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10.転移発動

俺は太陽のまぶしさで目が覚めた。


~うまく戻れたようだ。

俺は崩れた石の神社で目を覚ました。太陽の位置からすると、もう昼を回っているだろうか。

「2人とも起きてくれ。」俺は優香と真紀を起こすと周りを見渡す。2人もすぐに起きてくれた。

~ここは動物が入ってこないのか。

凶暴なウサギや鹿を警戒するが、周りには足跡や糞が無い。

ここには餌が無いからか、それとも神社の神聖な力が働いているのか?崩れているけど。


とりあえず、残っている4人が心配なのですぐにバスまで向かいたい。

道中も動物にも出会わずにバスまで戻れた。

「桜、居る?」優香が待ちきれずに声をかける。

「優香先輩?」この声は楓だ。

林を抜けた俺たちを、バスのそばで火の番をしていた楓が出迎えてくれた。

「よかった。帰ってきたんですね。あれ、先生と真紀先輩?ほかのみんなは?」

「それより大丈夫か。ほかの3人も無事か?水や食事は?」


1日離れていただけでお互いが気になってそれぞれの状況説明をするだけで大変だった。

「じゃあ、水も食事も大丈夫だったんだな。」飲み水は湧水を汲んでペットボトルに入れてあった。

食事は魚を焚火で焼いて食べたそうだ。食べた後を見ると、ヤマメやイワナが捕れたようだ。

キノコも取って食べたらしい。


「これはどうしよう?」

俺はお婆さんにもらってきた、干し芋をカエデに見せた。

「いただきます。」楓は干し芋をひったくるように取ると、むしゃむしゃと食べだした。

「やっぱり・・・魚と・・・キノコ・だけじゃ・・物・足りない・・・」

楓はおいしそうに干し芋を食べた。

「先生、桜たちを迎えに行きましょう。」優香が心配して提案してきた。

「でも先輩、もうすぐ帰ってくると思います。」


しばらく待つと、楓の言う通りサクラたちが戻ってきた。

俺たちは再会を喜んだ。

俺は爺さんたちから聞いたことを再度説明した。

みんなしばらく「ああだ。こうだ。」と騒いでいたが、誰かのおなかが「ぐ~」と鳴った。

「なんかいい匂い。」

俺は待っている間に、干し芋を焼いていたのだ。

「たくさんあるぞ。」お昼ご飯としてみんなで芋をいただいた。


~また、お爺さんたちの家に戻りたいが、帰るのは明日になるな。

俺がつぶやくと

「いや、今日のうちにいけるんじゃないですか。」真紀が言う。

「でも、1日は空けないといけないんだろ。」

「石の神社までは優香の力でした。今度は私が神楽を舞います。」

行けるのか?試してみる価値はある。何より全員そろいたい。

「よし、必要なものを持って石の神社まで行くか?」

「先生これはどうする?」桜・芽衣・朱里がそれぞれの獲物を掲げる。

芽衣は袋に詰めたキノコ、朱里は枝に刺した大量の魚、桜はウサギを持っている。

「わっすごいな。桜はウサギまで獲ったのか。」

「獲ったというか、襲ってきたのでバットで打ち返したんです。かわいそうだけど死んじゃったんで持って帰ってきました。」

「昨夜ウサギの肉を食べさせてもらったけどおいしかったぞ。全部持って行って手土産にしよう。」


荷物をまとめていると優香がヒイヒイ言っている。

「必要ならまた戻ってこれるはずだから。」

抱えきれないほど荷物も持った優香に言った。みんな苦笑いだ。

「さあ、行こう。」

俺たちは石の神社に向けて出発した。


~うまく舞えるかな?

