神代のシークレット〜彼が神代と呼ばれるまで
「プハァーー!!」
シークレットが満足そうに酒を飲み、飲み終えるとジョッキをテーブルの上に置いた。シークレットは口周りを拭い、つまみを口に放り込む。
「酒なんざどれも同じだと思っていたが……断然美味いな。酒の街っていうのも伊達じゃないな」
一緒に同席している彼の監視役、セシル・リベラールも頷いた。
「ホント、美味しいわ。流石はギンジョーね」
ここは酒が名物の街、ギンジョー。今回はギンジョーの近くで凶悪なモンスターが現れたとのことで、いつものように即行で討伐を終え、2人はギンジョーにある酒場で飲んでいた。王都からは随分と離れているため今日は宿で泊まり、明日王都へ戻る予定だ。
セシルが監視役になってかれこれ2ヶ月が経っている。意外と長続きしており、他の冒険者達やギルド職員達からも驚かれた。殆どの人は早くに辞退されると思っていたらしく、賭けている者までいた始末で「賭けに負けたー」って嘆く冒険者も見かけた。失礼な話だ。
少しずつ酒が進むと、段々セシルがシークレットに絡み始めた。顔が赤くなっている。呂律も回っていない。一方のシークレットは全く変化がない。彼はいくら飲んでも酔うことはないからだ。その原因は神代魔法にあった。神代魔法を修得するとその修得した属性が一切無効になる。そのため、炎の神代魔法を修得すれば火の海に突っ込んでも無傷だし、水の神代魔法を修得すれば水の中でも問題なく活動出来る。シークレットは毒の神代魔法も持っているので酒で酔うことが無いのである。酔えないのは少し残念な気もするが、味の良し悪しくらいは分かる。
「そういえばシークレットってえ、ろうして神代魔法を覚えようって思ったの?」
「…………セシル、君酔ってるな。良い加減そろそろ休め」
シークレットはそう言いながらセシルを背負い、金を払うと店を出た。そして、宿屋に2部屋借りると、そのうちの1室にセシルを放り込んだ。
もう1室に入ってベッドに腰掛けると、シークレットはセシルがさっき何気に尋ねた質問を胸の中に反芻する。シークレットは白いローブを脱ぎ、下の服も脱いだ。
すると、肌が露わになる。彼の胸元には大きなバツ字の傷が痛々しく残っている。その傷を眺めてシークレットはポツリと呟いた。
「俺が神代魔法を覚える理由ね……それは………」
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今からおよそ20年以上前のこと……
海に瀕した小さな村があった。この世界は御神クロノソトースが時間と空間を操り、作り上げたとされ、彼の15の子は様々な属性を作り上げたとされ、街や村、国によって信仰している神は変わるが、この村ではそのうちの1つ、海王神を信仰していた。そして、この村では数年に1度、海王神に生贄として小さい子供を海に沈めるという風習があった。
その生贄に選ばれたのは黒髪のまだ小さな男の子だった。少年は胸に大きな傷を付けられ、海に沈められた。少年は泣き喚き、踠き、必死に助けを求めようとするがどうにもならず意識は闇へと沈んでいった。
「ケホッ、ケホッ………」
少年は咳き込み、薄らと目を開ける。そこには青髪の美女がいた。だが、すぐに彼女は人間ではないことが分かった。なんというか……全身が光り輝いているのだ。美女は口を開いた。
「気が付いたみたいね。あなたみたいな子供が何でここに?」
話によると、この美女名はラメールといって、海王神とのことだった。なんの因果か知らないが、少年は偶然海底にあった海王神の大迷宮まで流されたみたいだ。
少年はまだ幼く、自分の年齢は愚か、名前も満足に言えないくらいだった。でもラメールは少年に何があったのか根気強く聞いてくれた。そして、話を聞き終えると何故か黒い笑みを浮かべていた。
「仕方がないわね。折角だし、あなたには独り立ち出来るように私の神代魔法を教えてあげるわ」
これが少年と海王神ラメールの出逢いだった。ちなみに、十数年程経ってから知ったことだが、海沿いにある小さい村がそのくらいの頃に大きな津波に巻き込まれて無くなったらしいが、細かいことは知らない。
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それから少年はラメールの元で育てられ、言葉や文化、神代魔法を教わった。少年の真っ黒だった髪は神代魔法を使う度に段々と白く染まっていった。ラメール曰く神代魔法による副作用らしく、一部分を残して白髪になってしまうらしい。
そして、今から10年前、少年を育て、彼に神代魔法を教えてくれた海王神ラメールは突然姿を消した。
水の神代魔法の最後の技を教える前に。残されていた書き置きには要約すると「あなたももう独り立ち出来る年だから大迷宮を出て世界を見てきなさい。そして、私にまた会いたいのなら世界に散らばる全ての大迷宮を制覇し、15の神代魔法を修得してからです。そうすれば会います。あなたなら出来るよね?」と書いてあった。
断じて唯ラメールに会いたいからという訳ではない。水の神代魔法の最後の技を得るためだ。それに、「出来るよね?」とまで書かれているのにやらなかったらまるで出来ないようで、そう思われるのは癪だった。
こうして少年は全ての神代魔法を修得する旅に出たのだ。
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少年は大迷宮を出て行くとまずは近くの街にあったギルドで他の大迷宮の場所を聞くことにした。神代魔法には全部で15種類の属性があり、それぞれ大迷宮を攻略し、試練をクリアすればその属性の神代魔法を修得することが出来る。少年がまず攻略しようと思っていた神代魔法は煉獄神、炎の神代魔法だった。
ラメールの元にいた頃に魔法の属性についての勉強もした。水に1番相性が良いのが炎だ。
ギルドで大迷宮の場所を尋ねると酷く驚かれた。一応現時点で発見されている大迷宮の場所は教えてくれたが、馬鹿にしているというのが見え見えだった。そして、冒険者登録をしないと入れないそうなので仕方なく冒険者登録を行うことにする。無料で出来るのは有り難かった。
1番困ったのは意外にも名前だった。それというのもラメールと暮らしていた時はずっと名前で呼ばれることがなかった。「坊や」とかそうやって呼ばれていたからだ。
少年は少し考えると、名前を決めた。自分の名を。
シークレット…………それが新人冒険者の名だった。
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そして、シークレットはモンスター討伐依頼を受けたり大迷宮を攻略して新たな神代魔法をいくつか修得していくうちに、冒険者の中では最高位とされるS級冒険者への打診が来るようになった。
ギルド本部のお偉いさんだという人からも頭を下げられた。正直、そんなものに全く興味が無かったのだが、提示されたものが非常に魅力的だった。
現在判明している大迷宮の場所の情報提供。それでもまだ11しか場所は分かっていないらしいが、有り難い。
なのでシークレットはS級冒険者になることを承諾した。自分はモンスター討伐依頼と大迷宮攻略しかやらないということを条件として。
シークレットが冒険者になってかれこれ10年、彼は全体の半分……8つの神代魔法を修得した。そして、修得した神代魔法で圧倒的な強さを見せつけるその姿から、人々はいつしか彼をこう呼ぶようになった。
神代のシークレット………と。
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シークレットは少し過去を振り返り、自分の拳を眺めるとおもむろに強く握り締める。
普通とは大きくかけ離れた人生だとは思う。だが、後悔も何もない。何度も死ぬ思いをしてようやく今の自分があるのだ。後悔などするものか。
「待ってろよ、ラメール。いつかあんたをギャフンと言わせてやる」
シークレットはそう呟くと不敵な笑みを浮かべた。
前作「神代のシークレット」も是非どうぞ!