました。」
「そこのもの、殿に粥を持て。」
「はい。」侍女に命じてすぐに用意させる。
「それと優香殿と言ったか。近う寄れ。」
優香は驚いてみんなと目を合わせたが、「はい」と言って殿さまのそばによる。
「優香です。」
「おお、そなたが優香殿か。先ほどはかたじけない。
おかげで今はとても気分が良いぞ。それにそなたはなかなかの美人じゃの。」
お殿様は笑顔を見せている。
「恐れ入ります。」
優香も褒められて恥ずかしそうだ。
藩主様は体を起こし粥をおいしそうに食べると、満足したようだ。
「久しぶりにうまかったわい。」
「それはようございました。少しお休みくだされ。」
「うむ。」
河田奉行は優香たちに頷くと、明日もくる旨を伝え、俺たちは退室した。
「優香殿、みなさんも、ご苦労であった。
あんな殿を見るのは久しぶりじゃ。ありがとう。
それでも殿はかなり悪いのか?」
人気のないところまで来ると、河田奉行が聞いてきた。
「多分、お腹にしゅ・ 悪いものができているようです。今日の術だけではまだ残っています。」
「そうか、しかし殿がおいしそうに粥を食べていた。ここ最近はこんなことはなかった。」
「みなさん、すごいです。私が術を使ってもあそこまでできません。」
由美さんも驚いたようだ。
「おぬし等には悪いが明日以降もお願いしたいのじゃが。」
「ええ、もちろんです。みんな頑張ろうね。」
「そのためにここまで来たんだしね。」
優香たちも前向きだ。
「お奉行様、回復の術はこの娘たちにも負担がかかります。
なにかおいしいものでも食べさせてやってください。」
「よかろう、見繕って差し入れをしよう。」
「ありがとうございます。」
お殿様の病気治療をするのだ。少しくらいのわがままはいいだろう。
その日から食事がさらに豪華になった。
それから毎朝お殿様のところへ行って治療が続けられた。
最初こそ、術の疲れと気疲れでへばっていた4人だが、数日もすると慣れてきた。
気持ちの余裕ができて時間もある。
お殿様の容体もかなり良くなっている。
その日は河田奉行と宮司の玉田さんに相談し、町の見物が許可された。
外出は俺たち5人と由美さん、奉行の家来の2人の侍だ。
この2人、よく見るとかなり若い。10代後半というところだろう。
巫女様の護衛ということでついてきた。
巫女たちは由美さんを含めて5人とも巫女服だ。
「こうしてみるといろいろなお店があるね。」
「そうですよ。いっぱい案内しますよ。どこか行きたいところはありますか?」
由美さんも同年代の娘と一緒で楽しそうだ。
「う~ん、何処がいいかな。あっ、これ可愛い。」
桜が干支の動物を模した置物を見つけた。
「これ先生に似てるよ。」「ほんとだ似てるかも。」
俺も覗き込んだ。
「どれ。。。ってサルじゃないか。」
「でもそっくりだよ。」
くそ~見てろよ。
「じゃ、桜はこれだ。」
俺は馬を指さして言ってやった。
「先生ひどい!わたしはね~。これかな。」
桜がウサギを持ち上げる。
「それは可愛すぎるだろ?」
「私は可愛いんです~。」
店先で騒いでいると、その時
「あんたら買うのかい?」
店のおかみさんが睨んできた。
「また今度ね。 (おい、行くぞ。)」
俺たちは逃げるようにその店を立ち去った。
「おい、見ろよ。巫女様だぞ。」
「ああ、なんでもお殿様の病気治療に来ているらしいな。」
「しかしみんな可愛いな。」
「ほんとだ、俺は先頭にいる子がいいな。胸が大きいし笑顔が可愛い。」
「俺なら後ろの小柄な子だな。あんなきれいな子は見たことないぞ。」
「しかも巫女としての力がすごいらしい。大里村で奇跡を起こしたそうじゃないか。」
「その腕を見込まれてお殿様をみているんだろう。
あんなに可愛くて巫女としてもすごくて、お近づきになりたいもんだ。」
「しかし2人のお侍様は護衛だとして、その横のさえない男はなんだ?」
「さあ、関係者かもしれんが金魚の糞みたいなもんだろ。」
聞こえてるよ。悪かったな糞で。
しかし巫女の人気はすごかった。みんな噂を聞いているんだろう。
遠巻きに見てはああだこうだといっている。
巫女の評判はうなぎのぼりのようだ。
「みなさん、甘いものは好きですか?」由美さんの問いかけに
「「大好き」」
はい、女子はみんなスイーツ大好きです。
「ではあそこで休憩しましょう。」
お金は奉行様から預かっている。
そこはお茶屋で、お茶と一緒に饅頭を出してくれる。
太鼓饅頭というあんこがいっぱい詰まった饅頭が出てきた。
「おいし~い。」「あま~い。」
みんな嬉しそうだ。こっちではお菓子とかあまりないからな。
「お侍さんも一緒にどうですか?」
桜が気を利かせて護衛のお侍さんを誘ってみた。
「いや、私は護衛だからよい。」
「え~おいしいのに。」桜に笑顔で言われて照れているようだ。
お侍さんは、結局食べずに立ったままだったが、その後も桜のほうをチラチラと見ていた。
ここでも一人ファンが誕生したようだ。
その後も町中をぶらぶらして夕方には神宮に戻った。
「今日は楽しかったね。由美さんありがとうね。」
「ううん。私のほうこそ楽しかったです。
実は私、みなさんが来られるまでかなり落ち込んでいたんです。
頑張っても頑張ってもお殿様は良くならないし、
周りからは頑張れ頑張れといわれるし。」
「うん、1人で辛かったね。よく頑張ったね。」
「でも、よかった。こうして皆さんと一緒に巫女を出来てよかった。」
本当につらかったのだろう。由美さんの目には涙が光っていた。
ここの生活は快適だ。衣食住が揃っている。
みんなが賛成してくれたら、こちらに拠点を移してもいいな。
明日も頑張ろう。俺じゃないけど。
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