かたこい 13
夏目くんの無邪気過ぎる言い方に、他意はないって言い聞かせているけど、言い聞かせてるけど、今のはかなりやられた。
小学校の人達はみんな呼び捨てだった流れで今もそうだけど、それ以外の人は呼び捨てにはしていない。名字にくん付けだ。
例外は、彼氏だったダイキだけだ。
だから、私には名字じゃなくて名前を呼ぶのは特別なことだった。いつか夏目くんの事だって、名前で呼べる日が来たら嬉しいってずっと思っている。
そして、私の事も名前で呼んで欲しいって思っていた。
だから夏目くんに、
「名前言って欲しかった」
なんて言われたら、私の心臓はバクバクを通り越して噴火状態になってしまった。
「あれ?もしもーし」
私が興奮を抑えようと話せないでいたら、夏目くんが、
「切れちゃったー?」
と言って来た。
私はちょっと自分の気持ちを止めれなくなって、
「夏目くん、そんな言い方されたら私勘違いしちゃうから、好きになっちゃうから、ちゃんと違うよって言って。」
と勢いで言ってしまった。
今度は、夏目くんが黙ってしまった。私は、ハッとした。そりゃそうだよね。無邪気に言っただけなのに、好きになっちゃうとか言われたら困るよね。
私は自分の発言を反省したけど、何と言っていいか分からず焦っていると、
「いやー、そっかー、うん、やっぱり面白い人だよね。」
と、夏目くんは言って、意味が分からずにいる私を気にせず、
「とりあえず、化学の課題の話、しよっか。」
と話題を変えた。
私は気持ちの整理がつかないまま、夏目くんのペースに飲み込まれていき、気付けば答えを読み上げていた。
「私さっきから読み上げてばっかりだけど、夏目くんってもう全部終わってるの?」
私が聞くと、
「あれ?それ聞いちゃう?」
と、夏目くんはバツが悪そうに言って、
「こんなん半日くらいで終わるわけないじゃーん!」
と叫んだ。私も笑って、
「だよねー何問やったの?」
と聞くと、
「30問くらい。もう疲れちゃった。」
と、夏目くんはため息と共に言った。
「30問もやったなんて偉いねー!」
私がびっくりして言うと、
「あれ?もしかして1問も自力でやってないの?」
と、今度は夏目くんが驚いて言った。
「え。だって化学勉強したくないんだもん。」
「うわー!ズルイ‼︎俺もそんなにーちゃん欲しい!」
「え〜変人だよー?」
「にーちゃんK大だっけ?K大って変人多いの?」
「ん?なんで?」
「俺の部活のOBにもK大行った人いるって聞いたけど、変人だったって先輩言ってた。」
「あ、それ、お兄ちゃんと友達の事かも。」
「えっ!にーちゃんOBなの⁈」
「夏目くんみたいに真面目に部活してなかったと思うけどね。」
「知ってる知ってるー」
夏目くんは笑って言って、
「はい、次35番お願いしまーす。」
と、話を課題に戻した。
「ここ、まだ解いてないとこ?」
私が聞くと、
「そ。だからゆっくり目でお願い。」
と夏目くんはサラッと白状した。
「はーい。」
と私は笑って言った。
こんな感じで、雑談を交えながら、2時間近く、夏目くんと電話をしていた。夢みたいな時間だった。
でも最後まで、勘違いしちゃうよ、って私への答えは無かった。
夏目くん的にはどう言う事なんだろう。恋愛関係の話はしたくないって事なのかな。今まで朝も、そんな会話は皆無で、私も出来るだけ振らないように気をつけてきた。恋愛の話になって得なことなんて私には無いって分かってるからだった。
でも、怒ったりはしてないと思う。電話だから表情が分からないからなんとも言えないけど、声の感じからは怒った感じは無かったと思う。
なんだろな、私は楽しかったし本当にいい時間だったんだけどな。あんな事言っちゃった後悔は、無くはないけど。言われた事は勘違いでもいい。私が勘違いしちゃってるだけでもいい。それで今は幸せな気分でいられる。




