1、ここはどこだ?
初投稿です。よろしくお願いいたします。
うーーーん。
なんだか頭が重い。体もあちこち痛い。
ここは・・・どこだ?
ぼんやりと開いた目の前には、白っぽい布が見える。
よく見るとレースをあしらった上品そうなカップに包まれた二つの盛り上がりがある。俺はそれをよく知っている。
いや、実物は見たことなかったけど、雑誌やネット画像ではよく見ている。
そう、ブラに包まれた「〇ッパイ」だ。
なんだか甘いようないい匂いもする。
そうか・・・。ここは天国か。いや夢を見ているのか。
後ろのほうで急に「ガタッ!」と大きな音がして、俺はびっくりして起き上がり思わず声を上げた。
「えーーーーー!」
俺はマイクロバスの運転席の横で倒れていたのだ。
目の前には制服の胸の部分が少しはだけた少女がいた。周りにも何人もの少女がいる。
なんだこれは?どうなっている?
あ、そうか。俺は・・・
「おい、優香!」 俺は目の前に倒れている少女に声をかけてみる。
反応が無い。でも特にけがはないようだ。
クラブ内では苗字でなく、下の名前で呼んでいる。
最初は俺も抵抗があったが、そのほうが仲良くなれるとの話で、俺もその意見に従うことになった。
クラブの伝統らしい。
はだけた胸元を見ないように、変なところを触って怒られないように、気を付けながら肩のあたりをそっとゆすってみる。「優香、大丈夫か?」
「うーん・・・」
返事はないが気を失っているようだ。
他のみんなは椅子に座っていたり、床に倒れていたりするが、大事はなさそうだ。やはり気を失っているようだ。
先ほどの大きな音は後ろに積んである荷物が崩れただけか。
ゆっくりと記憶をたどっていくと、俺はマイクロバスを運転中だったはずだ。
顧問をしているソフトボール部の部員の子を乗せて練習試合のために移動中だったのだ。
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「先生まだ着かないですか?」
ハンドルを握っている俺に、隣に座る2年で部長の大沢優香が聞いてきた。
3年生が引退した新チームで気合を入れるために今日の練習試合を組んだのだ。
「多分この峠を抜ければすぐじゃないかな。」
俺は9人の部員とたくさんの荷物を乗せてマイクロバスを走らせていた。
優香は気がはやるのか、やる気満々で目がキラキラしている。
部長としての責任感と、練習試合とはいえ試合ができるうれしさでいっぱいのようだ。
うれしいのはよくわかる。
うちの部は弱小チームで人数はギリギリの9人しかいない。
それもなかなか9人がそろわずまともな練習もできていない。
同じ2年生の木下真紀と山本理央がほとんど部活に出てこないのだ。
木下真紀と部長の大沢優香は幼馴染でとても仲が良かった。
小学校の時から一緒にソフトボールをやっていた。
中学行でも当然ソフトボール部に入り、真紀がピッチャー、優香がキャッチャーでバッテリーを組んでいた。
勝気な真紀としっかり者の優香はいいコンビだった。
同じ高校に進学した2人はもちろんソフトボール部に入部した。
優香はまた楽しい高校生活が送れると嬉しかった。
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「どうして私が控えなんですか?」
「真紀。落ち着こうよ。」
「優香は黙ってて。わたしより先輩のほうが上だというんですか?」
真紀は先輩ピッチャーを睨みながら、部長に食って掛かる。
それは私たちが入部してひと月ほどたったある日のこと。公式戦のレギュラーメンバーの発表があった。
真紀の言葉に当時の部長は困った顔をしながら
「たしかに真紀はいいものを持っている。でもこれは私が決めたことよ。たまには先輩を立ててみたら?」
真紀は小さいころからずっと頑張ってきた。部活動ではもちろん、一人で自主練もやってきた。
そして中学3年生では全国大会まで行けたのだ。
客観的に見て、実績でも実力でも先輩ピッチャーより上だ。
~それなのにどうして部長はわからないんだ。・・・
納得できない真紀は次の日から部を休むようになった。
新入部員が試合に出れないのはよくあることだ。いくら実力が逆でも上級生が試合に出るのは当たり前である。でも真紀はこれまで一生懸命頑張ってきた自分を否定されたようで納得できなかったのだ。
このままでは真紀がソフトボール部を止めてしまうのでは?
