らすこい26
食べ終わると、
「もう、時間遅いし、送るね。」
とキーチは言った。私は本当はまだ一緒に居たかったけど、キーチはこれから帰らないといけないって思うと、無理は言えなかった。
私はキーチに差し出された手を握ると、
「うん。」
と言って、立ち上がった。
もし、しんちゃんだったら、ここでしちゃいそうだなぁって考えてしまった。キーチはそんなタイプじゃ無さそうだからしないと思う。って、別にしたいわけじゃないってゆーか、ここではしたくないってだけで、部屋とかホテルとかなら全然ってゆーか…
って、したいからキーチとあってる訳じゃ無いんだけど、いやぁ、今ちょっといい雰囲気だったからさ、もう帰るって言うのが寂しいってゆーね。そう言う事です。
それに…未だに言われてないし。
こんなサプライズしてくれたから、期待しちゃうんだけど、未だに言われてない。
嫌われては無いと思うし、むしろ好かれてると思うんだよねー。だって、しんちゃんの時は付き合うって気持ちにならなかったけど、キーチとは付き合いたいって思うんだもん。私の経験上の話だけど、私、相手に気持ちがないと付き合いたいって思えないんだよね。だから、多分、キーチには好かれてると思うんだ。
だけど、もし、このまま言われなかったら、私は今日を最後にするって決めている。
だからこそ、もうちょっと一緒に居たかった。
帰り道、キーチの好きな音楽が流れる車の中でも、普通だった。この普通も、穏やかで好きだからいいんだけどね。
待ち合わせした場所まで送ってもらうと、やっぱり離れ難くて、ちょっとだけ、会話を頑張って引き延ばしてみた。
だけど、もうキッパリと離れないと。
「…今日はありがとう。嬉しかった。」
私はキーチに笑顔で言った。今日はやっぱり、言えないけど、明日には、さよならを言おう。
「じゃあ。」
私はそう言って、ドアを開けた。
「ま、待って!」
ドアを開けた手とは逆の手を、掴まれた。私は半分浮いた腰を、ボフンっとまた降ろす事になった。びっくりして、キーチの方を見ると、
「好きなんだ。さわちゃんの事。」
とキーチは言った。初めて、キーチから聞いた、好きだった。
「だから、付き合って欲しい。」
ずっと欲しかった言葉をを聞けて、
「うん!」
私は即答だった。もし言ってくれたら、ちょっとは焦らそうとか思ってたのに、嬉し過ぎて、キーチも戸惑う即答だった。
「…あ、うん。良かった。」
キーチはしばらく戸惑っていたけど、喜んでくれた。そして私に、キスをした。
その後、キーチは4月から就職でさらに遠くへ住む事になった。女性不信もだけど、この事もあったから、なかなか付き合ってって言えなかったらしい。
私と出会う前に就職が決まっていたし、勤務先も予想していたから、付き合うなら遠距離を楽しんでくれる人がいいと思っていた所に、プチ遠距離のヨシくんから、
「彼女の友達にいい感じの子がいる。」
と言って、あの時の合コンに誘われたらしかった。カノは何回か見かけた事があったけど、悪い印象ではなかったから、保留にしていたら、勝手に会場にされたと言っていた。
私の第一印象は、
「弱そう、大人しい、ちょっと変わってる。」
だったそうだ。話したりしてるうちに、
「可愛いな。」
って変わって来たけど、彼氏もいそうだし、様子見する事にしたらしかった。
別れたって聞いた時、
「遠距離はやっぱり厳しいのか。」
と思って諦めようとしたけど、別れた理由が距離じゃなかったから、頑張ろうと思ってくれたみたいだった。
それで、私の誕生日まで続いていたら、告白しようって決めていたそうだ。
「私は、今日言われなかったら、さよならしようと思ってたよ。」
私が暴露すると、
「危なかったー!」
と、キーチは言った。
そして、
「これからも、よろしくね。」
と言って、私を抱き寄せた。