ながこい 3
修学旅行が終わると、梅雨入りした。
あの出来事以降、私達は特に何事も無く、私は梅雨と同じ様なすっきりしないドキドキを持ったまま、学校生活を送っていた。
梅雨も明け始めた頃のある日の放課後だった。
その日は天気が良くてみんなさっさと帰ってしまい、放課後の教室には、先生の手伝いを頼まれた私とシイだけが残っていた。
私の学校は、クラス委員を前期と後期で分けていて、私は前期のクラス委員をしていた。シイは私に付き合って残ってくれていたのだった。
仕事が終わってからも、何となくクラスに残ってシイと話していると、
「あれー?何やってんのー」
と言って、同級生の男子が2人、教室に入ってきた。リュウヘイとジュンペイだった。
2人は、クラス委員と同じで前期と後期で分けられている、前期の生徒会の役員をしていた。ジュンペイは書記で、リュウヘイは会計だった。因みにそのちゃんも、イヤイヤながら(笑)女子の副会長をやっていて、書記の女子はサワンだった。
突然の2人の登場に、私とシイは、
「びっくりしたー!」
と、声を揃えて言った。揃ったねーと2人で笑っていると、
「オレの事、待っててくれたのー?」
と、リュウヘイが言ってきた。
実はリュウヘイ、フジがはるちゃんを好きなのと同じ様に、私の事が好きだと、みんなが知っているのだ。
私も慣れていて、
「残念、先生の手伝いでしたー」
と、軽く返すのだった。
「2人は生徒会?」
と、シイが聞くと、
「そうそう。今日見廻り当番なんだけど、天気いいからみんないないじゃん。だから、時間早いけどさっさと見廻って帰ろうと思ってさ。」
と、ジュンペイが答えた。
生徒会役員は交代制で、最終下校時刻の20分前に各教室の鍵チェックをしてから帰るという仕事があるのだ。だから、クラスに残って遊んでいても、見廻りが来たら帰らないといけないと言うのが、私の学校のルールだった。
だけど校庭では、帰りの放送が流れるまで遊んでも良かった。だから、今日も校庭からはたくさんの児童が遊んでる声が聞こえてきていた。
今は夏前なので下校時刻は5時だ。まだ1時間近くあった。
「だいぶ早くない?」
と不満を言うと、
「今日は役員会も無い日だから暇だったんだよー」
「生徒会室で暇してると、先生に掃除しろとか片付けしろとか言われるから、逃げて来た」
「あはは!なるほどね〜」
私達はしばらく他愛も無い話をして楽しく過ごした。リュウヘイには悪いけど、私はジュンペイとたくさん話せて、すごく嬉しくて幸せな時間だった。多分、シイも同じだったと思う。
シイとは嬉しい事にとても仲が良くて、毎日と言っていい程一緒に遊んでいたが、相変わらず恋バナはしていなかった。私のカンでは、この頃はジュンペイだ。
因みにシイは男子にも人気がある。はるちゃんを好きで有名なフジも、シイの事を好きだった時期があったし、ませガキの緑川もそうだったし、他にも数人、聞いた事がある。
シイはわがままな私とずっと仲良く付き合ってくれる、大らかで優しい子だった。私はシイの事が本当に大好きだった。
「そう言えば、先生の手伝いっておまえだけ?レンは居ないの?」
と、リュウヘイが聞いて来た。レンは男子のクラス委員だ。お父さんが町議をやっている地元では有名な家の息子で、いわゆる優等生だ。
「レンは今日は家の用事なんだって。残っても大丈夫か家に聞いてから来るって言ったから、シイが手伝ってあげるからいいよって言ってくれたんだよね。本当に助かったよ〜ありがとう!」
先生の手伝いとは、授業の作品を貼り替えると言う、超絶面倒くさいものだったのだ。クラスは20数人だが、私1人でやるには時間がかかる。
「まじで⁈シイありがとう‼︎」
と、なぜかリュウヘイがシイにお礼を言った。私達が不思議に思っていると、
「だってシイが居なかったら、レンとおまえが2人きりだったんでしょ?そんなの絶対見たくない!」
実は、私とレンは両思いだって噂があった。レンとは何かと一緒に係をやる事があったからだろうけど、2人きりになってもレンからそんな話をされた事ないし、私はジュンペイが好きだし、噂なんて当てにならないと思ってた。因みに、ジュンペイはそのちゃんと噂になっていた。噂は噂…だよね。
「リュウヘイ、あほだなー」
とジュンペイが言って、みんなで笑った。するとリュウヘイが、
「ねぇ、誰が好きなのか教えて!」
と言い出した。男女が集まれば、遅かれ早かれだいたいこの流れになるのだ。
「だってみんなオレのは知ってるじゃん、ズルくない⁇」
「リュウヘイは自分から言ってるから仕方ねーじゃん」
「そーだそーだ(笑)」
「えーっ‼︎」
どうやらリュウヘイはジュンペイの好きな人も知らないらしい。少年野球も役員も一緒にやっていて良く一緒に遊んでるのも見るけど、恋バナはしないらしい。ちょっと意外だった。って、私とシイもそうなんだけど(笑)
リュウヘイがあまりにしつこいので、クジを引いて当たりが出た人1人だけ、みんなに好きな人を教える事になった。
クジが4枚ある事にリュウヘイは不満を言ったが、ジュンペイがなだめながら無事にみんな引き終わった。
1枚だけ赤いハートが描いてある。
せーの!でみんな一斉にクジを開いた。
当たりはジュンペイだった。
「え〜、ジュンペイかよ〜」
と、リュウヘイは残念がったが、私とシイは喜んだ。この時ほどリュウヘイに感謝した事は無い。だって、リュウヘイのおかげでジュンペイの好きな人を教えてもらえるのだから。