優香は心配になり何度も真紀を練習に誘うが真紀も折れない。
勝気な性格が裏目に出たようだ。
後から聞いたことだが当時真紀の両親が離婚問題で揉めていたらしく、ソフトボールだけが生きがいだったようだ。
それなのにエースと認められないことに、真紀は納得できなかった。
自棄になった真紀は同じクラブ内のヤンキー娘、山本理央とつるむようになった。
それは先輩が引退した後も変わることはなかった。
でも今日は大事な練習試合。部長の優香は真紀をなんとか説得し、引っ張り出したのだ。
当然ヤンキー山本理央と一緒に。
「きっとうまくいく。」部長の優香は久しぶりに真紀とバッテリーが組めることを喜んでいた。それは真紀も同じだった。ソフトボールが嫌いになったわけではない。引っ込みがつかなくなって練習には出ていないが、退部したわけではない。こっそり練習もしていた。ソフトボールへの情熱はしっかり残っている。
「また頑張ってみようかな。」真紀はうれしそうな優香の笑顔を見て心の中でつぶやいた。
今日の相手校は少し山間の、悪く言えば田舎にある高校だ。
ソフトボールの用具やお弁当・飲み物など荷物が多い上に交通の便が悪い田舎の学校へ行くので、マイクロバスをレンタルすることにしたのだ。免許は学生時代にバイトの都合で取っていた。
学校を出てかれこれ1時間くらい走っているが、もうすぐ着くはずだ。
峠道の頂上付近に差し掛かると工事中の看板が見えてきた。
前方にトンネルがあるが、バリケードで封鎖されている。
「なんだ、通れないのか?弱ったな。」
工事中のトンネルのすぐ隣に脇道があり、そちらにも古びた小さなトンネルがある。
古びたほうのトンネルは周りから木の枝が覆いかぶさり、ツタのようなものが絡まっている。
仕方ない。あちらを行くか。
「あのトンネルなんだか気持ち悪い。」優香がつぶやいた。
「優香は心配性なんだよ。」すぐ後ろに座っている田中桜が気楽に答える。
俺も嫌な感じがしたがそこは大人を見せる。
「田舎の山間のトンネルはこんなものさ。」
近くに回り道などないので進むしかない。
トンネル内はほとんど照明もなく薄暗い。そのうえ狭くて圧迫感がある。
前後には1台の車もいない。
子供のころにお爺さんに聞いた<防空壕>を思い出した。
「あっ!」とか「きゃっ! 真っ暗ぁ。」とか「うへっ。怖ーっ」とか
先ほどまでおしゃべりしていた女子たちも急に暗くなってびっくりして声を上げた。
しばらく進むと前方から光が差してきた。光が見えるとホッとする。
「出口かな」と思っていると、どうも違う気がする。かと言って対向車のライトでもないようだ。
進んでも光が大きくならないのだ。
しかもふわふわと揺れるように浮かんで見える。
流石に気味が悪くなり、アクセルを緩める。
「あの光はなに?」「なんだかおかしいよ!」
優香と桜が乗り出すように前を見ている。
後ろの子たちも光に気づいて騒ぎ出した。
俺はマイクロバスをゆっくりと停車させハザードランプを付けると、部長の優香に
「降りて見てくる。みんなこのまま車の中で待っていてくれ。」
と言って運転席から立ち上がった。
「先生。行かないほうがいいよ。」「そうよ、引き返そうよ。」
優香と桜に言われて考えるが、ここでじっとしているわけにはいかない。
かといってトンネル内でマイクロバスがUターンできるほど広くもない。
暗くて狭いこのトンネルをバックで戻るのも自信がない。事故でも起こしたら大ごとだ。
しかたなくバスから降りようとしていると、優香たちが叫んだ。
「えっ!あの光近づいてきてる。」「うそ!嫌だ。」
俺たちは金縛りにでもあったように光を凝視したまま動けなくなってしまった。
光はどんどん迫ってきて、あっという間に、目の前にくると大きく膨らんでマイクロバスを包み込んだ。
何もできないまま、俺たちは気を失ってしまった。