11.元の世界へ?
翌朝目を覚ますと、みんなでお爺さんの家に行く。
「「「おはようございます。」」」
「おはようさん。朝飯ができちょるよ。肉入りじゃ」お婆さんが笑顔で迎えてくれた。
昨日のウサギ肉を入れた芋粥だ。
「「「お爺さん、お婆さん、いただきます。」」」
挨拶はしたが、なんだかみんな無口だ。
それはそうか、数日とはいえお世話になったここを離れるかもしれないのだ。
お爺さん、お婆さんには何もお返しできないので感謝しかない。
「昨夜の話の通り、この娘たちを元の世界に戻してやりたいと思います。お2人にはお世話になったのに何もお返しできずに申し訳ありません。」俺はみんなを代表してお礼を述べる。
「なあに、ワシらも若いもんが来てくれて張り合いがあったわい。婆さんと2人ではの~。」
お爺さんは若い娘たちが来てくれてうれしかったようだ。お婆さんはそんなお爺さんをチラ見していたが。
「そうだ、お世話になったお礼にこれをやるよ。」
理央が小さなマスコットをお爺さんに渡した。スマホにでもつけていたようだ。
「おお、ワシにか。すまんの。お前さんは口は悪いようじゃが、優しい娘じゃ。」
「口が悪いは余計だ。」と言いながら理央は嬉しそうだ。
朝ごはんを食べた俺たちは2人に挨拶をする。お爺さんから沢山の干し芋をもらった。
荷物をまとめているとお婆さんが奥の部屋から何やら出してきた。
「これを着ていくとええ。」
それは巫女服だった。
白い着物と赤い袴、神楽鈴、髪飾りだ。
「優香と言ったか。お前さんは巫女の力が強そうじゃ。お前さんがこれを着て神楽を舞うのじゃ。
これはワシが娘時代に来ていた巫女服じゃ。ワシはそのころ町一番の巫女での。これを着てあちこちの神社に飛んだものじゃ。ここの村の村長さんに薬を届けに来た時、村長の息子である爺さんに出会ったのじゃ。」
お婆さんは昔を懐かしんで話を聞かせてくれた。
「お婆さん、ありがとうございます。でもこれは大事なものでしょう。私たちが元の世界に戻ればこの
衣装もなくなってしまいます。」優香は受け取れない。
「なに、ワシはもう着れん。生娘でないと巫女にはなれんのじゃ。このままワシら2人が死ねば、それこそ朽ちてしまうだけじゃ。少しでも役に立つなら、そのほうがよかろう。それに別世界に行くのは簡単ではない。この衣装が力を貸してくれるじゃろう。」
「おばあさん・・・」優香は何度も頭を下げて衣装を受け取った。
着替えを終えた優香はまるで別人だ。どこから見ても立派な巫女に見える。
「何から何までありがとうございます。それではそろそろ行ってきます。」俺は立ち上がってみんなを促した。
「ワシらも送ろう。」神社はすぐ近所だ。
「ええか、転移先を思い浮かべながら舞うんじゃ。」お婆さんのアドバイスに優香が頷く。
優香が瞑っていた目を開けると、舞が始まった。
「シャン、シャン。」今回は神楽鈴を待っているので鈴の音が響く。
しばらくすると、小さな光が現れた。
~これで日本に帰れそうだ。
俺は静かに目を閉じた。
「シャン。シャン・・・」
鈴の音が消えた。舞が終わったようだ。俺はそっと目を開ける。
「ん?」先ほどの神社のままだ。目の前にみんなもいる。外からお婆さんが心配そうに覗いている。
「ふ~ダメじゃったか。」お婆さんのつぶやきが聞こえた。
どうやらうまくいかなかったようだ。やはり時空を超えるのは難しいのか。
「もう一度やってみます。」優香が言うと、
「だめじゃ、そんなことをしたら倒れてしまうぞ。」お婆さんが止めた。
「じゃ、私がやってみるわ。」今度は真紀が手を挙げた。
「しかしの~。」お婆さんは難しい顔をしている。
真紀はそれでももしかしたらといって衣装を着替えた。
「お願い!」真紀が祈るようにつぶやくと舞が始まった。
俺はしっかり目を開けて様子を見る。
今度も小さな光が現れると、みんなの周りをふわふわ飛び回る。
ここから光がみんなも包み込むはずだ。
