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幼馴染だった過去

久部家両親の馴れ初め

作者: 久部 有里

「ユーリくん、結婚しない?」


 まだ私が就職して間もない頃。といっても30歳間近(アラサー)

 突然そう切り出した相手は、よき友人であった久部(くべ)由利(よしとし)くん。


「どうして突然そんな話になるんですか?」

「いい相手はいないのって親がうるさくって」

「はぁ」


 平日夕方にこうして食事をするくらいには親しい異性だった。

 面倒そうな相槌からして、彼は乗り気ではないのかもしれない。


「同居しても苦にならなそうな入籍できる相手(異性)って、あなたくらいだったのよ」

「へぇ」

「で、ユーリくんが嫌でなければ」

「いいですよ」


 酒の呑めないユーリくんと呑めるが好かない私の食事は、深夜まで開いているファミレスと相場が決まっている。

 彼はドリンクバーのカプチーノへ口を付けた。


「……私から言い出したことだけど、そんな即決でいいの?」

「ボクも似たようなものです。そろそろ身を固めなさいと言われるんですよ。

鈴形(すずなり)さんなら構いません」


 そうして二人の合意は成った。


「以後よろしくお願いします」


 彼が深々と頭を下げるものだから、私もつられてしまった。


「いつ籍を入れましょうか」

「形は整えたいから、同居してからね」

「同居先は新居を探しますか?」

「私のマンションに来ない? 部屋なら余ってるから個室対応可能よ」

「早いうちに伺いますね」

「今週末にでも空いてたら」

「ではそうしましょう」


 ユーリくんは手帳を取り出して書き込んでいた。


「ボクのアパートも作業部屋として残しておいていいですか?」

「あなたの好きにして。あなたの収入から家賃を払っていく気でしょう?」


 もちろん、というように彼は頷いた。


「まぁ、女でもつれ込んだら何か言うかもしれないけど適当に流してちょうだい」


 関心がないというよりも信頼の証である。


「基本は作業だけですから、関係者が来るかどうかですよ」

「一応場所だけ把握しておきたいから、そっちも見せてもらえる?」

「構いません」


 場所はここです、と端末の画面を示されて、私のマンションの場所とそれほど離れていなかった。


「週末に、先にあなたの方へ伺ってもいいかしら?」

「了解です」


「それで、結婚の前にいろいろ合意を形成しないといけないと思うのだけれど」

「はい」

「まずは名前、どちらかに統一しないといけないわよね」

「どちらがいいですか?」

「仕事ではこのまま名乗る気だけれど、正直受け継ぐ遺産とかもないし、特に変えたくない理由もないわ。ユーリくんの方は? ご実家、農家さんじゃなかったっけ」

「実家は畑が広いだけのほとんど一般家庭ですよ。農業の収入はほとんどないはずです。姉の旦那さんちが酪農やってるので、そこの手伝いに出かけることはありますが。

 うちも特に受け継ぐべき資産はないです。」

「どちらでもいいなら、画数の少ない久部にしましょう。」


 これで一つ、大きなものは決まった。


「式は挙げたいですか?」

「面倒なんだけど」

「ボクもです」

「対外的には挙げたほうがいいのかしら」

「ドレス姿は見たいですね。仕立てますよ」


 洋裁のできる夫というのは貴重だと思うのだ。ユーリくんならパターン(型紙)も作れるし、それなりの完成度だということも知っている。

 頭に浮かんだものを立体に仕立ててもらえると改善点も判りやすい。自分で仕立てるとどうにも詰めが甘くなりやすい。


「お金も時間もかかるじゃないの」

「ボクがお金は出せますよ。ちょうど知人の勤めている式場でモニターを探しているところがありますし、そこなら撮影とアンケートに応じれば格安で済むので」


 残り少なくなっていたサラダをユーリくんが平らげる。


「……挙げたいのね」

「鈴形さんのドレス姿が見たいです」

「呼び方、下の名前にしてちょうだい。そのうち面倒になりそうだから」

「そうですね。判りました。ユリさん、でいいですか?」

「OK。」


 あまりに恥ずかしげもなく呼ばれるものだから面食らってしまったのは内緒にしておきましょう。


「そろそろお開きね」


 伝票をとって立ち上がるとユーリくんも着いてくる。


「半分出しますよ」

「きょうは私が出すわ。そのかわり、週末はお昼期待してるわね」

「了解です」


 その週末から同居を始めて、不意に婚約指輪を渡されて。

 お互いの両親への挨拶をすませてから式を挙げた。

 トントン拍子に進んでしまって、今に至るまであまり自覚はない。


「こどもが欲しかったりしたらごめんなさいね。仕事の兼ね合いもあるし、愛情を持って接するって難しいのよ」


 弟の子ども、つまり姪っ子が産まれたときに私は言った。


「ボクも支えられますからね。子育ては女性だけのものではありません」

「欲しいんだ」

「いたらかわいいでしょうね」


 義理の妹や姉が子を身ごもったときも、同じ会話があった。


「一人で寂しくないかしら」

「きっと大丈夫。お友達もできるし、ボクたちもいるでしょう」


 私が身ごもったときのユーリくんの喜びようは、いままで我慢していたのかと思わせる。


「仕事はしたいだけ、できるだけ続けてね」


 産まれてからの子育ての大部分は彼が担ってくれた。元々家事は任せっきりだったけれど。

 仕事も融通して早く帰って子どもを迎えてくれたし、この部分は近くに住んでいた弟の奥さん(義妹)ママ友(澄華)にも助けられた。助け合いって大事だ。子ども抜きでも、いまも交流は続いている。

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