真紀が優香と話をしながら、神楽の確認をしている。

「大丈夫。動きよりも気持ちが大事だよ。真紀ならできる!」1度舞っただけだが、優香が先輩風をふかしている。

気持ちが決まったようだ。

真紀が巨石の前に立つと俺たちはそれを囲むように輪になって座った。

「いきます。」集中していた真紀が目を開けると神楽を舞い始めた。

しばらくすると例の光が現れ、真紀の周りをふらふら回る。

俺たちは大きくなった光に包まれた。




「爺さん、家のほかに納屋でも無いか?」

水汲みを手伝いながら、理央が聞く。

「どうしたんじゃ。」

「いや、全員揃うと先生を入れて10人だ。さすがに爺さんの家では狭いだろう。」

理央は失礼なことでもストレートに言ってしまう。お爺さんは気にしていないようだが、

「そうじゃな。神社と反対側に空き家があるが後でいってみるか?」

そこの家は数年前までお婆さんが1人で住んでいたが、体が不自由になり町に住んでいる娘夫婦のところに厄介になっているらしい。もう戻ってくることもないそうだ。

「すまない。」


お爺さんに案内されていくとそこは小さな古い家だったが、台所用品や農器具なども残されている。

掃除さえすればなんとか全員で住むことができそうだ。

「寝泊りはここですればええ。どうせ誰も使わん。飯はワシらが用意してやろう。」

「爺さん、ありがとう。」

リオがそのまま掃除を始めた。菜々美と富美は畑仕事を手伝う。

食べさせてもらっている以上、働かないわけにいかない。


~そういえば自分の家でも、学校でもほとんど掃除をしたことがないな。理由をつけてはさぼっていた気がする。それを、自分から進んで掃除するとは我ながら・・・。

埃の積もった床を拭き掃除しながら理央は考えた。

~ここは少なくともアタシたちが知っている日本じゃない。転移があれば戻れそうな気もするが、神光は神社間の転移手段のようだ。簡単には元の世界に戻れないのではないか?

~ここは不自由だが、あの嫌なオヤジがいないだけでもましか。


理央は驚きや不安でいっぱいだったが、元の世界に戻りたいわけではないのだ。

~しばらくここで暮らすことになればここが我が家だ、頑張って掃除をしよう。

気が付くと夕暮れが近づいていた。

表に出ると、遠くで人影が見える。

「理央~!」「せんぱ~い」真紀と富美の声だ。

「お~い」みんな揃っているようだ。

ここには仲間がいる。

~今までいろんなことから逃げていたが、とにかく頑張ってみよう。

「みんな~。」アタシは手を振りながら大きく返事をした。




やっと全員揃った。そのままお爺さんの家に行く。

「まあ、芋だけはたくさんあるからの、いっぱいお食べ。」

お婆さんが芋粥を作ってくれた。ここの食事は基本的に芋粥だ。

今日の芋粥はキノコが入っている。焼き魚もついてきた。今日持ってきたお土産だ。

明日はウサギ肉が出てくるだろう。

でも自分たちが食べていては、お土産にならないか。

楓たちはゆっくり食べれる食事を喜んでいる




「お前さんたちはこれからどうするんじゃ。よければこのまま村に住んだらええ。」

俺たちは顔を見合わせる。

「お爺さんありがとうございます。

 でも私は教師です。この娘たちは親御さんから預かった大事な子供たちです。

 何とか元の世界に戻してやりたいんです。」

お爺さんはじっと考えている。

「む~。巫女の力で転移できるのは拠点となる神社間だけじゃ。おぬしらの話では、ここ神国とその日本とは別の世界のようじゃ。簡単にはいかんじゃろうな。」

俺もそれは考えていた。場所だけでなく時間か次元かを超えなくてはならないだろう。


明日の朝、みんなで神社に行くことに決まって、俺たちは家に帰ることにした。

家といっても今日借りた空き家だが。

「うわぁ、真っ暗。」誰かが驚いて声を上げた。

俺はバスから持ってきた懐中電灯を点ける。

お爺さんに提灯も借りてきた。中にろうそくが入っている。


「みんな、足元に気をつけろ。」

言ったそばから、俺が躓いた。

「ははは、気を付けるのはやっぱり先生のほうだ。」桜が大笑いする。

みんなで笑った。先ほどまでの重苦しい雰囲気が飛んでいく。

少しすると目が慣れてきて、無事に空き家まで到着した。


「理央がこの家を準備してくれたのか。理央、ありがとう。」

「お、おぅ。」

「え、理央、照れてる?」真紀がからかう。

「ば・ばか。そんなんじゃねぇ。」そう言いながら理央は嬉しそうだ。

いい感じだ。

みんな揃って寝られるだけでも幸せだ。

寝る場所で少しもめた。優香と菜々美が俺の隣になろうとする。

デジャヴ。

俺はうれしかったが、表面上は困った顔をする。


「よ~し、アタシだ。」

まさかの理央が隣にきた。バットを持って。

「先生、まさかの時は覚悟しな。」理央が脅してきたが、目は笑っていた。

理央なりにこの場をおさめてくれたのだろう。

俺は理央に笑顔を返して、眠りについた。


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