はつこい 4
「えっ?ど、どう言う事?」
私は持っていたゴミ袋を落としそうになった。
確かにあの時、男子は男子、女子は女子で、お互いに見えない様にジャンケンをしたのだった。
「あれはー、テラがおまえとキスがしたいって言ってたから、オレが考えてやった事なんでしたー」
と、悪びれも無く、緑川は言ったのだった。
緑川の得意げな言い方に、ちょっとイラッととしながらも、焼却場のおじさんにゴミ袋を渡し、任務を終えて教室へと向かう途中も、緑川は裏話を聞かせてくれた。
それによると、緑川は前からテラが私が好きだと聞いていて、テラと私が遊ぶきっかけを考えていた時に、学校で噂になっていた廃ビルの話でシイと緑川が盛り上がったのだそうだ。
そして、シイは私、緑川はテラを誘って行く事に成功したのだった。私とシイにとってのスリル探検は、男子にとってはどうでも良かったのだ。
私達にとってアンラッキーな雨降りも、緑川達にとってはまだまだ遊べる、ラッキーな出来事だったようだ。
そして、ませガキ緑川はキスを思い付いたのだった…
私が先に負けたら良かったのだが、シイが先に負けてしまったので、2回もやろうと言い出したのだ。
正直なところ、テラもシイが負けたのでどうしていいか焦り、シイにもキスをしてしまったようだ。
2回目は私が負けたので、3回目はやらなかったのだ。緑川が言い出したから、緑川がやりたいのかと、ちょっと思っていたけど、そうじゃなかった。
そして昨日、テラから私とのキスの話を聞いて、私の好きな人が誰なのかを聞きに来たのだった。
シイが緑川を多分だけど好きで、しかもファーストキスだったのを知ってる私は、複雑な気持ちで話を聞いていた。
「で?おまえは誰が好きなの?」
私は正直、もう忘れてるよねーと思っていたが、忘れてなかった…そうだ、緑川はしつこいんだ。
私は終始得意げに裏話を語る緑川に、
「緑川はシイが好きでしょ?」
と、反論してやった。
「えっ⁈」
急な反論に驚いた緑川に、私は、
「シイとキスするチャンスだったじゃん」
と畳み掛けて、話をそらそうとした。
ちょうど、掃除終了のチャイムが鳴った。教室へと近づいて来て人が増えてきたので、私は緑川の追及から逃れることができた。
教室に戻ると、みんなは帰りの準備を始めていた。
ロッカーからランドセルを出そうとしているテラと目が合った。あの日以来、初めてだった。私は恥ずかしくて、パッと目を逸らしてしまった。顔が熱くなるのを感じた。
もう一度見ると、テラはもう机に向かって歩いていた。
私のはつこいは、嬉しさと、切なさが混じったものになったのだった。