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13.お告げ

俺たちは生きていくために頑張った。


桜、楓、芽衣、朱里の4人が狩猟担当。

優香、真紀、理央、富美の4人が畑担当。

俺と菜々美がその他雑用だ。家の掃除、洗濯、炊事、薪割りなどのお婆さんの手伝いが多い。

お爺さんは総監督だ。狩りについていくときや、畑の指導、家が傷めば修繕など。


みんな逞しくなった。

真面目に働いた。食べるために。

菜々美が俺のそばで働いているが、最初は何か企んでいるのかと勘ぐってしまった。

でもそんなことはなかった。真面目に働いている。ほんとにいい子だ。

お婆さんともよくしゃべって仲がいい。孫のように感じているのかもしれない。


相変わらず、優香と真紀は朝夕の神社へのお参りは欠かさない。

石の神社への転移は何回も行った。これは問題ない。そしてバスの荷物もほぼ持ってきている。


狩りや畑仕事も頑張っている。

冬に備えて、干し芋、干し肉、魚の干物も用意できている。




こちらへ来て3か月がたった。夏が過ぎ、秋も深まったある日の朝。


優香と真紀が騒ぎながら神社から帰ってきた。

「私はきっと神様のお告げだと思う。」

「そうかもしれないけど、意味が分からない。」

「でも・・・」


「どうしたんだ。」俺は2人の声を聴いて出迎えた。

「あ、先生。今神社にお参りに行ってきたんです。そしたら、神様の声が聞こえてきて。」

「神様の声?」俺が聞き返すと、

「多分そうだと思います。いつものように、生きている感謝といつか元の世界に戻れるようにお祈りをしていたんです。」

「そうしたら、私たちの頭の中に声が響いてきたんです。」

「優香と真紀の2人とも聞こえたのか?」

「「はい」」

「何と言われたんだ?」



俺たちは家の中に入ると、お爺さん、お婆さんにその話をした。

「その声の言葉をもう一度言って。」



<大里村の子供を助けなさい。>



「と言われました。」優香が言うと真紀も頷く。

「お婆さん、これはどういうことでしょう。」

「まあ、そのままの意味じゃろな。」

巫女は神様の力を借りることができる。そして神様も巫女にお告げを授ける。

だからお告げがあれば巫女はその通りに動くのだ。そうしないと、巫女としての力が失われていく。

いつか元の世界に戻るためには巫女の力を失うわけにはいかない。


「お爺さん、大里村というのは?」

「ここから西へ3日ほど行ったところじゃ。実はワシらの娘が大里村に嫁いでおる。孫もおるぞ。」

「もしかしたら、そのお孫さんが困っていて助けを求めているんでしょうか?」

「まあ、大里村には他にも10軒ほどは家があるはずじゃ。ワシらの孫とは限らんじゃろ。

しかしお告げがあったのなら行かんわけにはいかんじゃろ。かといってワシらは大里村に行く体力は無い。娘や孫に会いたい気持ちはあるがの。」

「そうですね。困っているなら助けたいですね。俺たちが役に立つかわかりませんが、行ってみましょう。」



俺は全員を集めてお告げの話をした。そして困っている子供を助けに行こうと言った。

「先生、みんなで一緒に行くんですか?」

「いや、何人か選抜して行こう。狩りや畑をほったらかしで行くわけにもいかない。お告げを聞いた優香と真紀、それと動物に襲われた時のために桜も行ってくれるか?もちろん俺も行く。」

3人とも了承してくれた。

菜々美も行きたがったが、お婆さんの手伝いを頼んで、残ってもらうことにした。

美少女に慕われたらいやな気はしない。

俺も本当は一緒が良かったが、贔屓はできない。



「行きに3日、帰りに3日、道中は野宿をすることになる。大里村の様子もわからない。厳しい旅になるぞ。」

「「「はい」」」


スマホは電池切れになっているので正確な時間はわからないが、すぐに準備をして出発しようということになった。

俺たちは水や食料、ライター、バットなどを持って出かけることになった。


「もしワシらの娘に会えたら、これを渡してほしい。」

お婆さんが真珠の指輪を出してきた。

「いつか渡してやろうと思っておったが、この齢では自分でいくこともできん。頼んだぞ。」


きっと大事にしていたのだろう。指輪は古いものだろうが、きれいに磨いてありピカピカだった。

「わかりました。必ず渡しますね。」


俺たちは荷物を背負って出発した。


「みんな、怪我の無いようにな。安全第一だ。」

「私は先生が一番心配。でも私が守ってあげるから安心してね。」

桜が笑いながら答えた。半分冗談で半分本気というところか。

「桜、頼りにしてるぞ。」ムキになっても仕方がない。俺も笑顔で返した。


俺たちは大里村に向けて道を進んでいく。

女子3人は道中ずっとおしゃべりしている。優香と真紀は幼馴染、優香と桜は部活でずっと一緒で仲がいい。桜と真紀の組み合わせが心配だったが、桜のさっぱりした性格のおかげか話が弾んでいる。

