えんこい8
そんな感じでずっと続いていた文通だったが、7月に入る頃、私が出した手紙を最後に緑川からの返信が途絶えた。もちろん、電話も無かった。
初めの頃は、私もテストがあったりしてあまり気にして居なかったが、夏休み直前になると暇になって来て、
「もしかして…何かやらかした⁈」
と考えるようになった。
恋愛要素の無い会話や手紙だったけど、私が夏目くんの事をあまり考えずに居れたのは、悔しいけど、じゃなくて、有難いことに緑川の存在が有ったからだった。それは確か。だからこそ、今この音信不通の状況を寂しいと感じてて、何かやらかしたのかって不安になっているのだ。
「予選始まったから余裕無いんだよ。」
と、カノは言ってくれた。
「うん。そうだと思う。」
私は明るく返したが、今までは試合の後とか落ち着いたら手紙くれてたのになぁ…って思ってしまっていた。
緑川と音信不通になって気付けば3週間も経っていた。
いつもならカノ達と勉強会と言う名の女子会をしたりしてから帰っていたが、ここ何日かは早目に帰ってポストを覗く日々を送っていた。別にいいんだけど、なんて強がってみたりするけど、やっぱり寂しい…
今日も何となく早く帰ろうと思って駅に向かっていると、
「おっ!一緒に帰ろー!」
と、後ろから声を掛けられた。この声は…
「丹波じゃん。」
何となく落ち込んでる時の丹波は、正直有難い。ずっと話してくれてるし、まぁ楽しいし。1人で電車に乗って帰っていると気が滅入る時があったから、本当に助かった。
けど、まぁ、丹波だよね。良く喋るわぁ。駅に着いても、電車に乗っても、ずっと話していた。内容は、まぁ有ってないような物ばかりなんだけど。
別れるまで丹波パワーを堪能した私は、夕方とは言えまだまだ暑かったけど、いつもより自転車を漕ぐ足取りが軽く感じた。
丹波のおかげか、もうすぐ夏休みだからかは分からないけど、私の気の滅入りも軽減されて来た。気がしていた。
それに、なんてゆーか、悩んでも仕方ないし。だって、やらかしちゃったんなら後戻り出来ないし。謝りの手紙書いてもいいんだけど、何をやらかしたのかが分からないし。とゆーか、全てにおいてやらかしている様な気がしちゃって、もう本当に自分が嫌になる…
ブブッブブッ
寝るつもりで耳元に置いたポケベルのバイブ音だった。手探りでポケベルを探し当て、内容を見た私は、慌てて電話の子機を取りに行った。
『イマ デンワイイ?』
緑川からだった。
『ウン』
子機の準備を終えた私は、緑川にそう返信した。
かかって来るまでの数分、私はドキドキして、数分なのに長く感じた。
プル…って聞こえてすぐ、私は通話を押した。
「ははっ!いつもながら出るの早えーな。」
緑川の明るい声が聞こえた。
「うん。」
私はそう答えるのが精一杯だった。…やばい。久しぶり過ぎて緊張する。
「うん。って、なんだそりゃ。」
私の緊張とは違い、緑川は相変わらずな感じだった。それが嬉しかった。
「まーいーや。なぁ元気だった?」
「え?あー、うん。元気。緑川は?」
「なんだよ、そこは寂しかったとか、嘘でも言うところ!」
何故か怒られた…いや、今寂しかったって言っちゃうと嘘じゃないからなぁ…なんて緑川には言いたくない。
「はい。すみません。」
私がそう言うと、
「謝るんだ。」
と言って笑われた。なんだろう、今日の緑川、今までよりテンション高い気がする。
「久しぶりだね。」
私がそう言うと、
「あー、そう。実は予選始まった時から、願掛け?みたいな感じで、連絡取るのやめてた。」
と、緑川は言った。
「願掛け?」
「おまえに連絡するの我慢するから甲子園行かせてくださいって。」
「え。何それ。」
それで今まで連絡してくれなかったって事⁈
「じゃあ、甲子園行き決まったの?」
私は複雑な思いもあったけど、決まったのだとしたら嬉しかった。
「いや、実は明日決勝。」
「…え?願掛けは?」
「いやー、明日勝ったら連絡しようと思ってたんだけど、なんかやっぱりねー。」
やっぱりって何⁈ってゆーか、
「これで行けなかったら責任感じちゃうんだけど。」
と、私が言うと、
「そう言うと思った!」
と、明るく返された。
「俺、今回はスタメン入れてもらえたから、絶対勝つから。」
緑川は力強くそう言って、
「だから、応援してて。」
と言った。
「うん。応援してる。ってゆーか、ずっと応援してるよ。」
「おう!明日頑張るわ!」
「頑張ってね!」
そう言って電話を終えた私は、何もやらかして無かったと言う安心感から、爆睡することが出来た。
そして、次の日。
緑川からの電話は来なかった。




