腰なんて痛くないよ!
刀と刀が交差する音が屋内に響き渡っていた。
一人の少女と赤い仮面をかぶった者が刀を使う激しい戦闘を繰り広げていた。
少女の名前はアウラ・ピイン。短めで、少し跳ねがある赤茶色の髪と、笑顔が似合いそうな可愛らしい顔は今、一瞬の油断もならない戦闘の中、真剣な表情を見せていた。
アウラは黒色を基調とした戦闘服に身を包んでる。対して、赤い仮面をかぶった者(赤仮面)はミリターリーローブを身にまとい、素早く刀を振り続けていた。背丈は小さめのアウラと比べても大きく、男性だと一目でわかる。
形勢はアウラが優勢に見える。
戦闘は刀のぶつかり合いから、かわし合いになった。お互いが斬撃を繰り出すも、お互いはそれらを次々にかわしていく。
アウラは赤仮面の隙を見て、さっと身を屈めて接近し、刀を下から上へ勢いよく斬り上げた。
赤仮面は攻撃に反応が遅れた。斬撃は赤仮面に届く…………はずだった。
「あ!」
アウラは突然大きな声をあげ、硬直した。刀は赤仮面の腹部ぎりぎりで止まっていた。
赤仮面はアウラのその状況に、同じく硬直した。それまで続いていた激しい戦闘はピタリと止まってしまった。
「大丈夫?」
赤仮面がアウラに言う。アウラは苦しそうな表情をしていたが、無理やり笑顔を作り、苦笑いを見せた。
「へ? だ、大丈夫。腰なんて痛くないよ」
「本当に?」
「本当。だけど……このままにしてください……」
アウラは何も言わずに刀を赤仮面に渡す。赤仮面はそれを受け取る。
赤仮面が仮面を外した。その中から現れたのは、清潔さと頼もしさを見せる青年だった。髪は短めに整えられ、キラキラと汗を見せていた。
青年はがアウラの腰にさしてある鞘外して、アウラの刀を納刀、自身の腰へさしなおした。
「飲み物でもとってくるよ」
青年がその場から離れる。その間もアウラは中途半端に中腰の格好で、石像のように止まったままだった。青年へ返事もできないくらい、微動だにできない状態だった。
アウラにペットボトルの水を渡す青年。渡すというよりも動けないアウラの右手にボトルをさしただけのように見える。
「おせわになります……」
青年はアウラのそばに座って水を飲みだす。
アウラは以前、右手に水を持った石像のごとく動かない。
「落ち着いた?」
「もうちょっと……」
その時、携帯の呼び出し音が響き渡る。それはアウラの体から聞こえてくるものだった。
「ごめん……出てくれる?」
「どこ?」
「後ろポケットの中……。動けないからってエッチなことしないでね」
アウラは自分で言っておきながら顔を赤くした。
「はいはい」
青年はなんてことなくアウラの後ろポケットから携帯を取り出し、電話に出る。
「アウラ・ピインの携帯です。…………はい……はい……了解……失礼します」
すぐに電話は切れた。
「司令官からです」
青年は少し意地悪な笑顔で言った。
「こんな時に…………」
アウラはそうつぶやくが、やっぱりまだ動けなかった。
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本編「魔女と呼ばれた少女…………」の更新もあるので……