しかし、光は大きくならず舞が終わると同時に消えてしまった。
真紀もみんなも気落ちしている。これで元の世界に戻れると期待していたが失敗したのだ。
「さあ、とりあえず家に戻るとしようかの。」
お爺さんの声で、みんなも立ち上がった。
家に戻ってもみんな元気がない。
「さあ、みんな。じっとしてても始まらないよ。動いた動いた。」理央がハッパをかける。
この世界に来て一番変わったのは理央だ。よく考えているし、積極的になっている。
みんなも少しずつ動き出した。
水汲み、畑仕事、掃除など自分たちでできることをやっていく。
体を動かしていると、気分も晴れてきた。
桜が山に入りたいと言う。
「ウサギを獲ってきます。」ウサギ肉が気に入ったようだ。「お爺さんたちにも食べさせたいし。」
「あれ、桜が食べたいだけじゃないの?」優香はお見通しだ。
「私たちも行きます。」菜々美と朱里が手を挙げた。
「お前たちだけじゃあぶないから、俺も行こうか?」俺が言うと
「先生が来るほうがあぶない!」と断られる。どうせ俺は足手まといだよ。
「ワシがついていこう。山で迷ってもいかんしな。」お爺さんが一緒にいくこととなった。
狩りに入る4人は干し芋と飲み水を持って出発した。
お昼は焼き芋になった。みんな頑張って働いた。
夕暮れ時になり、4人も帰ってきた。
お爺さんの手にはウサギが2羽ぶら下がっている。うまく捕れたようだ。
スマホは電池切れとなり、時間はわからない。お爺さんの家でも時計はなかった。
日が暮れれば寝て、明るくなれば起きる。日本にいた頃では考えられない生活だ。
「ええのが捕れたの。」お婆さんがウサギを捌きながらほめてくれた。
「ま、私が頑張ればこんなもんよ。」桜が胸を張る。
「私も」朱里も狩れたらしい。
桜はバットで、朱里は投石で仕留めたのだ。2人とも偉いぞ。
「ワシの出番はなかったわい。」お爺さんは若い娘たちと狩りができてうれしそうだ。
晩御飯はウサギの焼肉になった。といっても焼肉のたれは無いので、塩味だけだ。
冷蔵庫もないので、冬場以外はせいぜい翌日には食べきらないといけない。
残りは干物か燻製だ。
「ワシが若いころは、鹿やイノシシも狩っておったんじゃがの。男衆4・5人で囲い込みをするんじゃ。狩りの仲間はみんな逝ってしまったがの。」
お爺さんが寂しそうにしているかと顔を見ると、桜や朱里を見ながら笑顔を見せていた。
~案外みんな役立っているのも知れないな。
お婆さんも世話を焼きながら生き生きしている。
ウサギ肉はおいしくいただいた。みんな満足したようだ。
「やっぱり日本に帰るのは無理なんでしょうか?」
優香は巫女としてか部長としてかはわからないが、失敗した転移のことを考えていた。
もちろん俺も考えているが理屈や努力で解決できるものでもない。
答えを出せないでいると
「そうじゃな。神様にお参りをしてみるか。」お婆さんの話では昔は毎日神社にお参りをしたらしい。
雨の日も雪の日も欠かさなかったようだ。それが巫女としての務めでもあった。
「私やってみる。」「私も。」優香と真紀がやる気をだした。
「毎日、朝夕の2回お参りをするのじゃ。頑張れば神様が聞き入れてくれるかもしれん。」
「「はい」」
「今日はもう遅い。明日からすればええ。」
俺たちは空き家に戻るとしばらく雑談をした。
今日あったこと、お参りのこと、バスの荷物のことなどだ。
「あの~私お風呂に入りたいです。」菜々美が言い出した。こちらへ転移して来てから1度も風呂には入っていない。
「「「私も」」」みんな年頃の女の子だもんな。
お爺さんたちの家にも風呂は無い。桶に水かお湯を用意して体を拭くのだ。
今日明るいうちに体は拭いたが、確かに風呂にも入りたい。
「何かできないか考えてみよう。すぐには無理だろうけど。」
そんな話をしながらバットを持った理央の隣で眠りについた。
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