16.一夜明けて
目が覚めて軽く朝食をとる。
「たつやさんの怪我を見せてください。」真紀が言うと
「真紀さんの体調はどうですか?」恵子さんが心配してくれる。
「たっぷり寝たので、快調です。」
恵子さんが俺や優香の顔色を伺うが、俺が頷くと
「それではお言葉に甘えて、お願いします。」
昨日と同じように真紀が手をかざすと、たつやさんの体が暖かい光に包まれる。
たつやさんは大きく腕や肩を動かすと
「ああ、全然痛くない。完全に治ったようだな。真紀さん、ありがとう。」
「ありがとうございます。」「おねえちゃん、ありがとう。」
恵子さんと咲ちゃんからもお礼を言われる。
真紀もうまくいったので満足そうだ。
「優香もだけど、真紀もすごいな。」
「えへへ。」照れているがまんざらでもなさそうだ。
「あの、代金なんですが、手持ちがないのでお金ができてからでよろしいですか?」
恵子さんがおずおずと聞いてきた。
「そんな、代金なんて。喜んでもらえたらそれでいいです。」真紀が恐縮して返す。
「町の巫女さんに怪我を見てもらったら、かなりの代金がかかります。ただというわけにはいきません。」
「それなら私もお支払いしないと。」よし子さんまで言い出した。
「よし子さん。私たちはご両親に助けていただきました。
ご両親がいなかったら行き倒れになっていたかもしれません。少しでも恩返しができてよかったです。
恵子さんも代金はいりません。昨夜も泊めていただいたし、大丈夫ですよ。」
「「ありがとうございます。」」2人は何度も頭を下げた。
「それより、これから村を回ってみましょう。昨日鹿肉を配った時に怪我人がいたお宅もありましたし。もちろん、無料で見ますよ。お前たちもいいだろう?」
俺が聞くと3人も頷いた。
「私もやってみる。転移はできるんだから回復もいけるんじゃないかな。」桜も乗り気だ。
「そうですね。村のみんなも助かります。私も一緒に回ります。」
よそ者だけより、村の人がいるほうが信用してもらえるだろう。
「僕も行く。」ゆうき君もついてきた。
最初の家に行くと、お爺さんお婆さんがいた。
2人とも棒ででも殴られたようで、顔や体が所々腫れて痣になっている。
怪我を見せてもらうというと、
「こちらは巫女様なのか?」
2人は巫女が現れたと知って驚いている。
「僕も足のけがを治してもらったよ。」ゆうき君がその場で飛び跳ねて見せた。
「今度は私がやるよ。」桜が前に出る。
優香や真紀がやっていたのを思い出しながら、桜が手をかざす。
「回復」
光が広がっていき、2人を包んだ。
「おお、何処も痛くないぞ。」「あたしゃ、痣どころか前から痛かった膝までなおったよ。」
「そういえばワシも腰も治っちょる。」
2人は何年も抱えていた持病からも解放されたようでたいそう喜んでくれた。
次の家に行くと、中年の女性が寝込んでいた。10歳くらいの男の子がそばについている。
「僕もお母さんもケガはなかったんだけど、お母さんは心の臓が悪いんだ。
前から悪かったんだけど、村が襲われてから起きられないんだ。」
男の子が説明してくれた。
もともとの持病が心労で悪化したのだろう。
「私がやってみるわ。」優香が女性の前に座ると、手をかざす。
「回復」
女性が光に包まれる。
「ああ、苦しくない。こんなに調子がいいのは何年ぶりだろう。
あなたが治してくださったのですね。巫女様、ありがとうございます。」
親子に礼を言われてその家を後にした。
「みんなご苦労さん、うまく言ってよかったな。さあ、恵子さんのところに戻ろう。」
「ん~。先生ちょっと待って。まだ回り切れてないからもう一軒行きましょう。」
「いや、優香。次のお家も気になるけど、明日にならないと力が戻らないよ。」
「でも全然疲れてないし、力も減ってないのがわかるんです。
真紀と桜はどう?」
「私はさっきので少し疲れたかな。」桜が言うと
「私も今朝だいぶ力を使ったから。」真紀も疲れているようだ。
「私はほんと、大丈夫です。」
「じゃあとりあえず次のお宅に行ってみよう。無理はするなよ。」
「はい。」優香の顔に疲れはなさそうだ。
次の家には40代くらいの夫婦がいた。
男性のほうは盗賊にやられた刀傷がある。
巫女の力で傷を治していると説明すると、是非にとお願いされた。
「優香、大丈夫?」
「うん、いけるよ。」
優香がキズに手をかざすと光に包まれた。
光が収まると刀傷がほとんど消えていた。
「おお、治ったよ。痛みも引いた。ありがとう。」「ありがとうございます。お礼も出来ないんですが、本当にありがとうございます。」
2人にお礼を言われて家を出た。
「優香さん、具合はどうですか?」よし子さんが気遣ってくれる。
「ん~。全然大丈夫かな?」
「優香すごい。」」
「まだいけるわよ。」優香様すごいです。
結局すべての家を周り怪我人を治して回った。
終わった時にはお昼を過ぎていた。
恵子さんの家に戻ると、お昼ご飯を用意してくれていた。
「お疲れさまでした。さあ、食べてください。」
心なしか、肉が少ない。恵子さんたちの分はあるのだろうか。
「ありがとうございます。さあ、一緒に食べましょう。」
「いえ、私たちは先にいただいておなかいっぱいです。」恵子さんが笑う。
「お母さん、おなかすいた・・・」咲ちゃんカミングアウト!
