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14.よし子さん

小屋の隙間から朝日が降り注ぐ。

あ~よく寝た。長距離を歩いて疲れていたのだろう。しっかり寝ることができた。

3人はまだ寝ている。俺はそっと起きて朝食の準備にかかる。


火をおこし、昨夜のスープの残りを温める。

干し芋を炙って完成だ。食事は代り映えしないが仕方ない。

3人も起きてきた。朝はみんなテンションが低い。でも疲れはたまってないようなので安心した。


朝ごはんを食べて後かたずけをすればすぐに出発だ。今日は頑張って距離を稼いでおきたい。

みんな黙々と歩く。休憩やお昼ご飯をはさみながらだが、かなり歩いたと思う。

途中、休憩小屋があったが時間も早かったのでスルーした。

しばらくすると小川に差し掛かる。この近くで野宿をすることにした。


女子3人は小川で汚れた体を洗うことになった。

「先生はあっちで夕食の支度をお願いします。」優香の指示が出た。

あ~あそこね。小川の土手があるので、当然水浴びの様子は見えない。

俺は火をおこしながら、3人に声をかける。「大丈夫か~? 何かあったら呼ぶんだぞ~」

キャッキャッ聞こえていた声が止む。

「誰かさんが覗かなければ大丈夫で~す!」

~はいはい。わかっていますよ。


スープができて待っていると、3人がやってきた。

「あ~寒かったよ~。」すぐに火にあたりに来た。

「スープはできてるから先に食べてていいよ。俺も体を洗ってくるから。」

「は~い。動物に襲われたら助けに行くからね~。」

頼りにしてます。

寒かったのでさっさと水浴びを終わらせた。


今日は休憩小屋がない。大きな木の下にシートを引き、それぞれタオルケットや、小さな毛布を掛けて寝る。

不用心なので俺は焚火をしながら起きて警戒をする。途中で交代してもらうつもりだが、無理に起こすのもかわいそうだな。

「「「先生おやすみ。」」」

「ああ、おやすみ。」すぐに静かになった。

俺は焚火を突きながら、明日のことを考えていた。

3日の工程だが、今日はかなり歩いたと思う。休憩小屋をスルーしてからもだいぶ歩いたので大里村の近くまできていると思う。明日の午前中には着くのではないだろうか。

そんなことを考えながら、ついウトウトとしていた。


「   きゃ・  」

「ピャ~!  キェー・・・  」

「きゃー。た・助け・・・  」


~ん、なんだ。何か声が聞こえたぞ。

「きゃー。助けて。」

女性の声だ。助けを求めている。

「おい、みんな起きてくれ。向こうで何かあったようだ。」

俺は3人を起こすと、トンボを握って声のほうへ近づく。

幸い月明かりで足元は見えている。


近くまで行くと、人が動物に襲われていた。鹿だ。

人は1人だけで女性のようだ。鹿は群れになっていて10頭ちかくいる。

この世界の鹿は凶暴だ。人間を襲ってくる。

「くそっ!」

俺は近くにいた小ぶりの鹿をトンボをで押しのけると、

「大丈夫ですか?」と女性に駆け寄った。

女性は30代くらいだろうか。服も汚れて、擦り傷もあるようだ。

「ありがとうございます。あなたは誰?」

「それは後で。先にここを乗り切りましょう。」


「ピー!キェ!」

いつの間にか鹿の群れに囲まれている。何とか逃げ出したいがどうする。

俺はトンボを振り回して牽制してみるが向こうも怯まない。

膠着状態になった。


と、その時。

ビシッ!「キャン」

ビシッ!ガッ!ドン!「キェーキャン。」

「「先生~。」」援軍が来たようだ。

ビシッ!ころん。投石だ。

シュッドン!「キャン」今のは威力があった。

アンダースローから投げ出されたこぶし大の石が俺たちの近くの鹿に命中した。

そちらを見ると、ひとりの少女が仁王立ちしていた。

ピッチャー真紀だ。

「真紀!ナイスピー!」優香が盛り上げる。

「うおおお~。」もう一人の少女が別の鹿に近づくと

ゴ~ン!金属バットがその鹿の頭を叩く。

4番サード桜。うちの主砲だ。

頭を打たれた鹿は思わずよろけた。

「桜、効いてるよ~。」優香は応援団か。


しかし攻撃を受けても鹿はなかなか引かない。

3人が駆け寄ってきて女性を守るように輪になる。

鹿の群れとにらみ合いだ。


「さて、どうする?」優香がつぶやく。

「やはりボスを狙うか。」俺が中央の大きな鹿を指さした。

200キロほどの大きな体に立派な角を生やしている。

あの角を食らったら無事では済まないだろう。


「私が投石で先制する。隙ができたら桜がバットでやっつけて。先生と優香は周りの鹿を抑えて。」