3人とも楽しそうだ。ずっと一か所で働いていると変化がないが、今回の出来事はちょっとした冒険旅行のようなものだ。不安より好奇心が勝っているのだ。


大里村への道は幅1mくらいの砂利道だ。しかも人通りが少ないため草が生えていて、どこが道路かわからないところもある。

ただ、今日は天気も良く動物にも出会うこともなく、順調に進んだ。

昼食や、休憩をはさみながら頑張って歩いた。


「先生、あそこ!」優香が前を指さしている。

道沿いに小さな小屋がある。

「行ってみよう。」


広さで言うと3畳ほど。木造の古い小屋だ。

「こんにちは。」念のため声をかけて戸を開けてみた。

もちろん誰もいない。動物が入り込んだ様子もない。

ここがお爺さんが言っていた休憩小屋だろう。

このあたりの移動手段は徒歩である。離れた村や町に行くためには何日もかかるため、このような休憩小屋が所々にあるらしい。


「今日はここで泊まろう。」

日は少し傾きかけている。夕方5時くらいだろうか。少し早いが夕食の準備にかかる。

薪を集め、小屋の近くで火を起こす。火が大きくなるとみんな集まってきて火を囲む。

「ちょっと寒いね。」桜が手をこすりながらつぶやく。

季節は秋。日中は温かいが夜は冷える。

「スープを作ろう。」俺は鍋で湯を沸かすと、干し肉や根野菜を刻んで放り込む。味付けは塩だけだ。


干し芋も火で炙る。焼けてくるといいにおいがしてきた。

普段お婆さんの手伝いで炊事をしているので、この程度ならお手の物だ。

「さあ、できたぞ。」俺はスープと干し芋を配った。

「あ~美味しい!」「あったか~い。」

外で食べる食事は格別だ。普段食べているのと同じでもおいしく感じるから不思議だ。


スープも干し肉の出しがで美味しい。

「先生、いい奥さんになれるね。」また桜が茶化してくる。

「それならその時は桜にもらってもらおうかな。」

「えっ。」桜は恥ずかしそうに下を向いてしまった。俺もやられっぱなしではない。

「あっ、桜、照れてる~。 でも安心して、先生のことは部長の私が責任を持つから。」

優香は責任感が強い。でもどんな責任だ?

俺たちはバカ話をしなからいっぱい笑った。

今の世界に飛ばされた辛い状況や、これから助けに行く大里村のことなど、不安要素は尽きない。

でも今だけでもこうして笑いあえるのが俺はうれしかった。


食事も終わり片付けをしていた時。

「優香ごめんね。」真紀が突然謝ってきた。

「どうしたの。」優香もよくわからないようだ。

「ずっと、ずっと、優香は私のことを見ていてくれたよね。声もかけてくれていたし。家にも何度も来てくれた。」

「うん。そのことか。」

「わたし、自分でクラブを飛び出したから引っ込みがつかなくて、素直になれなくて、本当は戻りたいのに戻れなくて。

今回の練習試合で優香が強引に誘ってくれたでしょ。うれしかった。

一緒にいた理央が”行ってみるか”と言ってくれたの。

多分、理央は私の気持ちを察してくれたんだと思う。

結局練習試合はできなかったけど、優香と一緒に居れてよかった。

・・・

優香、長い間ごめんね。バカな私を許してください。」



優香は黙って真紀の話を聞いていた。

「真紀はおバカさんね。私は最初から怒ってなんかいないよ。

真紀の気持ちもわかってた。きっかけさえあれば戻ってくれるとわかってた。

私たち、何年一緒にいると思っているの。これまでも、これからも私たちはずっと一緒だよ。

ほんとにバカなんだから。」

優香は優しい笑顔で真紀に答えた。

「そんなにバカバカ言わないで~。」真紀は泣きながら笑っている。

「2人だけで盛り上がっていないで、私も入れてよ~。」桜も入ってきた。

「ねっ。おバカな真紀さん」

「も~。桜まで!」


3人が抱き合いながら笑っていた。

俺も嬉しそうな優香を見ていると目が潤む。


片付けも終わり、あたりはすっかり暗くなった。

俺たちは小屋に入り寝る準備をする。

3人はしばらくおしゃべりしていたが、やがて聞こえなくなった。ずっと歩き通しで疲れていたのだろう。俺も安心して眠りについた。



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