らすこい25
誕生日当日。この日は金曜日で平日だった。とは言え、明日は土曜日でお休みだ。なのに、キーチからはなんのお誘いも無く…
確かにさー、キーチと誕生日の話をしたのは、初めて会った日とキーチの誕生日の時の2回しか無いし、もう随分と前の話なんだけどー。言えばいいのにって、話題にならない話を自分から言える人間じゃないんです。変なプライドってゆーか臆病ってゆーか…それで後悔した事たくさんあります。はい。分かってるんです。
でもやっぱりさー、サプライズとまでは言わないけど、キーチから話を持って来てくれた方が嬉しいなぁ。って夢見ちゃったんだもん!覚えていてくれたらなあー言ってくれたらなー祝ってくれたらな〜って夢見ちゃったんだもん。
でも、現在バイト終わりの夜9時過ぎなんですが、なんの連絡も無くて…やっぱり言わないとダメかなぁ…今日言われなかったら、さよならするって決めてるし…うーん…
家に帰ってからも連絡無くて、お風呂出ても連絡無くて…はぁ…ダメかぁ。
私は諦めて布団に入った。
もう、仕方ないよね。明日になったらキッパリと諦めて、新しい出会いを探そう。幸い、紹介してくれるって言ってる職場の子がいるし!今度機会があったら誘ってもらおう。うん、そうしよう。
ピリリリリリ…ピリリリリリ…
寝入りに着信音が聞こえてきた。ふて寝状態だったから、意識は直ぐにハッキリとした。暗闇の中手探りで携帯を見付けると、名前を確認した。キーチだった。
「も、しもし?」
ちょっと動揺したから、スムーズに声が出て来なかった。
「あ、さわちゃん。起きてた?」
「あー半分寝てた。」
「あ、そーなんだ。…ごめん。」
「ううん、大丈夫。」
「あの、こんな時間になっちゃったんだけど、今ちょっと出て来れない?」
「え?今?」
「無理しなくていいんだけど、大丈夫なら、会いたいなって。」
「うん!行く!」
会いたいって言葉が凄く嬉しくて、思わず言ってしまった。
本当は、もし連絡が来たら、ちょっと焦らそうと思ってた。だって昨日から、ずっとソワソワさせられてたんだもん。少しくらい意地悪したくなるじゃん。
だけど、実際には無理だった。コロッと、行く!って言っちゃった。
だって、嬉しかったんだもん。
キーチは花火の時に送ってくれた場所まで、もう来ていた。来る時に連絡くれてれば良かったのに。と思ったけど、今は我慢した。それよりも、来てくれた事が嬉しかった。
助手席側の窓を軽く叩くと、中からドアを開けてくれた。
「こんばんは。」
私が挨拶すると、キーチは嬉しそうに笑ってくれた。あー、ダメだよね、私単純過ぎ。笑ってくれただけで安心したし、嬉しくなった。
「ちょっとドライブしよう。」
キーチはそう言うと車を発進させた。
到着したのは、1番近い海水浴場だった。
ここは人工的に作られた海水浴場で、ちょっとした公園や広場も併設されていた。昼は賑わっているけど、夜は釣り人か、カップルか、騒ぎたい若者くらいしか居なかった。今日は騒ぐ若者は居なかったけど、週末前の金曜日だからか、カップルがたくさんいた。
車から降りてしばらく歩くと、キーチが手を繋いできた。今⁈とかも思ったけど、やっぱり純粋に嬉しかった。顔がニヤけて仕方ない。
キーチは空いてるベンチまで来ると私に座るように言ってから、
「ちょっと目を閉じててくれる?」
とお願いした。私は戸惑いながらも、素直に従った。
なんだろ、カサカサとかいろんな音と動きを感じる…ちょっと怖いな。
「キーチ、居なくなったりしないでね。」
私が目を閉じたままお願いすると、ちょっと笑ってから、
「しないしない、大丈夫。」
と言ってくれた。それから、
「はい。いーよ。」
と言われ、私はゆっくり目を開けた。
「ハッピーバースデー、さわちゃん。」
ちょっと照れ臭そうに言ったキーチの手には、ロウソクとプレート付きのケーキがあった。
びっっくりだった。
キーチがこんな事してくれるなんて、思っても無かった。
「あ、ありがとう…嬉しい。」
「遅くなっちゃったけど。ろうそく、消して。」
キーチにそう言われて、私は、ふーっと、ろうそくを消した。
「食べてみて。大学の辺りで有名なお店なんだって。」
キーチにそう言われて食べてみると、甘さ控えめで美味しかった。
「キーチも食べる?」
私が聞くと、キーチはしばらく考えてから、
「あーん。」
と口を開けた。その仕草が可愛くて、ちょっと笑ってしまった。