「「「わかった」」」


真紀は大きめの石を掴むとボス鹿を睨む。

「リードは任せたて」優香が声をかける。

「機動力を抑えるために足元狙い?」ううん真紀は首を横に振る。

「じゃあ、心臓に近い胸元。」ううん。ここも違う。

「やはり顔ね。眉間を狙って。」真紀が頷く。コースが決まったようだ。


真紀はゆっくり投球動作に入ると右腕を加速させ、ぐるんと腕を1回転させると右膝のあたりでリリースする。

ビシッ! 剛速球が投げ出された。球がどんどん迫る。

ボスが気づいて目を見開いたが、もう遅い。

ドンッ! 見事ボス鹿の顔に命中した。

「キェー!」ボスがよろける。

今だ!桜が素早くボスに近づくとフルスイングした。ブンッ!

キン! なんだ。金属音がしたぞ。

どすん。ボスは頭にいいのをもらって倒れた。

回りの鹿たちも後ずさりしている。


「ナイスバッティング!」優香が嬉しそうだ。

「イエ~イ!」3人はハイタッチで喜ぶ。


ボスがやられたので他の鹿も逃げていった。やれやれ。

「3人ともお疲れ様。あなたもケガはないですか?」

女性に声をかける。

「ええ、大丈夫です。みなさん、ありがとうございました。それにしてもあなたたちすごいわね。

あのクラスの鹿なら男衆が何人もかかって倒せるかどうかなのに。」

「やっぱり私エースだし。」「私は4番です。」「私のリードかな。」

???

女性はよくわからないようだ。


「せっかくだから、ちょっと待ってね。」

女性は倒れたボス鹿に近づくとナイフでとどめを刺し、血抜きをした。

「こうしておけば、後で食べられるわ。」


俺たちは焚火のところまで戻り、話を聞くことにした。

「それではあなたがひろしお爺さんとたえ子お婆さんの娘さんの。」

「ええ、よし子です。」




数日前、大里村は盗賊に襲われ、大打撃を受けた。

10軒ほどの小さな村だが金目の物や食料はすべて奪われた。

抵抗した男は殺されるか大けがを負った。

よし子さんと息子のゆうき君は裏山に逃げて命は無事だった。

一夜明けてよし子さんが家に帰ってみると、ご主人は殺されていた上に家も燃えてしまった。

よし子さんとゆうき君は涙が枯れるまで泣き続けた。


少し落ち着くと今度はゆうき君がおなかを空かせて泣き出した。

すべてをなくしたよし子さんは年老いた両親を頼りに実家に行く途中だったらしい。


俺たちは神様のお告げを聞いて大里村まで行くところだったと説明した。

ゆうき君は騒動で足を怪我している。仕方なく村に置いてきたらしい。

どうやら助ける子供はゆうき君のようだ。



「それは大変でしたね。スープと干し芋ならあるのでよかったら食べてください。」

「ありがとうございます。でも・・・」

よし子さんはおなかを空かせたゆうき君のことが気がかりで自分だけ食べるわけにはいかないようだ。

「ここでよし子さんが倒れたら、息子さんは誰が面倒を見るんですか。お母さんがしっかりしないと。」

「はい・・・それでは少しだけ。」

「干し芋と干し肉はたくさん持ってきています。しっかり食べてください。」


よし子さんは食事をとると余程疲れていたのだろう。その場で眠ってしまった。

「お疲れ様、先生も少し寝てください。」

「ありがとう。そうさせてもらうよ。」優香に言われて俺も横になる。いろいろあって疲れた。

明日も大変そうだな。俺は眠りに落ちていった。




「「「おはようございます。」」」

「おはよう、すっかり寝てしまったな。よし子さんは?」

「昨夜の鹿を解体しているはずです。」優香が説明してくれた。

「先生以外はご飯も終わってますよ。」

「なんかすまんな。」俺は干し芋とスープを掻き込むと後片付けを始めた。

よし子さんのところに行くとちょうど解体が終わったところだった。


「よし子さん、おはようございます。」

「おはようございます。先生。」先生?まあいいけど。

「こんな大きな鹿を一人で解体したんですか。すごいですね。」

「・・・主人がよく動物を狩ってきていたので自然に覚えました。」

「・・・ご主人を思い出させるようなことを言ってすみません。」

「いえ、大丈夫です。私にはゆうきがいます。悲しんでばかりじゃいられません。」

その通りだ。母は強し、か。


「この肉を村まで持って帰りたいんです。手伝ってもらえますか?」

「もちろんです。」

大里村まではもうすぐらしい。

俺たちは鹿肉を担ぐと大里村まで急いだ。


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