うえこい 5
消灯になると結構暗くなった。私は備え付けの毛布と自分のジャケットを布団にして、寝床を整えていると、岩井さんに肩をトントン、とされて、口パクで何か言われた。私は分からなかったので、⁇と、首を傾げた。すると、岩井さんは内緒話をするみたいにして、
「寒かったらジャケット貸すよ?」
と言ってくれた。
耳元で話された私は、ドキドキが止まらなかった。
「大丈夫です。」
と私は内緒話で返した。岩井さんは今度は指で丸を作って、オッケーとした。私は顔が熱くなるのが分かった。あたりが暗くて良かった。私はドキドキで寝れそうになくなった。
すると、岩井さんがゴソゴソし出して、イヤホンをして音楽を聴き始めた。だいぶ音を小さくしているのか、全然聞こえなかった。なんだろうなぁと思いながら目を閉じていると、急に左耳から音楽が聞こえ始めた。
「聴く?俺の好きな曲。」
と、また内緒話をして、左耳にイヤホンをつけてくれた。私も知ってるバンドだったけど、この曲は初めて聞いた。私の知ってるこのバンドの曲は激しい物が多かったが、この曲はバラードだった。ちょっと切ない、失恋の曲だった。
イヤホンを片方ずつにしていたので、普通にしてるより距離が近くて、私はずっとドキドキしていた。左側に力が入ってた。
曲が終わると、寝よっか、と岩井さんは言って、イヤホンを外してくれた。
「俺にもたれてもいいからね。」
と言ってくれたけど、私は恥ずかしくてそんなの出来ない!と思った。そもそも寝れそうに無いよ〜と思いながら、私も目を閉じた。
気付くと、ちょっとだけ照明がついて、
「30分のトイレ休憩になります。次のサービスエリアは運転手交替のみの為、トイレ休憩はありません。ご了承ください。」
とアナウンスが流れていた。
私は、はっとした。岩井さんにもたれて寝ちゃってた!うわぁ〜!と思って体を起こして岩井さんの様子をチラッと見ると、窓にもたれて寝ている様だった。私はホッとした。回りを見ると、かなちゃんもチエちゃんも寝ている様だった。チエちゃんも畑中さんにもたれているみたいだった。やっぱりそうなっちゃうよね。
私はトイレに行きたいなぁと思ったけど、カラオケの記憶がまだあって、ちょっと躊躇った。でもやっぱり行きたい!と思い、
「かなちゃん、かなちゃん、トイレに行かない?」
と、寝てるかなちゃんにコソッと声をかけてみた。が、反応が無い。女性も何人か降りてるみたいだし…人はそれなりにいるだろうし…1人で行くか。と、覚悟を決めてみんなを起こさない様に立とうとすると、手を掴まれた。
「降りるの?一緒に行くよ?」
と、岩井さんが体を起こして言った。私はドキドキした。
「ごめんなさい…起こしちゃいました?」
「大丈夫…行こう〜」
とコソコソと話してバスを降りた。
トイレにはまあまあ人がいた。岩井さんは出口からちょっと離れた場所で待っててくれた。
「ありがとうございました!」
「全然。」
岩井さんは笑顔で言ってくれた。カラオケの時のことを気遣ってくれているのは分かっていたけど、純粋に私は嬉しかった。岩井さんの後ろを歩いていると、
「あ、ジン。」
兄がテジとベンチに座っていた。兄はみんなに「ジン」と呼ばれていた。兄達は、おー。と応えた。
「あ、さわ。母さんにお土産買った?」
私に気付いた兄が聞いてきた。
「ばっちり。好きそうなの選んどいたよ。」
「了解〜」
と言って、兄はホット甘酒を飲んだ。それを見た私は温かい飲み物が飲みたくなった。
「お兄ちゃん、お金貸して。」
「えっ、やだ。自分で買って。」
「だって財布バスなんだもん。」
兄妹でやり取りしてると、テジが、
「俺が貸してあげようか?」
と言ってきた。すかさず兄が、
「さわ、やめとけ。テジの貸しは利子が付く。」
と言って、仕方ねーなぁ、と立ち上がって、
「どれ飲むの?」
と、自販機を指した。私は、わーい。と言ってホットココアを選んだ。すると、
「わー、ジンなんか兄ちゃんっぽい!」
と岩井さんが言った。兄は、えー?と言って、
「何?妹欲しいの?あげよーか?」
と、酷い事を言い出した。岩井さんは、
「いや、妹が欲しいわけじゃないから。」
と苦笑いした。私は酷い兄だ!とむくれていた。まぁ、でもホットココア買ってくれたからいっかーと思い直した。私達が話していると、かなちゃんとチエちゃん達も歩いて来た。みんな起きて降りてたみたいだった。
バスに戻ると、みんな寝るモードに戻っていた。到着まで後5時間くらいだと、アナウンスで言っていた。雪道走行だから安全第一なのだ。
私はかなちゃんが体勢を整えてから、自分の寝床を整えていた。私はさっきを思い出して、
「さっきもたれて寝ちゃってて、ごめんなさい。」
と、岩井さんに謝った。
「ん?大丈夫だよ。」
と言ってくれた。岩井さんはもういい感じに寝るモードになっていた。私は、さっき買ってもらったホットココアをカイロ代わりにして寝床を整えた。それを見た岩井さんが、
「それいいね。」
と言って笑った。私が、
「使います?」
と言うと、大丈夫だよ。と返ってきた。
しばらくして消灯され、また暗くなった。蓑虫みたいに毛布でくるまってるかなちゃんは、もう寝息をたてていた。私も早く寝よう〜と思って目を閉じた。ホットココアが温かい〜。
私がぬくぬくしていると、岩井さんが、
「やっぱりちょっとココア借りてもいい?」
と、私に聞いていた。私はもう寝てると思っていたので、ちょっとびっくりした。
「窓のさ、冷気がさっきより寒いんだよね。」
私は、なるほど。と思って、
「どうぞ。」
と毛布から出して差し出すと、
「このままで大丈夫。」
と言って、缶を持った私の手ごと握って、私の毛布の中にしまった。私はドキドキバクバクしていた。
「あーあったかい…」
と岩井さんは言った。私も温かいけど!バクバクが手から伝わってしまいそうだった。しばらく温まった岩井さんは、
「ありがと。」
と言って手を抜き、そのまま私の頭に回して、
「もたれていいよ。」
と言って私の頭を自分の肩に倒した。私はもう死にそうにバクバクしていた。




