ながこい 2
そんな私の3年生から始まった片思いが動きを見せ始めたのは、6年の時だった。
今まで、校外学習や遠足のバスは1台で行っていたのに、修学旅行で県外に行くバスが、クラス毎になったのだ。
先生達は、
「いつもギューギューだったけど、修学旅行はゆったり座れるぞー!」
と、気を遣って?くれたようだが、私はショックだった。
私は5年になる頃にはもう、ジュンペイ以外を好きになる事は無くなっていた。だから、小学校最後のクラス分けでジュンペイと離れてしまった事は、本当に悲しかったのだ。
シイやミオとは同じクラスだったから楽しく過ごせれた。でもやはり、好きな人とクラスが離れてしまうのは悲しくなる年頃だった。
修学旅行の長い移動時間を別々に過ごすのは想像していなかったので、本当にショックだった。とは言え、修学旅行自体はとても楽しみだった。
修学旅行は6月にあって、主に歴史的建造物を見て回る一泊二日のバスの旅だ。私の住んでいた地域では一般的な、小学校の修学旅行コースだった。
修学旅行は快晴に恵まれた。始まってしまえば、バスが離れて寂しいなんて思いもどこへやら、ワクワクで胸いっぱいな私だった。
バスは先生の配慮のおかげで、1人2席確保出来る程ゆったりと座れて、バス酔いした子なんかも横になってゆっくり休めた。
はるちゃんと言う、4年になって転入してきた白雪姫みたいな子が、バス酔いが酷くて横になっていたら、そのまま寝てしまった。同乗していた養護の先生が、
「みんな、はるちゃんが眠ってるみたいだから、ちょっとだけ静かにしてあげてね」
と、みんなに促した。すると、
「おい、フジ、寝顔見るチャンスだぞ!」
と男子が盛り上がってしまった。
フジがはるちゃんを好きなのは、みんな知っている事で、私ももちろん知っていた。
フジは少年野球で日焼けした肌の持ち主なのだが、照れているのが分かるくらい、顔が真っ赤になっていた。
「知らね、オレも寝る!」
と言って、フジは目を閉じて寝たふりを決め込んだ。周りの男子も、フジが照れてるのを散々冷やかしてから、はるちゃんのために静かにし始めた。
女子は女子で、周りの景色を楽しんだりしていたが、朝早かったからか、はるちゃんが眠ってるのを機に眠り出す子もいて、バスの中はだんだん静かになっていき、私もシイも気付いたら眠っていたのだった。
1日目の行程ではクラス行動が多くて、ジュンペイと話す機会は全く無かった。それでもやはり旅行はテンションが上がるもので、私はとても楽しく過ごしていた。
その日の夕方は、お土産街での班行動だった。宿の前で班毎に集合した後、先生のいる各チェックポイントを回りながらお土産を買い、集合時間までに戻って来ると言うものだ。
普段子供だけで暗くなってから出歩く事は無いし、お小遣い以上のお金を持って買い物をする事など無かったから、私はとても楽しみだった。
この日は快晴だったが、梅雨入り間近な時期だったし、この街は盆地なので余計に湿度が高く感じて、蒸し暑かった。
「暑いね〜」
と、シイやミオ、班の子と話しながら歩いていたら、
「これ、貸してやろうか?」
と、有名な建造物の写真が印刷されたうちわが、私の頬にペチッペチッと当たった。私がびっくりして振り向くと、そこにはジュンペイがいた。
「さっきそこのお店で貰った。」
ジュンペイはそう言うと、私にそのうちわを渡してきた。
「えっ?いいの?使わないの?」
と、私が聞くと、
「後で返してねー」
と言って、班のメンバーの所に去って行った。
私は突然のジュンペイの登場と出来事にびっくりしてどうしていいか分からず、ドキドキを打ち払うかのように、受け取ったうちわでみんなを扇いであげていた。
私は思い掛けずジュンペイに会えたのと、話せたのと、うちわを貸してくれた事に、ドキドキが止まらなかった。にやけそうになる顔を抑えるのに必死で、何を買ったのかも覚えていないくらいだ。
集合時間になって宿の前で先生にチェックをしてもらっていると、ジュンペイ達の班も帰って来た。私はちょっと恥ずかしくて話しかけるのに勇気がいったが、思い切ってジュンペイに、
「ありがとう、涼しかった」
と言ってうちわ返すと、
「オレ暑かったー」
て、笑いながら受け取った。ジュンペイの笑顔に、私のドキドキは増しっぱなしだった。
すると、ジュンペイの近くにいたタツヤが、
「えージュンペイ、オレには貸してくれなかったじゃーん。ひでぇ〜なぁ」
と言い出した。
「おまえに貸したら壊されそうじゃん!」
と、慌てた感じでジュンペイが言った。タツヤは町内陸上大会の砲丸投げで入賞するくらい、身体が大きいのだ。みんなが笑う中、私は1人ドキドキを超えてバクバクしていた。
タツヤが苦情を言った時、ジュンペイはちょっと焦った感じだったし、暑いって言ってたのは私だけじゃなかったし…もしかして⁈何て都合良く考えてしまいながらも、イヤイヤ違う違う、たまたまだよ、と自分を落ち着かせていた私だった。