「ごめんなさい。実はそれしか残ってないんです。巫女様たちだけで食べてください。」
そんなわけにもいかない。
「とりあえず一緒に食べましょう。咲ちゃんおいで。」
俺の隣に咲ちゃんを座らすと、パクパク食べだした。
「もぉ~この子ったら。」
「ほら、恵子さんも、たつやさんも食べないと、力が出ませんよ。」
「先生、私たち、昼から狩りに行ってきます。」
「そうだな、行ってみるか。」
「俺が一緒に行きましょう。」たつやさんが狩場へ案内してくれるようだ。
「よし、俺も久しぶりに頑張るか。」
「いえ、先生はお留守番です。優香を休ませて相手をしてあげて。どうせ、足手まといだし~。」
う~桜は相変わらずきついな。
しかし俺は巫女の力は無い。狩りも出来ない。まるでいいところなし。
「俺は役立たずかー。」
「ふふ、先生そんなことないよ。私たちだけじゃ何もできないよ。先生がいてくれるからいろいろ挑戦もできるのよ。」
桜が言うと優香と真紀も笑顔で頷いた。
「じゃぁ、そういうことにしておこうか。」
「みんなに慕われてますね。先生。」
よし子さんの言葉が響き、胸が熱くなった。教師になってよかったな。
昼ごはんが終わるとたつやさん、桜、真紀の3人が狩りに出かけて行った。
優香は素直に休むことになった。
「ゆうき君たちのけがも治ったし、そろそろお爺さんたちのところに帰らないとな。
みんな心配しているだろう。」
「私は少し休めば転移できると思います。」
優香の巫女としての力は強力だ。一晩明けなくても大丈夫だろう。
「私たちも両親のところに連れて行ってもらえませんか?何もかもなくしてしまったので。」
よし子さんがゆうき君の手を引いて聞いてきた。
「優香、大丈夫か?」
「私に任せて。みんなで帰りましょう。」頼もしいな優香。
ほどなく3人が狩りから帰ってきた。ウサギが5匹捕れていた。
「おう、すごい頑張ったな。」
「えへへ、私は狩り担当だからね。一人で3匹も捕っちゃった。」桜さん、優秀です。
「桜ちゃんはすごいよ。俺が槍で1匹獲る間に金属の棒で3匹もやっちゃうんだから。」
その棒はバットといいます。
「私は何とか1匹だった。」真紀も捕れたようだ。
「みんなすごいな、お疲れ様。
それと今日のうちにお爺さんのところに戻ろうと話していたんだけど、いいかな。」
「ほかのみんなにも会いたいし、帰ろうか。」「そうだね。」
獲れたウサギはお世話になった恵子さんのところに置いていく。
他の家におすそ分けもできるだろう。
準備ができ次第、出発することにした。
荷物をまとめて家を出ると、村人の皆さんが集まっていた。
「巫女様、お帰りになられるのですね。この度は村を救っていただき、ありがとうございました。
村人一同感謝しております。」
隣のお爺さん夫婦が代表してあいさつしてくれた。お爺さんが村長らしい。
他の皆さんも「ありがとうございました。また来てくださいね。」と言いながら頭を下げてくれた。
こちらも手を振って応える。
「ではまた、さようなら。」
俺たちは神社に向かって歩き始めた。
「先生。私たち神様のお告げ通りできたかな。」優香が聞いてきた。
「ああ、できたさ。想像以上だ。3人に感謝だな。」
俺は優香、真紀、桜の頭をなでていった。
「先生、セクハラ~。」と言いながら真紀が俺の肩を叩く。
「いてっ、これはセクハラじゃないのか?」
「これはスキンシップだよ。」
ははは。みんなで笑った。
俺はたえ子お婆さんから指輪を預かっている。
あまりに村が大変だったので渡すタイミングを逃していたが、このまま持って帰ることにした。
帰りはよし子さんとゆうき君も一緒だ。
戻ったらたえ子さんから渡してもらおう。
神社に着くと優香を中心に輪になる。
優香は「行きますね。」というと神楽を舞い始めた。
本殿の奥から小さな光が現れると、みんなの周りを回り始めた。
やがて光が全員を包むと、意識がなくなった。
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