うえこい 27
私の家では、暗黙のルールがある。それは、昨日のことは次の日持ち込まない。だった。だから、朝も普通に挨拶するし会話もする。恐ろしいくらい普段と変わらない。それはいい事だと思っている。
でも、昨日みたいに曖昧なままの状態で終わった時は、解決しないまま日々が過ぎて行く。私が部屋に行ったからなのだが、あのまま話しても意味は無いと思うし、今は仕方ないと思っている。
私は悪い事してるわけじゃないし、そもそも兄のH高の友達って、同級生よりいいイメージだと思うけど。それに、ダイキなんてキャプテンやるような人だし成績だって良いし!まぁ、ちょっと手は出して来るけど、それこそ普通でしょ!兄だってそうに決まってる!…考えたくないけど。
そんなこんなで、その会話がなされる事なく、ダイキとの約束の日になった。
その日はお互いに部活が午前にあったので、午後から約束をしていた。私は、ただ、出かけて来る。とだけ言って出て来た。母も、遅くならない様にね。とだけ言った。何も言われないのも怖いけど、まぁ気にしていられない。
ダイキは待ち合わせの駅の外で待っていてくれた。天気がいいので、桜が咲いているか見に、ちょっと大きな公園に行ってみることにした。
私は、ひょっとしたら兄がダイキに、あの夜の事を話してるかなと思ったけど、すぐ春休みに入ってしまったし、聞いてないかもしれない。
電車に乗って3駅くらいして、公園の最寄駅に着いた。公園までは15分くらい歩くらしい。駅を出ると、ダイキは手を繋いでくれた。私が嬉しそうにしたのを見て、ふっと笑って、歩き出した。
もうだいぶ春の暖かさを感じられる季節になった。ダイキは今日は制服の上を着ていなかった。新鮮で、ちょっとドキドキする。
「今日は暖かいなー」
とダイキが風を感じながら言った。私も、そーだね〜っと言うと、
「縁側のおじいちゃんとおばあちゃんみたいな会話。」
とダイキが笑った。私も、あははは!と笑った。ダイキとずっとこうしていれたら幸せなのになぁと思っていると、
「今、何考えてた?」
とダイキが急に言った。私がドキっとすると、
「俺も多分似たような事考えてた。と思って。」
とダイキが言った。
「え?本当?」
「うん。多分。」
私は嬉しくなった。そっかあ、一緒かぁって思うと、顔がにやけて来た。
「キスしたいって思ってたでしょー?」
ダイキが意地悪そうな顔をして言った。
「えっ!違う!私は違う〜」
私は焦って言った。そう思ってないのに、顔が熱くなった。
「あははは!嘘嘘。幸せだなぁって思った。」
ダイキはそう言って、
「でも、早くさわとキスしたい。さわの好きな方のキス。」
と言って、私の顔を覗き込んだ。私はドキドキして、顔を背けた。恥ずかしい。恥ずかしいけど、私も早くして欲しい…
桜はまだ咲いていなかった。でも蕾はパンパンな感じで、もう少ししたら咲きそうだった。来週には満開になってそうだ。その頃また来ようと、ダイキと約束をした。
この公園には、池の周りに一周2キロのランニングコースがあって、私達はそこを散歩した。
「そういえばさ、ジンから何か言われた?」
ダイキが聞いた。私はちょっと気まずかった。その雰囲気を感じたのか、ダイキが、どうかした?と聞いた。
「お兄ちゃんは全く言われないんだけど、…お母さんにも知られちゃって。」
「えっ、お母さんに⁇」
「そう。近所のおばちゃんが歩いてるの見かけたらしくて。」
「あー、そうなんだ。何か言われた?」
「…中学生らしくしてって言われた。」
「中学生らしく?」
「うん。私には良く分からないけど。」
ダイキは黙ってしまった。私も何となく、何を言ったらいいか分からなかった。素直に話さなきゃ良かったかな…
しばらくダイキは私の手を握ったまま、黙って歩き続けた。私は気まずいまま、ダイキのちょっと後ろを歩いた。時々、綺麗に咲いてる菜の花や、カラフルなチューリップが咲いていた。蝶も飛んでいた。暖かい春が近づいているのに、私達の空気は、なんだかまだ冬みたいだった。




